Neetel Inside ニートノベル
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 「朝……」
 目覚める、マルカ。今日からメイドとしての日々が始まる。はずではあった。
 「起きたか、おはようマルカ」
 「ん……おはよう、ございます……今は……11時!? す、すみません!!」
 時刻はすっかり昼前。初日からメイドにあるまじき大寝坊をしてしまい、マルカは慌てて着替えようと部屋を飛び出す。
 も。
 「待てい」
 「あうっ」
 首根っこを掴まれ、マルカはずるずると部屋に引きずり戻される。
 「いーけないんだーいけないんだー。まーんげつーにーいってやろー」
 「ううう……申し訳ありませんー……」
 ハルは例の、わざとらしい下卑スマイルでマルカに迫る。
 「げっひっひっひ。寝坊する悪いメイドはご主人様から罰を与えねば」
 「罰、ですか……」
 酷い事はされないとわかっていながらも、その響きにマルカは身を固める。
 「そうだ。たっぷりと相手をしてもらおう。ご主人様のなー!!」
 「ひっ、お……お手柔らかにお願いします……」
 彼の意地悪な態度に戦々恐々としながらも、ハルを信頼できる相手と信じるマルカは覚悟を決めた。
 ハルが叫ぶ。
 
 
 「ぷよぷよで勝負だ!!」

 「…………ぷよぷよ?」
 「ぷよぷよ」
 聞きなれない単語に、マルカはしばし考えこむ。
 「えっと……とりあえず私は身体を洗ってきたほうがよろしいですか?」
 「隠語じゃねぇよ! ゲームだゲーム!!」
 「ゲーム……と言いますと、負けた方が服を脱ぐとか、勝者の性器を舐めるとか……」
 「エロから離れろ! 性欲の権化かお前は!!」
 (ご、ご主人様に言われた……)
 性欲の権化に性欲の権化呼ばわりされたマルカは地味に落ち込む。
 「昨日ハッスルしすぎてちんこが勃たねーんだよ。親睦も兼ねて、今日は普通に遊ぶぞ。ほらこれだ」
 と言い、ハルは棚からスーファミを取り出す。
 「もしかして、これは……あの伝説の、テレビゲームっ!?」
 「やったことないの!?」
 驚くマルカに驚く、ハル。
 カルチャーギャップ。この国でも大体の子供はやってると思っていたが、マルカの育った環境を考えると当然と言えば当然だった。
 「日本じゃやったことない奴なんざ年寄りくらいだぞ……そっかー、初めてかー……」
 「ご、ごめんなさい……」
 「え、ここ謝る所? まあいいや、ルールは簡単、同じ色の丸っこいのを四つくっつければ消える。ひたすら消す。基本はそんだけ」
 ハルはテレビを付け、スーファミの電源を入れる。既にぷよぷよのカセットは入っていた。
 「ま、やりながら覚えりゃいい。ほいマルカ2コン」
 「あ、はい。頑張ります!」
 渡されたマルカは、ボタンを押してゲームをするらしいと言うことを理解する。
 だが、その手に持ったコントローラーは、十字キーが右、ABXYボタンが左、コードは下から出ていた。
 逆。
 「そっからかー……」
 「え?」


 「はっはっはっはっは。八戦八勝、久々の勝ち越しだ。弱い、弱すぎるぞマルカ」
 「ご、ごめんなさい……」
 ルールは覚えたものの初心者と(自称)中級者。
 勝負になる程度の手加減こそしているものの、大人げない大人代表のハルが負ける道理は無かった。
 「あんまり謝んなって。いーんだよ俺はマルカいじめて楽しいから。
 満月相手だと手加減しまくってくるし、『本気出せや! 飯抜きにすっぞ! 俺の!!』
 って脅したら十六連鎖とか意味わからねーことされて瞬殺されたからな……
 ……あれ、もしかしてお前楽しくなかったりする?」
 「そ、そんなことないです! 楽しいです……とても」
 負け続けとは言え、初めて体験するテレビゲーム。
 楽しいのは当然だが、一番に楽しいその理由は、
 「私と遊んでくれる人なんて、誰もいませんでしたから。すっごい楽しいです!」
 ……と言ったものだった。
 これまでの人生の中で、今が一番幸せ。
 そんな笑顔に、ハルは手を伸ばした。
 「ちょろい……なんてちょろいんだこのロリは……このちょロリめ! ちょロリめ!!」
 右手で頭を、左手で顎を撫でる。
 「ふあー……」
 こそばゆそうながらも気持ちよさそうに、マルカは目を瞑って身を任せる。
 「飯を貰って遊んでもらって、そんだけですぐ懐く! 犬か! お前は犬か!! 犬耳犬尻尾つけてドギースタイルで犯してやろうか!!」
 「優しくして下さいねー……」
 もはや警戒心の欠片もないマルカ。
 ハルは深い溜息を吐き出す。
 「はー……お前は本当に人を疑うことを知らん奴だな。おじさん将来が心配だよ」
 「おじさん……? いえ、私が信頼してるのはご主人様、ハル様だからです」
 自信を持って答えるマルカに、ハルはむ、と唸る。
 「確かに、ご主人様一人に引き取られたのなら私はまだ疑ってるかもしれません。
 でも、満月さんも一緒でした。最初は、満月さんの事機械のような人だなと思ってたけど、全然違いました。
 あの人も、ご主人様と一緒で、優しくてあったかい人です。
 その満月さんがご主人様の言う事を何でも聞くのは、きっとご主人様が悪いことをできない人だから。完全に信頼してるからじゃないかって思うんです」
 どうですか、とハルの顔を見る。
 しかし。ハルの表情は少し、残念そうなものだった。

 「……半分正解で、半分ハズレだ。
 満月は確かにいい奴だよ。冷静で完璧な機械のフリをしてるが、一度情が移った奴には非情になれない。あいつは俺には勿体ない女だ。
 だが、俺は違う。俺は……ただのクズだ。性欲だけで動いて、お前らをその対象としか見ていない。
 満月が断らないって事につけこんで、あいつをメイドという檻から解放せずにセックス三昧。都合のいいオナホール女としか思っちゃいないんだよ。
 お前だってそうだ、マルカ。お前との約束……嫌がるような事をしないってのは、別にお前の事を大切に思ってるからじゃない。
 ……嫌われたくないんだ。お前に嫌われたら犯す時にいちいち嫌がって面倒だからな。
 そんな事考えている男なんだよ、俺は」
 どうだ、とマルカの顔を見る。
 しかし。マルカの表情は少しも、残念そうではなかった。

 「半分本当で、半分嘘ですね。
 満月さんの事をいい人だと思っているのと私に嫌われたくないってあたりは本当で、満月さんと私の事を大事に思っていないって言うのは真っ赤な嘘です」
 
 しばしぽかんとした後、ハルは笑いを堪えるのに精一杯だった。
 「……言うようになったじゃねぇか、マルカ。合ってるかどうかはともかく、馴染んできたのは嬉しいぜ」
 わしゃわしゃ、と今度は乱暴にマルカの髪をかき回す。
 「ふあああああ」
 「ま、誤解するなら勝手にしろ。俺はお前みたいなガキを犯せればなんでもいい。
 だがな、一つだけ事実を言っておく。お前があの売春宿でやらされていた事……
 ……それに似たような事を、俺は満月に強いている」
 「……!」
 「今のところお前にやる気は無いが、いつ気が変わるかは俺自身わからん。
 しょせんお前は俺に買われた身。ちょっと俺がその気になれば、約束なんて反故だ」
 「……嘘ですね。ご主人様に約束を破る気なんてさらさら無いです」
 マルカは強い意思を込めて、そう言い切った。
 「そう思いたいなら思えばいい。が、後になって俺が約束を破った時に『信じてたのに』とか言って泣き喚くのだけはやめろ。
 面倒は嫌いだからな」
 マルカが反論しようとしたその時、ハルのポケットから電子音が流れる。
 
 「『ジキルとハイド』さんがログインしました」
 
 「来たか……!」
 すぐさまハルは立ち上がり、ダッシュでその場から飛び出していった。
 「ご、ご主人様?」
 「マルカ、悪いがぷよぷよは満月とやってくれ! 俺はちょっと用事が出来た!
 おおおい満月ぅぅぅぅ!! 俺のパソコンどこへやったか知って……」
 
 一人取り残されてから十数秒後。
 部屋に入ってきたのは満月だった。
 「あ、満月さん……ご、ごめんなさい寝坊して……その上遊んで……」
 「構いませんよ、マルカ。ご主人様は急用ができましたので、私がお相手しましょう」
 満月は相変わらずの無表情だが、その言葉にはマルカへ対する気遣いが見える。
 マルカはほっと一安心し、胸を撫で下ろした。
 「ルールは教わったみたいですね。では、お手合わせといきましょう」
 「あ、は、はい!」
 

 「五、五戦五勝……満月さん、手加減上手いですね……」
 「いえいえ、マルカが強いのですよ」
 ……絶対嘘だ。
 マルカは軽く打ちのめされる。
 彼女は初心者故に、一戦一戦の成長が大きい。
 その成長の度合いに合わせて、満月は巧みにギリギリまで追い詰めながらも逆転敗北する。
 完全に、手玉に取られていた。
 「ご主人様以外とこうして遊ぶのは久しぶりですね……どうしました、マルカ? もしかして楽しくなかったですか?」
 当然、遊んでもらう事が楽しくないはずが無かった。
 勝って嬉しいと言う気持ちも勿論あった。
 だが、それはそれとしてものすごい手加減されていると言う事実は、勝負事の経験が少ないマルカには少しだけ堪えた。
 「ううう……とっても楽しいです……」
 「それなら良かったのですが」
 「満月さん、お仕事中なのに私と遊んでくれてありがとうございます。私も、何か手伝える事があれば……」
 「いえ、ご主人様に付き合って頂いてむしろ私が感謝したいくらいです。私では至らないばかりに、ご主人様に不快な思いをさせてしまいますから」
 「そんな事……」
 とまで言って、満月の絶妙極まりない手加減を思い出して少し考える。
 「…………な、ないですよ!」
 今の間はなんだろう、と思ったが、満月は聞かないでおいた。
 「ご主人様、満月さんに凄く感謝してましたもん。『俺には勿体無い女だ』って」
 「そんな……私はご主人様の所有物、身体の一部、性奴隷、肉便器、オナホール、ダッチワイフ、ペニスケース、全自動おちんぽ掃除ロボ、人の皮を被った醜く小汚い雌豚……」
 「長いですよ! 長いですよ満月さん! 雌豚じゃないです! どう見ても人間です!」 
 「説明しましょう。私は一見人に見えますがその実態は」
 「いいですいいです、説明はいいですから!!」
 満月はこほんと咳払いを一回。
 「失礼致しました。ともかく、私はご主人様の忠実なるメイド。それ以上でもなければ、それ以下でもありません」
 「そう、ですか……」
 満月はゆっくりとマルカの背中に両手を回し、優しく抱きしめた。
 「私を気遣ってくれてありがとうございます。
 ……いい子ですね、マルカは。ご主人様の心の穴を埋められるのは、私のような冷たい女ではなく……きっと、貴方なのでしょう」
 「満月さん……」
 そう囁く彼女の抱擁は、とても温もりに溢れたものだった。
 ご主人様も、満月さんも、どうして自分を悪く言うのだろう。
 二人とも、こんなに優しいのに。
 「……一つ、聞いてもいいですか?」
 満月はマルカをゆっくりと離し、頷いた。
 「どうぞ」
 「ご主人様が言ってたんです。私があそこでさせられてたような事を、満月さんに無理矢理させているって。
 ……あれは、嘘ですよね?」

 満月は、それを聞いて――




 「……?」
 ――首を捻った。
 「マルカがさせられてた事……半ば強姦に近い性奉仕ですか?」
 「多分、そう言う事だと思います。俺は何でも言う事を聞く満月に甘えて、オナホール扱いしてるだけのクズだ、って……」
 「……なるほど、分かりました。ただ、一言で答えるとどうしても誤解を招きますね……。
 まあ、いいでしょう。そんな事実はありません」
 それを聞いたマルカは、ぱぁっと明るい笑顔を見せた。
 「そうですよね! まさかご主人様がそんな事するわけ……」
 「性行為を含め、私とご主人様の間で起こっている全ては、お互いの合意の上です。
 裸にして目隠しをされ縛られた上に膣と肛門にバイブを入れて半日放置されたり、一日の間ご主人様のペニスから出るもの以外の飲食を禁じられたり、
 丸裸で四つん這い状態の私に跨ってお尻を鞭で叩きながら館を一周したり、フェラチオした後で精液をご飯に吐き出すように強要され、精液まみれの食事を手を使わずに這って食べながら後ろから突かれたり、そう言うプレイはありますが」
 「あ、あれ!? 結構酷い!? そんな事されてたんですか!?」
 「言い出したのはご主人様ですが、全て合意の上です。私も愉しませていただいてます。
 気持ちいいですよ。きっと、マルカにはしないでしょうけど」
 きっぱりと言い切る満月に、マルカは言葉に詰まる。
 「……断れない、んですか?」
 「断らないのです。断る理由がありませんので」
 平然と、満月はそう言う。

 マルカは理解した。
 この人達は、間違いなく良い人達だ。
 でも、間違いなく狂っている。
 それは人格が破綻しているとか、精神の均衡が危ういとか、そういう大袈裟な話では無い。
 数有る歯車の、一つのほんの一部が。ジグソーパズルのピースの一つの、一辺だけが。
 そこに無いのだ。恐らく、無くしてしまったのだ。

 「満月さん、もう一つ聞いてもいいですか?」
 「何でしょう」

 「ご主人様と満月さんの間にあった事を、教えてくれないでしょうか」
 
 マルカは、二人の家族として。
 ハルと満月の過去に踏み入ることを決めた。

       

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Neetsha