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学者が助走をつけて殴るレベルの「古事記」
第六章「天孫降臨編-下衆の極み男神。」-その3 ←新しい夏。更新の夏。

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「結婚前は優しかったんですけど、結婚してからしばらくして夫の本性がわかりました」なんて話が稀にありますよね。ニニギはまさに、このタイプでした。
 何とニニギは、サクヤビメと一夜の交わりをして、そうしてサクヤビメのお腹の中に宿った子供を、「それ本当に僕の子供かぁ?」と疑い始めたのです。てめェ…救えねェよ。
「私は他の男神様と交わってはいません。貴方の妻となり、貴方とだけ交わりました。ですからこの子は、貴方の子供でしかあり得ませんよ」
「いやしかし、たった一回で的中するものなの? それはいくらなんでも怪しいよ」
 ニニギは、あれこれと理由をつけて認知しようとしません。最低です。やる事やっといてこれですからね。
 とにもかくにも、互いの意見はただひたすら平行線です。このままではラチがあきません。そこで、サクヤビメがこう言いました。
「じゃ、こうしましょう。誓約(うけい)」
 はい、そうです。困った時の誓約です。どんなに困った時でも、誓約一つで即解決です。
 ただし、今回サクヤビメの提案した誓約は、結構エグい感じの誓約でした。どのくらいエグいかと言うと、流石にこれでサクヤビメがまかり通ったら、認めざるを得ないほどの難易度の誓約でした。
「私はこれから、自分の祭殿に閉じこもって、扉を土で塞ぎます。そして、祭殿に火を放ち、燃え盛る祭殿の中で出産しましょう。もしこれで無事出産する事が出来たのなら、この子はニニギ様の子供です」
「おもろい感じ……じゃないから。笑えないからそれ。無理無理無理無理かたつむりだから。おいやめろ馬鹿」
 普通に子供を産む時でさえしんどいのに、何とそれを一人っきり業火の中で産むというのです。出来るとか出来ないとかの問題じゃないです。正気の沙汰ではありません。偉大なるイザナミ様でさえ、火の神を産む時にお亡くなりになったのですから。火と出産の組み合わせは、これはある意味で禁忌とも言えます。しかし裏を返せば、ニニギの発言は、それほどサクヤビメの逆鱗に触れたとも取れます。

 そして、その誓約の結末ですが……何と、サクヤビメの正しさが証明されました。
 サクヤビメは、扉が土で塞がれた、燃え盛る祭殿の中で、無事出産を成功させたのです。しかも双子です、双子。二倍の苦しみというハンデを背負いつつ、それでもなお成功させたのでした。
「敗北……認めるかい?」
「勝利とか敗北とかじゃなくて普通に凄いわ。何も言えねぇ」
 こうしてニニギは、サクヤビメのお腹の中から生まれた双子を、喜んで我が子と認めました。これで認めなかったら心底下衆です。というかそもそも、最初の段階で認知しなかった時点でもう下衆です。
 この双子、長男は火照命(ほでりのみこと 以下:海幸彦)、次男を火遠理命(ほおりのみこと 以下:山幸彦)と名づけられます。そしてその後、海幸彦は海の漁に特化した神様、山幸彦は山の漁に特化した神様となります。

       

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