Neetel Inside ニートノベル
表紙

はりぼてと突っ張り棒
俺、戦わず

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「じゃあ自分これで上がりますわー」
「おーう、明日も頼むぞー」
  俺と年がひとつ上の先輩とのやる気のない会話。ただ、バイト歴は4年のベテランなわけだが……
  バイト先のガソリンスタンドを出て、例の繁華街を通って俺の家に帰る。1DKで風呂もキッチンも何もかもがボロいくせにいっちょ前に家賃だけは馬鹿高いボロアパート。都会に憧れて、親と喧嘩して、なんとかなるだろうと思って始めた一人暮らし。自転車なんて使わねぇよ、ださいから。帰りに呑みにいけないじゃん。そんな強がりを言うが、本当の理由は金がないから。服、髪、靴、見てくれだけには金を使うのに……

  繁華街に入ると、やはりいつもの光景。ホスト、ギャバ嬢、居酒屋店員の呼び込み、酔っぱらいの喧騒、それを見下す俺。突然女性の悲鳴が聞こえる。何事かと思い、声のする方向に急いで向かう。回りにも何人か走っている人間がいる。野次馬なのだろうか?
「やめてください!警察呼びますよ!」
「いいじゃんいいじゃん。俺たちと遊ぼうよ」
  黒いショートヘアーに派手なメイクと格好をした女性……違う。顔立ちから幼さが残っている。恐らく高校生か?夏休みも終わった平日の夜11時を回って、そろそろ日付が変わる頃までこんなところで遊んでいるということはよっぽどの不良少女なのだろう。そんな"女の子"が良い大人(と言っても心が中学生のまま、体だけが大きくなったような頭の悪そうな)2人組に絡まれている。
「どうせこのあともどっかで遊ぶんでしょ?だったら俺たちと遊ぼうよ」
「嫌です!離してください!」
  家に帰りますとは言わない少女。どうする助けるか?いや、めんどくさいから関わらないようにしよう。そう思ってこの場を去ろうと思い振り返った時、怒号がこだます。
「おい!そこの金髪!なにさらしとんじゃ!」
  金髪俺のことか?振り替えって回りを見てみると、周囲には俺しか金髪がいない。
「そこのキョロキョロしてるお前だよ!」
  あっ、俺か。どうやってにげるか?走る?
「あ、すいません。なにか気のさわるようなことをしましたか?」
  なるべく言葉遣いには気をつけて、じりじり後ろに下がる。あともう少し距離が離れれば……
「なんか文句あるのか、俺たちがこの子と遊ぶことに?」
  片割れが一歩ずつ近づいてくる。
「え?別にそんなこと思ってないっすよ」
「嘘つくんじゃねぇよ!顔に出てんだよ」
  一瞬、といってももう少し長かったか?頭が真っ白になり、血の気が引いていくのがわかる。あぁ、もうこういう面倒なことに関わるのはよそう。そう思って無理やり自分を変えたのに。別に好きでもなんでもない自分に……
  こういうときはまともに取り合ったら恫喝されて殴られるだけ殴られるのが落ちだ。警察が来るまでは良いようにされる。といっても彼らはその場から逃げ、警察はボロボロになった俺を見て仕事をする振りをするだけで終わり、奴等を捕まえてくれるわけではない。そんなことをしていたら切りがない。それくらいこのまちの治安は悪い。
  足には自信がないが必死に逃げる。すぐ近くで怒声が聞こえる、それに反応して何を思ったのか振り返ってしまった。
  ああ、近いな。捕まるのも時間の問題かな?と思った瞬間弾力性のある何かにぶつかり、尻餅をつく形で地面に着いてしまった。終わった……
「オイゴラ!捕まえてぼこぼこにしてやるよ」
  もう逃げても駄目だ。責めて致命傷を避けるためにも体を丸めて頭や首を手で覆う。

……………………あれ?おかしいそろそろ殴られて良い頃なのに?恐る恐る暴漢のいた方向に顔を向けると、奴は地面に倒れている。そしてもうひとつの影、横幅も、縦の長さも大きい影
「ば、番長!」
  運が良かった?のだろうか。俺がぶつかったのはたまたま通りかかった番長だったのだ。
「ケンちゃーん!どこにいるんだよー!」
  女の子の手を引っ張って俺と暴漢を探しに来たもう一人の男。女の子は本当に嫌で嫌で、そして何をされるのかわかったもんじゃないから不安の混じった、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「番長!すみません。あの女の子、あいつに無理やり付き合わされてるみたいで……どうにかしてくれませんか?」
  番長は「わかった」と背中で語るように女の子の手を引っ張っている男の方に近づき、パンチひとつで沈めてしまった。男が番長に啖呵を切る前に……
「お前みたいな子供が遊んで良い時間じゃねぇ!とっとと帰れ!」
  少し吃りの入った低い声と、あまりよくない容姿も相まって、女の子は素直?に言うことを聞いて去っていった。
  これで一件落着か……しかし、俺の心のなかでモヤモヤが現れ、今日一日寝るまでそれが消えることがなかった。

       

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