「2階もあるっぽいから、行ってみるか」
二人に提案する。
さっき外から見た所、この建物は2階建てだった。
外からだと窓の中は暗闇で、窺い知れなかったが、
中からならば、どんな様子かを知ることができるだろう。
厨房を抜け、廊下を抜ける。
廊下の突き当たりに階段があった。
階段を登る途中、踊り場の壁に、ひしぎ形の窓が設えられていた。
窓にはステンドグラスが嵌められていて、
色のついた光を投げかけていた。
中央には十字架が刻印されており、その部分だけが影になっている。
洒落た形というか、変わってる形だなと思った。
屠殺場という場所には似つかわしくない、
宗教的な臭いのする窓だった。
そして2階へと到着した僕らは、また、
唖然とするような現実と対面する事になった。
焚き木が積まれていたのだ。
ちょうどキャンプファイアーをする時のように、
円を描くように焚き木が並べられていた。
更に不可解だったのは、
その焚き木がまだ割と「新しかった」という事である。
苔も殆ど生えていないし、朽ちておらず、
並べ方も妙に綺麗だった。
誰かがここに来て、この焚き木を並べたのだ。
―しかし何の為に?
暴走族や不良が、最近、集会に使ったのか?
いや、だったらスナック菓子とか、缶ビールとか、
宴の後に残る痕跡があっていい筈だが、そんな物は見当たらなかった。
そう考えるとぞっとした。
こんな所に焚き木を並べる理由って、一体何だろう。
「うわ、引くなこれ」kiriaが声を震わせながら、言う。
必死に虚勢を張ろうとしているが、恐怖心が前に出てきている。
歩を進め、焚き木に近づいていくうちにつれ、
僕はある事に気付いた。
「ちょっと待て。焚き木になんか書いてないか」
並べてある焚き木に歩み寄り、至近距離で見てみる。
焚き木には赤いペンキか何かで、十字架が描かれていた。
動悸が早くなる。
ここは、来てはいけない場所だったのかもしれない。
kiriaは「うわー、もう帰るわ俺」と泣きそうな声で言う。
「これ真新しいよな。最近まで人がいたって事か」
「だから嫌だったんだよ。
村の奴らがもしここ使ってたら、どうすんだよ?
あいつらの集会場かなんかじゃね?」
「こんな縁起の悪い場所で、集会する必要ってあるか?」
「”演技の悪い場所”だからこそだろ。
縁起の悪い場所で、集会する事に意味があるって事じゃねえか?」
「縁起の悪い・・・」
思考を巡らせる。
縁起の悪い場所に集まる理由って何だろうか。
「さっき言ってた、霊を呼び寄せるとか?」
「そうそうそういう事だよ。儀式みたいなさ。
そういう事やってる場所じゃないかって言ってる」
「じゃあこの焚き木は祭壇?の役割か?」
「知らねえよ、そうなんじゃね?もういいから帰ろうぜ」
kiriaは、この不気味な場所から、
今すぐにでも踵を返し、帰りたいようだった。
「じゃ、ちょっと待ってくれよ。最後に写真撮ってから帰るわ」
「早くしてくれよ。もうさっきみたいに驚かすのはやめてくれよ」
kiriaの言葉に、僕は一瞬固まった。驚かす?
「驚かす事なんかしてないだろ。俺何もやってないぞ」
kiriaも「え」と言って、固まる。少しの沈黙があった。
「いやいや、さっき俺の肩叩いただろ。何も言わなかったけど
知ってるぞ」
「さっきって、厨房に居た時の話か?」
「そうだよ。叩いただろ、お前」
「叩いてないよ。マジで言ってんの、それ?」
「嘘つくなって。叩いて、何も言わずにどっか行っただろ」
僕はakiraの方を向いて
「akiraじゃないのか?akiraがやったのか?」
と問いかけるが「俺も知らない」と彼は答えた。
akiraの瞳には、明らかに動揺が生まれていた。
彼がイタズラでやったとは考えられない。
kiriaは怒った口調で、「俺はこういう所でつく嘘って、
マジで嫌いだからな。正直に言え。肩、叩いただろ?」と言った。
「だから嘘ついてないって!
そもそもちゃんと見たのか?俺が肩、叩くところ」
「一番近くにいたじゃねえか!お前しかいないじゃん」
kiriaの顔は、顔面蒼白になっていた。
僕が嘘をついて、肩を叩いたという事にしようか迷ってしまうほど、
彼の顔は恐怖心で満ちていた。
・
結局、誰が肩を叩いたのかは、最後まで分からなかった。
kiriaがかなり滅入っていたようなので、僕は
当初より予定を早め、「肉の館」を後にした。
帰り道、僕は「大丈夫だって」「気のせいだろ」と
何度もkiriaを励まそうとしたが、彼は肩を落とし、
様々なトーンの「最悪だ」を繰り返していた。