Neetel Inside 文芸新都
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書き散らし駄文録
陽だまり

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天気もいいことだから、散歩しよう。

久しぶりに、太陽がその姿を見せた。
台風やらなんやらで、風が、雨が地面に叩きつけられていたからだ

そのあとにこの陽気ならば、自然と心は軽くなる。

陽だまりの街を一人、ゆっくりとした速度で歩いていく
街は多くの車が走り、そして人が流れてゆく。

活気溢れる街を抜け、街の郊外へと出た。
まだ郊外は田んぼが広がり、のどかな雰囲気を持っている
街の息苦しいほどの活気も良いが、やはりこういう雰囲気のほうが安らぐ
田んぼ沿いの道を色づいた稲穂を眺めながら歩いた。
風に揺れる稲穂はとても綺麗で、きっと今年の米の出来は良いものになるだろう

用水路の横で、遊ぶ子供がいた。
ザリガニでも探しているのだろうか。
微笑ましい気持ちになりながら、その横を通り過ぎる。

さて、どこへ行こうか。
まだまだ時間はたっぷりある。

私は少し遠いけれど、川へと歩くことにする。

途中、手拭いを頭に巻いたおばあさんが向こうから歩いてきた
こんにちは、と声をかけると
おばあさんはニッコリと笑いながら挨拶を返してくれた

ゆっくりゆっくり、景色を楽しみながら歩を進める

こんなにゆっくりと過ごしたことはここ何十年もなかった。
常に何かに心砕かれ、身を粉にして働いてきた。

それだけ働いて手にいれたモノは
自分のためには余りならなかったと思う。
失ったものは、若さと、若い頃にしかできなかった楽しみだ。

だけど、陽だまりの中を散歩する

こんなに幸せだと感じることが出来るのは
若くてはきっとできなかったろう。

案外、悪くないな。と思う

そのときそのときにしかできないコトは絶対にあるのだな
若い頃にそれに気づけば、もっと余裕を持って楽しめたのかなと
少しだけ苦笑いをした。

ようやく、川沿いへとついた。

川は私が思っていたよりもずっと淀んでいた。
それだけ、長いこと見ていなかったのだ。

コンクリートと芝生が入り混じる不思議な土手に降り
川の流れを眺める。

ゆっくり、たしかに流れているようだ
カップ麺の容器がゆっくりと流れていっている。

溜め息が出てしまった。

川はもっと綺麗な物だと思い、ここまで歩いてきたのに
現実は残酷だ、私が思い描いた川はここにはなかったのだ。

この数十年は、私の気づかぬうちに世界を変えていた
ただ、身の回りはゆっくりと侵食されているから
それに気づかなかっただけなのだ。

同時に、私は少し悲しくなった。
私の子、孫の年齢の若者は
私の知っている綺麗な川の姿を知らない

この淀んだ川を心の中にある川だと思っているのだ

そして、汚れた川を汚しても平気なのだろう。
空き缶や、その他もろもろのゴミがたくさん落ちている。

胸が締め付けられる思いで、私は家へと帰ることにした。

明日から、私だけでもゴミ拾いをしよう。

       

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