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「ニッポニア」   新野辺のべる 作
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=14129

本作の感想は初めてとなります。
上半期文芸ニノベアワードでノミネートしていた新野辺のべる先生の作品。
本作を読み始めたのは3月ごろ。感想企画が始まる前でした。
その時は少し読んで閉じました。
あ、これはいけないと思った作品です。それはもちろん良い意味で。
読み進めては更新が待てない作品になると思った次第です。
その後じっくり読んだのが感想企画はじまってしばらくしてから。
読み耽りましたね~。はまったはまった。
すっかり作品の世界に魅了されました。
しかしまさか感想企画に更新を当てて下さるとは思わず。
喜んでいます。



■数話まとめての感想
まとめて読む
大宇宙を航行する宇宙船は、旅に出てかれこれ2700年の月日が経過していた。ついに発見した目的の惑星で無人探査機を回収するも、異星人の痕跡は見つからず。だがしかし――。
プロローグかと思われる冒頭部分。惑星の質感描写が丁寧でした。惑星の景色をきれいに感じられます。船員(書記)の目線で書かれている物語。自分で自分の文につっこみを入れるさまに、早速クスッと笑わされました。船員たちのばらばら具合も想像すると笑えます。状況考えれば宇宙なんだから皆しっかりまとまろうよと思うところなのに、そうはなら無いみたいw
技師長は興味失せている、考古学者は舞いあがっている、書記の私は独断行動。そりゃ死人でますねえ~。

旭日編
1~2
かつて地球と呼ばれた惑星で発見され、ニッポニアと命名された生命体。宇宙船技師長はニッポニアから人類が滅んだ理由を聞き出そうと試みる。
人類滅亡の瞬間がどう来たのかと思えば、時代は文久(200年前)まで遡った。爽快!宇宙船員たちの?顔が目に浮かぶ。
知らないからこそ深く知りたくなる現象ってある。SFジャンルは私にとってまさにそれ。詳しくない者として、俄然この時代への遡りに興味が湧きました。何がそこに隠されているのか。SFを文久の世でどう見せてくれるのか。主人公・上中下之介を通じて何が見えるのだろうと心躍りました。これはもう読み耽るしかないと思った瞬間です。
ニッポニアの珍妙な雰囲気と船員の常識人的なかみ合わないさまが絶妙で面白い。

3~5
時は勤王派と佐幕派で二分する世。還俗した自称侍の主人公・上中下之介は仕事もなく長屋暮らしをしていた。せっかくできた知人、清川(意識高い系勤王派侍)も暗殺され、死に際に刀を託されてしまう。
いきなり侍になると言って都会で暮らす下之介。仕事もなくて野垂れ死にしないかと思いましたが、都会には拾う神もいるもので、清川との出会いに和みました。短い登場だったけどこの清川って人、暗殺されてしまったとき、惜しい気持ちになりました。良い人はみんな早く逝っちまうのかと。
もとの性格らかどこか風来坊で人間味のある下之介の人物像。人情が溢れていて好感が持てます。江戸っ子ってよく知らないのですが彼を通じて作中から見えてくるのは、江戸っ子の温かさや懐の広さなのでしょうか。そんな気配を感じました。

6~10
刀を託され追われる身となった下之介は、長屋の大家に拾った子供を引き合わせたのち京へやってきた。茶店にいるところ壬生浪士隊の沖田と新垣二郎にあわや捕縛されそうになるも何とか逃げおおせる。
男装の女子・新垣二郎。男の中に女が混ざる。難易度の高さといったらこの時代、今とは比べものにならなかったのではと想像します。そもそも身体の作りが違う。ましてその状況は常に人との対面有り。どんなに気を張っていても、隠していても、所作から勘の鋭い者には見透かされるはず。と言いつつ対面することの少ない新都社内でも見られる事例かと……ねぇww 女性の観測どれくらいできる? 
ちなみに私のツイッターでは昨日まで女性フォロワー1%でした。そして今日は10%でした。フォロワーの数に変化はありません。…………。

11~14
竹川という老人の知恵を借りて二郎の追跡をのがれた下之介。しかし海上で再び彼女と対峙する。しかし取引を成立させ、二人は一旦休戦か、下之介の実家へと向かう。
竹川という不思議な走行を教えてくれる老人。僅かな出番でしたがとてもインパクトは強く面白かった。実際に、昔の飛脚の走りは早かったのでしょうか。その辺は詳しく知りませんが、竹川老人の走りは興味深かった。実在の人物でモデルがいるのだろうか。独特な掛け声も見せ場になっている気がしました。私なんかも、稀に高齢の方がジョギングしているのをみると、奇跡の輝きを感じてしまいます。運動って大事だな。
揉めながらも仲良く。下之介と二郎(本名:鶴)今後の二人の仲を垣間見たような気がしました。たぶんきっと微笑ましい関係になるのではと。

15~17
ひと騒動あった帰郷より江戸にもどった下之介。かつての長屋仲間に温かく迎えられる。そこで待ち受けていたのはなんと下之介の結婚式だった。
福郎さん、いいひとだな。
外からやってくるものへの寛容さや温かさがある長屋の人々。彼らは下之介にとっても家族のようなものに映る。絵になる長屋風景が鮮やかで、そこで皆がどんな顔をしているのか浮かびます。鶴も女の子らしい一面もあってかわいいというか、意地らしいと感じました。女性はノーメイクが断然よろしい。大事なイベントでの化粧は誰がやってもいいもので、だからこそせっかくの化粧も見栄えるのだと感じるのです。
昔のお化粧って見てみたい。

18~19
江戸を発った下之介と鶴。いよいよ投降の道を選んだ下之介にはどんな考えがあるのか。
鶴のしぐさから勘づかれるのではと気になりました。下之介が口を割らないとなると矛先をかえるなら彼女を怪しむのはごく自然に起こり得るのではと。
鶴が痛い思いをするのはみたくない。この先が気になって仕方がありません。ばれるかばれないか、際どい所を書ききってくれそうな作家さんに期待します!



■今回更新までの総括的感想
SF作品でありながら幕末時代小説の世界を存分に味わえる作りに魅力を感じます。ニッポニアが歴史を遡って話す幕末期、そこへ混ざる宇宙船員たちとの疑念に笑えました。旭日編序盤以降、幕末小説になりますが、表現豊かな情景描写や造詣が深い豆知識になりそうな地の文の書き込みに、惹かれるところが多くありました。作家さんは本作の世界観作りのためにかなり多くの知識や情報をお持ちなのではないかと想像させられるところです。時代劇は過去によくTVで見ていたり、剣客小説なども読みましたが、そこに登場する小物の名称や職業の名前まで事細かに憶えていない昨今です。こうしてニッポニアを読ませてもらってみると、改めて驚かされることが沢山ありました。
また登場人物もみな個性的で人間味のある者ばかりだったのではないでしょうか。人物像を裏切らない行動パターンを取ってくれる。長屋の住人、下之介に毒を吐きながらも一蓮托生を拒まない鶴、同心の福郎、清川、佐々木などみんな分かり易くて、心に描きやすい表情を持っているように感じられました。彼らの動きや小さなしぐさから心中を察することもできます。イケメンには程遠い下之介。しかし人情味あふれる振る舞いがあたたかい。頼りないけど起点はきく、それでいてほんわかとしてどこか憎めない。この男の人間性は魅力的でした。
作中、漢字変換にしばしば安定しないところも見受けられますが、気にせず読めました。というよりも、使われている漢字が意図的に変換を変えられているのか、ミスなのかよく分からないというのがありました。ま、読みつまることはなかったので、あまり気にするほどのことではありません。
個人的には新選組とかどうでもよくて、剣客作品が文芸界隈では見られないのでもっと増えて欲しいと思っているところ。ファンタジーはあるけど日本の歴史舞台に目を向けられている作品って少ないですよね。
そういう点からでも本作はとても貴重といえるのではないでしょうか。
おすすめです!



以上この作品に関する4日更新分の感想はここまで。

       

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