「稲妻の嘘」   顎男 作
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完結作品です。感想書くのはこれで3回目。
良すぎる作品を褒めるのは嫌ですね。
私の語彙では語り尽くせない良さが、その作品にはあるからです。
良さが知りたければとにかく読め。これで良い。
読んだ者がその良さを感じればいい。
まあ、褒めちぎることと、感想を述べることはまた違うでしょうから。
ここではあくまで感想です。
悪いところを一生懸命みつけようとした。けどな。
憎ったらしいかな隙がない。顎男先生の本作はそんなんです。
感想更新まで時間かからないと思いましたがそうでもなかったw


前回、「顎美がんばるけど、しんどいぞ~」のところまで感想書いていました。
長くなるので今までのあらすじは省きます。過去感想を参考にしてください。


■各話ごとの感想
第三部
・第一話 奴隷船
ザルザロスこと狭山は、過去死の淵に立つ過酷な30日賭博を真嶋慶とともに生き抜いた過去を持つ。そのとき狭山は生の重さを知ったろうか。その後彼が真に追ったのは生と死はたしてどちらか。
口当たりの良い菓子を安に与えない姿勢のザルザロス(狭山)が魅力的に映る。すでに死んだ身、幽霊の世界でありながら、勝負の中で生き抜くこと、頭(自力)を使う基本的なことを求めるザルザロス。未熟者を捻りあげる姿はどこか手厳しい親父のようでもあり、裁きを下す審判のようにも感じられた。

・第二話 わたしはあなたが嫌いです
主の慶を欺きザルザロスに勝負を挑むエンプティ。そんな彼女を無敗のフーファイターはせせら笑う。
物語を読んでいると、いつの間にかその話の先を読もうとしてしまいます。そんなことしなくていいんですが、悲しい性でしょうか。誰でもあると思います。読み手としては「やっぱりそうきたか」ばかりが来ると作品への残念な気持ちがつのります。
ですが、たとえ先が見えた(可能性がいくつか考えられる)話でも作家が魅力的に書いてくれたり、意外性を盛り込んでくれると、確実にその物語の世界には引き込まれます。
エンプティの勝負は私にとってそういう期待を持たせてくれたので目が離せませんでした。

・第三話 わたしはまがいもの、こころ亡き偽者
シャットアイズのセオリー。定石にのっとるか破るか。ザルザロスとエンプティは睨み合う。
ここでもやはりザルザロスはエンプティを捻りあげる。分からないやつには分からせる。そういう姿勢に好感が持てる。無駄な意地悪をしないこの男、生粋の悪者ではではないでしょうね。
勝負のルールを馴染ませながら物語を進めていく。一読で内容把握できる優しい計らいを感じます。好印象です。

・第四話 微温い男、微温い女
ザルザロスの言葉はエンプティに突き刺さる。しかし彼女は足掻きつつもみっともなくもまだ挑む。
弱者を相手にしたときの強者の出方。慶も狭山も違う姿勢で違う結果を招くけれど、根っこはどこか似ているように感じられる。二人の弱い者に対する行動に善し悪しどちらもない。違うという差異だけだと感じました。
自分で考え自分で動くことの意味。それこそが本物であるという慶のエンプティへの言葉も印象的です。

・第五話 お前の番だぜ
「消えてなくなれ、狭山新二。」真嶋慶はザルザロスに宣告する。腹の探り合いこそが二人の対話か。
ザルザロス(狭山)のしゃべる口から唾が飛んでくる気配を感じました。あとはただ息をのんだ感じです。

・第六話 愚策
先手有利を捨て対峙する真嶋慶。ザルザロスは考える。
ザルザロスが巡らせる思考から、どれほど彼が真嶋慶を見てきたのかうかがい知れます。進行する勝負にはもうエンプティの影はない。あったことすらなかったように描かれている。ザルザロスの表情が明るく生き生きと見える気がしました。

・第七話 あれから
奴隷人形はどんな時でも本来勝負を見ることしかできない。だからこその見えない勝負の行方なのか。
そして読み手も。
……。

・第八話 獣に訪れる運命
これでよいのかわるいのか。答えはその場にいる者の数だけあるのだろう。
強敵がいることの幸せは、口にするとその良さが薄れる気がします。勝ちえたときの喜びは、同時に強敵を失った喪失感も運んで来る。勝つものは失うことへの強さもいるのだと認識させられます。
灰がこんなにも美しく儚い、けれど重たいものだったとは。感嘆です。

・第九話 真夜中に太陽、永遠の時針
幽霊客船アリューシャン・ゼロの甲板。一機の天使人形と豪奢ないでたちの銀の女はいた。
続編に期待。
顎男先生が生きながらえてくれるよう祈ります。南無~



■総括的感想
作品雰囲気としては重たい。しかし暗いとは思わなかった。重量感があって読み応えのある作品ではないでしょうか。単行本発売したら、私はおそらくこの作品も買うでしょう。電子書籍では買いません。
まあ、勿体ないですね~。こんなに高密度の力作を無料で読ませるの。顎男先生は執筆苦しかったようです。創作活動は気力体力要りますが、これだけの作品を書いてくれるなら、きつさも理解きるというものです。ですが、本作に代わる幽霊賭博師の物語を誰が書けるか。そんな者文芸界隈で誰もいないでしょう。だからそういう意味でも高く評価するところです。あくまで個人的にですが。
ライトノベルでは括りきれない、文芸的な要素が感じられる部分もあり、内容は濃かった。
登場人物の内面深くまで掴ませ、その心をなぞり、絡め取らせるに読ませてくれました。人物たちの機微からしぐさまで描写は鮮やかで、置かれている場面、舞台でよく映えていたと思います。絵になる場面が本当に多かった。
作中でピンと張りつめる緊張感、意識の駆け引きに手に汗握る感覚があります。心揺らされ泣きたくなる感覚もあります。しかし堪えます。それは他でもない真嶋慶の魅力が読み手に堪えさせる説得力を持っているからではないでしょうか。主人公が与える態度や姿勢の強さではないかと思いました。真嶋慶は背中から眺める姿がかっこいい男。そんな印象でした。台詞でもいいこと言っていましたよ。けれど台詞はどの人物にもそれにあった台詞の魅力として私には映りました。
また、登場人物たちは亡者や幽霊という身でありながら、作中きらきらと血をかよわせるように生きていた。作家によって生かされていた。生きている人間と何が違うのだろう。何も違わない。彼らは生々しく生きているではないか。それを証拠に心があり、肉を喰らうではないか。消えれば彼らは連鎖の糧になるではないか。なんて説得力のある世界観でしょう。これも素晴らしかった。
文章の技術的なことに関しては、作家として顎男先生の文は卓越しているでしょうから申し分のないところです。私ごときが言えたもんじゃない。卓越という言葉が正しいか分からないけど、確立された自身の文章に、しっかり手綱さばきができているのではないでしょうか。だからこそ走りこむほど騎手だって疲労するのでしょうね。
物語全体でみると、前半ずっしりと読み込ませる文章が多かったのですが、後半に行くに従い、徐々に読みこませる文に変化が見えてきました。重量級作品でありながら読む側は疲れません。かといって単調さもみられないので、終盤へ向けての読み手の誘導がとても親切でした。読ませたいことのさじ加減と、読み手を引き込み続ける作家の上手な誘導の優しさはいつもと変わりません。
勝ち負けの中で通わせる心のやりとり。勝負だからやりあいなのだけど、殴り合いでわかる互いの性分ってありますよね。そういうのが勝負ごとに感じられていてよく書けていると感嘆します。繰り返しますが素晴らしかったです。本作の魅力は賭博だけではないので沢山の読者に読まれて欲しいと思いました。
読後の余韻にいつまでも浸りたい。おすすめの作品です。
続編じっくり待つとしましょうか。
ここまでの完結おめでとうございました!! 
お疲れ様でした。



■作中印象深かった箇所
・亡霊戦にも朝は来る。
重い描写からふっと息が抜ける瞬間。気持ち良い。
・てめぇの頭からひねり出した言葉なら、どれでも正解になるのにな。
「ヒント下さい」これ私嫌いです。「わかりません」「しりません」よりもっと嫌いです。考えて意思を持つこと放棄しているアツ…アキラみたいなガキンチョにはビンタします。
・「俺はお前を、憶えておけない」
この言葉すら覚えていられない前提が含まれている儚さを感じる。深い。
・焼けつくように、涙が痛む。
美学的表現です。涙が痛むんです。涙が。涙に痛覚があるんです。顎男先生がそう書けばそうなんです。
強烈。



以上この完結作品に関する感想はここまで。