Neetel Inside ニートノベル
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力を持ってる彼の場合は
第一話 力のある者の過ごし方

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人の妄想とか信心ってのは、案外馬鹿にできない。
頭の中だけで何かを思うのは勝手だけど、これが何十人何百人と増えるとおかしなことになる。
本当に実体化する。
だからこの世界には悪魔とか妖精とか普通にいる。見えなかったり社会に溶け込んでいたりするからほとんど知られていないけど。
人とは違う、異なる質の者。あるいは現象。
言ってしまえば人外だ。
それとは別に、もう一つパターンもある。
人が持ってる本来のそれとはかけ離れた、異なる能力。
異能だ。
誰だって一度は思うことだろう。

『超能力を使いたい』
『自由に空を飛びたい』
『手から火を出して操ってみたい』
『透視で女湯を覗きたい』

そういう欲望とか願望も、望む者が多ければ実際に発現する。
ただ、指定は無い。
誰かの望んだ能力が、望んでもいない誰かに付与されることもままある。
望んでいない人にとっては、はた迷惑な話だ。
テレビとかに出て来るマジシャンとか超能力者の一部はおそらく本物だろう。そういう異能を用いて稼いでいるんだ。
望んでいない人は力を隠して、望んだ人は力を発揮して利用する。
多分、人間の中で異能を持ってる者の大半は隠していると思う。下手に使って気悪がられたり居場所を失くしたりするのは誰だって怖い。
俺だって怖い。だから隠してる。
普通に学校へ通うのに、おかしな力は必要無いし。
たまに人外に会うこともあるけど、なるべく関わらないようにもしてる。巻き込まれるのも嫌だから。
だから俺の場合は力は使わない。どうしても必要な時ってのはあるけど、使うのはギリギリまで待つ。

「…いつまで粘るつもりだよ、ああ?」
「……」

だから今も使わない。別に使うべき時ではないから。

「さっさとあるモン全部出せよ、顔面の面積倍になるまで殴られてえのか」
「…………」

左右に二人、後ろの一人、正面に一人。
計四人に囲まれているここは、薄暗い日陰の校舎裏。
だらしなく制服を着崩した不良みたいな風貌の男、ってか不良か。
俺は不良にカツアゲされていた。
「聞いてんのかよ!」
正面のいかつい顔した男が拳を振り上げる。顔を少し逸らして、どうにか顔面パンチは避ける。
既に何発かもらっていた。顔面と腹。体格が大きいせいか、一発も随分重い。
俺に暴力を振るっているのは正面の男だけだ。他三人はニヤニヤとした笑みを貼り付かせてそれを見ているだけ。俺を逃がさない為に包囲してるだけなんだろう。
「…いや、だから無いって言ってるじゃないですか」
「だからそれを確かめる為に財布出せって言ってんだ!」
大振りのパンチが俺の腹に沈む。胃液が込み上げてくるが、かろうじて堪えた。
「いって……。なんで、俺なんすか。もっと金持ってそうなヤツいるでしょうに」
俺のどこをどう見たら金がありそうに見えたんだろうか。カツアゲするならもっとちゃんと相手のこと見ろよ。
「テメエから取ることに意味があんだよ、クソ生意気なツラしやがって」
ああ、どうやらこいつら金に困ってるってわけじゃなさそうだ。
俺をボコりたくて囲ってるのか。で、ついでに有り金も奪い取ってやろうと。
相手は二年の先輩っぽいけど、全然知らない顔だ。接点も何もないのになんで俺に絡むんだろうか。
どうしよう。早く帰りたいのにこれじゃ財布奪われてボコボコにされるまで終わりそうにない。
おとなしく金出して土下座でもすれば済むのか。でもそんなの絶対嫌だ。
使うべき時ではない、けど。もう面倒臭かった。
(三倍くらいか)
「オラぁっ!!」
右手を軽く握り、反撃されることをまるで考えていない不良の大振りを避けて腹の中央へ一発叩き込む。
思った以上に深く拳は突き刺さり、一瞬不良の両足が地面から離れて浮いた。
「ぐ…?げぼぉあっ!?」
何が起きたのか理解が追い付いていない様子の不良は、殴られた腹を両手で押さえて膝を着き、地面へと盛大に吐いた。
吐瀉物が掛からないように一歩下がってから、えづく不良の側頭部をぶん殴った。
真横に吹っ飛んで、不良は制服をゲロまみれにしながら失神した。
やばい、やり過ぎたかもしれない。
嫌な汗をかきながら、俺は気絶した不良を横目に、驚きで身動きが取れずにいた他三人の不良を順繰りに見る。
連中はあまり喧嘩に自信がないのか、それとも今の光景を目の当たりにして殴り掛かる気にもならなかったのか。誰も俺に突っかかってこない。
これならもうよさそうだ。
「早くその人連れてってください。あと、もう俺に関わらないでくださいね」
それだけ言って、俺は足早に校舎裏から脱出した。
悪いのは連中だけど、やっぱりやり過ぎたかなと思う。
あとで先生とかに報告されたらどうしよう。でもこれも正当防衛だよな、多少過剰だったかもだけど。

       

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