Neetel Inside ベータマガジン
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★10周年記念・文芸チーム感想企画★
コニーその1/いしまつ

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 こんにちは、はじめまして。いしまつと申します。
 後藤さんからのお声がけがきっかけで気軽に参加したはいいものの、他メンバーとの知名度の差に怯え、参考にチラ見したハルノさんの感想の長さに怯え、先行アップの感想の長さの怯え、「これ俺がやっていいのか」と思いつつ、ともあれ頑張って書いていこうと思います。
 担当ラインナップは以下。並びは13日の更新順です。

 E-MEN
 やさしいおくさん
 せいちん!~青春珍騒曲~
 留森高校 貧乳科
 黒軍機兵ネスラヴニー
 太郎マン

 13日以降に更新していた方もいらっしゃるため、現時点(3/16時点)の最新話までの感想を書こうと思っています。

 レビューのスタンスは二つ。

 ①感想を読んだ人が作品を読みたくなる感想を書く。
 ②各作者さんの参考になるものを書く。
 
 では、スタート!

【E-MEN】
 幼いころに助けられた経験から、ヒーローに強い憧れを持つようになった男、山本ケンジは、成人後にヒーロー組織の入社試験を受けるも、あえなく不採用となってしまった。バーでグチを吐くケンジだが、そこに見知らぬ男が現れる。「君はいい目をしている」。そう言って男がケンジに渡したに書いてあった名前は、悪の組織「ダーク・フォルテ」。なんやかんやで、ヒーロー改め悪の戦闘員となってしまったケンジの行く末は――?

 特撮ヒーローは、新都社の作品の中でも多く取り上げられているテーマだ。
 仮面ライダーの二次創作や、戦隊ヒーローを扱ったもの、巨大ロボットを描いた作品などなど、数え上げればキリがない。

 その中で、ヒーローの敵である怪人組織にスポットを当てたのが今作である。
 ヒーロー組織の入社試験で不採用となった主人公の山本ケンジは、怪しい男の勧誘を受け、悪の組織「ダーク・フォルテ(以下D・F)」に入社することになる。格闘経験ゼロ、頭脳も並、変身もできなきゃビームも出せない。そんな「普通の男」である主人公が、組織のメンバーやヒーローたち、さらに他の悪の組織とのかかわりの中で、自身の才能を目覚めさせつつ成長していくストーリーだ。

 読み始めの印象は、完全なるギャグ漫画。何しろD・Fは秘密結社を名乗っているものの、その活動にはアウトサイダーの気配も、やるかやられるかの緊張感もほとんどない。首領は新入社員へのスピーチを前にガチガチに緊張しているし、徹夜で考えた襲撃計画は実行前にヒーローにバレ、ボコボコにされる始末。さらに負けた戦闘員たちは別に死ぬこともなく、酷い目にあったと言いながらその日のうちに屋台で酒をあおるのである。ポケモンアニメにおけるロケット団のような、アンパンマンにおけるバイキンマン一味のような、ぬるくてゆる~い善悪の戦いが描かれるのだ。キレ味のいいギャグとあいまって、肩肘張らずにすいすいと読める。

 あざとかわいいヒロイン(?)の三千香ちゃん、あたしンちのおかんみたいな顔の本間玄男、そして先輩風を吹かせるダメおやじの末端戦闘員「班長」こと柴っさんなど、エッジの立ったキャラクターが次々に登場し、このままゆるふわ日常ギャグが続くのかな……と思っていたところで、第三話から徐々に話が動き始める。

 ライバルである「スパイス」の登場と暴走。そして戦いの中で目覚めるケンジの秘められた力……。ギャグの切れ味はそのまま、ここにきて物語は「主人公、山本ケンジの成長物語」へとシフトしていくのだ。
 このケンジの才能というのが、またよく考えられている。ある意味でとんでもないチートなのだが、一方でヒジョーに地味なのだ。ド派手な必殺技を出すわけでも、カッコよく変身するわけでもない。どころか、相手を倒す決定力にも欠けている。しかし、だからこそ主人公の「一般人」というスタンスが崩れず、欠点だらけの能力を持たせることで、主人公の成長も期待させてくれる。

 さらに、単なるダメおやじだと思っていた班長の意外な一面や、ヒーロー以外の敵対組織の存在、そしてさらなる伏線もバラまかれ、物語は一気に深みを増していく。ライトな導入部を呼び水に、物語へと一気に読者を引き込んでいく手際が、実に鮮やかだ。

 第九話からは、ケンジの幼馴染でもあるヒーロー(ここも冒頭で触れられている)とその仲間たちへとスポットが当たる。ヒーロー組織G・Kとの合コン(?)。その途中、もう一つの悪の組織F・Wが、ケンジの命を付け狙う。ケンジとは真逆の能力を持った新たな敵も登場。彼とケンジとの戦いは冷静に考えるととてもアホくさいのだが、なぜか格好よく感じてしまうから不思議だ。演出の妙なのか、この世界観に慣れてしまったせいなのか。
 事態はいったん収束するものの、さらなる混迷の気配を漂わせる。
 お話は再びD・F内部に戻り、さらなる新キャラも登場するのだが……ここから先は、ぜひ作品を読んでもらいたい。

 この漫画にはちょくちょく「正義」という言葉が出てくる。
 第一話で、主人公は「悪を滅ぼすのではなく、悪を正しく導くのがヒーローの務め」と語るが、ヒーロー組織の長はそれを絵空事だと一蹴する。「力には力で対抗するしか方法がないのが現実だ」と。

 また第十六話では、ヒーローと怪人の戦闘中に病院で火事が起きた際、ヒーローがこんなセリフを放っている。
「アンタみたいな悪を野放しにすりゃあ、院内の命より多くの犠牲が出る。アタシら正義はそういう天秤で動いてんだ」

 しかし、D・Fをはじめ悪の組織が具体的にどんな悪事を働いているのかは、まだ作中で描かれていない。一応最初の方に橋を爆破して何かをしようとしていたのだが、前述の通り実行前にヒーローにバレ、ボコボコにされてしまっていた。
 さらに、よく見返してみれば、第一話で幼いケンジを襲っていたのは怪人ではない。動物園から逃げ出した熊である。
 ではこの世界で、ヒーローと怪人はなぜ敵対しているのだろうか?

 鍵となりそうなキーワードはいくつかあった。

 ケンジの同僚、本間玄男をはじめとする人外キャラの存在。ヒーローの一員である単眼少女を見たときの主人公と本間玄男のリアクションの違い。さらに怪人中心の悪の組織F・Wの説明にあった「差別的思考に真っ向から対立する過激派反社会組織」という言葉――。

 露骨な展開予測は控えるが、ギャグと軽いノリ、少年漫画らしい熱い展開が目立つ本作の根底にあるのは、意外と重いテーマなのかもしれない。特に、主人公であり「どんな人でも救うヒーローがカッコいい」と語っているはずのケンジが、ギャグ描写とはいえ人外キャラの容姿を嫌悪しているのは興味深い点だ。彼の言う「どんな“人”でも」の範囲に、果たして人外は含まれているのか? ……ここまで言うと、流石に考えすぎだと思うけれど。

 これらの要素が鋭いテーマとなって回収される日が来るのか、それとも無難に匂わせる程度に留まり、少年漫画らしい勢いで突き進むのか。どちらにせよ、今後の展開が楽しみである。



【やさしいおくさん】
 働かない夫と「やさしいおくさん」――
 温いような、危ういような、二人の生活。

 めっちゃくちゃ感想が難しい作品だ。
 とはいえ、内容そのものはシンプルである。
 ニートで引きこもりの「夫」と、それを支える「おくさん」。この二人のなんでもないような会話がひたすら描かれるだけ。ただ読むだけなら10分もいらないだろう。

 他の感想と同じ文脈で語ろうとすると、この作品は「雰囲気漫画」の一言で終わってしまう。それはそれで間違いじゃないのだが、それではちょっとつまらない。

 プロフィールを見ると、作者は美大出身だという。
 というわけで、美術的な見方から、この作品の感想を書いてみようと思う。ちなみに僕は美大出身でもなく、何冊か本を読んだ程度の知識量しかないので、もし間違っていたらごめんなさい。
 
 アート……特にファインアート(純粋美術)と呼ばれる分野の大きなテーマは、簡単に言うと、「自分らしく」だ。

 絵は絵らしく、音楽は音楽らしく――つまり、「絵とは何か?」「音楽とは何か?」という定義を追求し、それ以外の余分なものを全て削ぎ落として表現するのが、純粋芸術というジャンルのスタート地点なのである。

 例を出そう。
 現代絵画、と聞いて、多くの人が思い浮かべるのがポロックではなかろうか。
 四角いキャンパスを、色んな色の絵の具で隙間なく塗りつぶしただけの作品。リンゴも人物も背景もない。ただの落書きのような作品である。たいていの人は「これの何が凄いの?」と首をかしげる。

 絵とは何か。ポロックはそれを、「枠と表面を持った何かに、筆で絵の具をつけたもの」と定義した。それ以外の、モチーフだの、テーマだの、表現技法などは全て不要。キャンパスと、そこに描かれた、様々な色の線から、「見る」という行為を引き出すのが絵なのである、と表明したのだ。これを抽象表現主義と呼ぶ。

 ……では、「漫画」の定義とはなんだろうか?
 ストーリーを語ること――それは小説でも、映画でも出来ることだ。紙に線を書くこと――それは絵画と何が違う? 連続したシーンの連なり――映画やアニメでも出来ることだ。漫画にしかない、漫画だけの、漫画らしさとは何か?

「やさしいおくさん」には、明確なストーリーは存在しない。
 線は簡略化され、画面に昼夜の区別もなく、時間の流れすら断片的だ。
 そんな不思議な空間で、夫は日々のなんでもないことにケチをつけ、漫画で見たというどうでもいい知識を自慢げに語り、働けと言われれば嫌だと屁理屈をこねる。おくさんの弁当を食い、時にタバコも吸う。幼すぎる言動が、妙な生々しさを持っている。
 そんな夫を、「おくさん」は優しく許す。何を言われても激さない。夫のどうでもいい自慢も聞き流す。ことあるごとに夫に働けというが、それも強くは求めない。ただ「やさしい」笑顔を浮かべるだけだ。

 そこにあるのは、抽象化された「生活」の断片ではなかろうか。まあアニメでも出来るじゃんと思うし、だったらわざわざ夫をニートにする必要あんのかよ、とか色々ボロが出るので、多分この予想は間違いだと思うのだが。
 ただ、この作品を読む際、「漫画ってなんなんだろう?」みたいなことを考えると、単なる雰囲気漫画とは少し違う面白さが発見できる……かもしれない。

 たとえただの雰囲気漫画だとしても、それで充分魅力的なんだけどね。

       

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