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★10周年記念・文芸チーム感想企画★
少年その4/複素数

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はじめに:
 文芸感想企画少年担当の複素数です。まず、公布から丸一ヶ月の期間が経過してしまったことをこの場で謝罪させていただきます。加えて大変恐縮ではありますが、未だ未編集の感想があり、これについては順次追加していくことを了承頂きたく思います。今週(~4/19)までには全部お届け出来ると思います。





・中学コース

 以前より時々名前を見かけるけど未だに読んでいなかった漫画です。そのタイトルから学習モノか学園モノなんじゃないかと勝手に思っていましたが、ぜんぜん違いました。作品ジャンルにあるように全編が大河ドラマ的な時間の流れ方で構成されていて、第一部から第四部、そして第三部(再)と、登場人物に繋がりがあるのがあります。というのは第三部(再)の中盤ぐらいまで読んでから分かる話で(笑)、それより前は(00年代前半っぽい勢い任せなノリもあり)毎回その場で続きを考えて話を繋いでるだけじゃねえか!、と思えるような展開の連続という感想を持ちました。それでもこの漫画の凄いところは、(当時の)時事ネタや流行を拾いつつ、支離滅裂なギャグ展開の中に筋の通ったストーリーを作っているところでしょう。これも最新更新まで読み進んで俯瞰してから分かることではありますが、実際は部(特に第二部以降)ごとに事前に荒いプロットを組んでおき、その上でハチャメチャな繋ぎを入れていたに違いありません(ただの推測です)。以下、章を跨ぐごとに

  ・第一部
    第一部というか、ボリューム的には読み切りですね。モナーとかニダーとか、もう何もかも懐かしい…。解説によると元になった漫画の執筆が02年といいますから、懐かしいのも当然なのでしょうね。内容は60年代ごろの少年漫画にありそうな、不可解な事件を探偵が解決する奇伝活劇…の冒頭を電波展開でひっくり返し、さらにメタ展開、ヤク中、便所オチ、という当時のネット系コンテンツが備えるものをひと通り備えたもの。懐かしくてちょっと泣きそうになりました。加えてこれは以降も一貫することなのですが、この漫画はテンポや枠の組み方が秀逸です。読みやすいし、比較的ウェイトのある文章をセリフで挿入していてもほとんど苦にならない。作者の実力を実感できます。

  ・第二部
    その名も大怪獣。この章も原案は02年当時の製作とあり、雰囲気は第一部を引き継いでいますが、ボリューム、勢い、物語の深度は大きく増しています。まさに本腰が入ったと、そういったところでありましょう。見識が無いので話の元ネタ(あるかどうかも分からないのです申し訳ない)探しなどはしませんが、主要な登場人物が有名なミュージシャンの名前をそのまま使っている投げやりさと、相反して気合入りまくりの作画やストーリーには完全に引き込まれました。物語の主人公(?)であるリッキーとエルビス、謎の少女ことマリア、それにモナの塔とクワガタイタン、珍乃笑法に惑星ニビルなどの、第三部(再)に至るまで語られる登場人物たちが概ね顔を揃えるのもこの章です。さりげなく描いてありますが、クワガタイタンにしろ背景にしろ人物にしろ、描写がこれもうプロですよねこれ。ウェブマンガなのでその限りでもないですが、やっぱり絵が上手い漫画のほうが作品へののめり込み易さは高いと思いました。

  ・第三部
    マリアの登場、珍乃笑法と武次田(部次田?)の登場ですね。華の乏しかったこの漫画に美少女キャラが!と同時に出てくるババウェーブ研究所も、これも何だか懐かしいですねぇ。焼け野原の中で信者を従える教祖、珍乃夕子。夕子は唯一神ミカエル大帝をその体に宿らせることによって神託を得るのだ!!信託により戦士として選ばれた武次田はミカエル大帝の力で雷に打たれ、外見がサイヤ人の王子っぽく、っていうか露骨にベジータ様ですね。第三部までのこの漫画の魅力はこういう、捻りもへったくれもないド直球なパロとハイテンポなギャグにあると思います。

  ・第四部
    と、普通ならここでバトル開始だと思ったんですが、間に短編がひとつ入ります。課長に命じられて幻のモナ遺跡を探す平社員を漫☆画太郎っぽく描いています。現時点では本筋と絡んでないんと思うんですが、きっとうまいこと回収されるんでしょう。この部分は続きに期待させていただきます。

  ・第三部(再)
    トップページの説明にあるようにここからが新規展開だそうです。実質的にはここからが本編って言ってもいいんじゃないかなと。第三部から引き続いた武次田とマリアのバトルのなかで、アストラルボットことABという、過去編のバトル展開に繋がる概念が出てきます。飛び回ったり入り組んだりするような戦闘シーンをテンポよく描いているのは流石というところです。さぁ次はミカエル大帝だ!とその時衝撃の新事実!ミカエルの本体は惑星ニビルだったんだ!(ナンダッテー)実は第一部で漫画で描かれていた内容は事実で、全部ミカエル大帝の幻覚でそう思わされてただけだったんだ!(ナンダッテー)と言うか惑星二ビルも幻覚で、ミカエル大帝というのは坂本九だったんだ!(ナンダッテー)といった具合に、怒涛の設定回収ラッシュが急に来ます。ゆっくり読めばちゃんと理解できるし、筋もきっちり通っているのですが、これは自分もちょっと混乱しました。要約するに、48年前の事件は実在し、黒幕は坂本だったという構図に組み変わった訳です。これ以降の第三部(再)は48年前の出来事を描いていくことになります。

  ・第三部(再)(過去編)
    其の五のページ下にある其の六へのリンクがミスってるのかと思うぐらい、急に別の漫画になっちゃてますね。全体のクオリティはさらに向上してるのは言うまでもないですが、冒頭の探偵事務所のシーンは第一部とそのまま同じになっているんですよね。第一部の焼き直しがしたかったのか、繰り返しの効果を狙っているのか、いずれにせよこれは良い演出だと思います。あと、ひばりちゃん可愛すぎる。ほんとに可愛い。幸せになってほしい(後の展開ではあんまり幸せそうじゃないけど…)。場面は変わって重甲島、この島はクワガタイタンとその弟子四人による秘密の修行場だったのです。非常に滑らかに弟子どうしの関係を説明してい技術には舌を巻きました(たくさんのサービスシーンをありがとうございました)。で、この島を狙う実業家の山本を倒すために弟子たちと坂本が協力して戦う…のかとおもいきや、弟子の一人である泰子が恋敵チェルノを陥れるために山本と共謀していた!熱気漂うバトル系の話かと思いきや、毒まで盛る人間関係のギスギス加減。かといえばチェルノはクワガタイタンの弟子の振りをしていただけであり、本当の目的は塔の中に幽閉されている姉を助けることだった。しかしクワガタイタンと翁(ロボットではない)はそれを知っており、黙認していた!それぞれの勢力の思惑が渦巻く中、坂本はナノマシンを注入して思いのままにしようというチェルノの勢力から逃れ、圧倒的な強さのAB『ジャグール』と契約を果たし…!?回を増すごとに熱気が増していく展開が、同時にどんどん複雑になっていく印象を受けました。これは先生の癖なのかもしれませんが、ちゃぶ台返しな話のつなぎ方が多いかもしれないですね。とはいえパワーは一級品であり、読みながらつよく引きつけられるものを感じる素晴らしい漫画であることは間違いありません。複雑に絡み合った要素要素が全て繋がるのを楽しみに次の更新を待たせていただきます。陰ながらではありますが今後も応援しています!








・With white
 豆師郎先生による宇宙人とのコンタクトを描いた作品。コマを長方形ページサイズに詰め込んだ雑誌漫画形式ではなく、コマを縦に並べたウェブマンガ特有の形式が特徴的ですね。枠内余白や、広めにとられた枠と枠の間の幅、空白枠が多用されています。これらの空間を印象的に見せることで全体的にサッパリとして、穏やかな印象を与えています。
 まず、4466と頭に刻印された白くて丸い生き物が目を覚ますと、自分を見下ろす二匹の陰が居ました。このシーンで4466が生まれた訳ではありませんが、これより以前のことは語られませんし、4466自身も振り返ったりはしていないので、4466(の自我)の生誕のシーンととらえることができます。4466は初めて目を開いた赤ん坊のようですが、彼らの言葉は理解します。彼らは解像度の低い描かれ方しかしていませんが、話しぶりから人間に相当する知的生物であることがわかります。同じく彼らの話から、4466を含む白くて丸い生き物は食用の家畜であり、4466はその中で偶然人語を理解する突然変異だということも。
 その4466が初めて感じたのは、逃げたいという感情でした。逃げたい、僕らだけの世界が欲しいという自分の直感に従い、彼は偶然訪れたチャンスを逃さず、ここではない別の世界、地球へと向かったのでした。その第一話の最後に、一人の人間の姿が描かれています。彼は星空のもと、木の生える場所で目覚めました。今までの場面は彼の夢の中の、記憶の記憶だったのです。彼の首の後には4466との刻印があります。4466は最後は人間の姿になり、これ以降の物語はそこへ至る過程だということがわかります。
 宇宙人と人間の交流、これはSFの領分です。SFといえば宇宙人がUFOで攻めてくる印象を持ちますが、緻密な機械描写や規模のインフレしたテクノロジーによらない、さっぱりした人間目線SFというのもあります。未完成の作品でありますから先生の意図は分かりかねますが、この作品を無理にカテゴリ付けするなら、そういった類の作品になるのでしょう。ですが、この作品はE.Tなんかとは真逆の性格のものだと感じられます。
 ロケットに乗り込んだ4466は、同じ種族の4960を連れ出します。しかしロケットはトラブルで不時着、空から投げ出された4466と4960は離れ離れになってしまいます。偶然から4466は少年(紫崎勇)に、4960は会社勤めの成人男性(ダルス・ギル)に拾われます。4466をこっそりと自室に連れ込む紫崎君。これはE.Tやグレムリンでもみられる、お約束の展開です。ここで謎の生き物の素性が分かるのが一般的なパターンですが、この生き物(White?)は笑わず、喋らず、懐かずと極めて無愛想です。Whiteは愛くるしいぬいぐるみではなく、ひとつの知性として情報を集め、極めて冷静に判断を下しています。少々感情が希薄ではありますが、言ってみれば人間や宇宙人と変わりありません。しかし紫崎少年はWhiteを動物のように扱います。これは4466が彼の前で喋らないせいですが、このちょっとした不和に、僕は言いようのない面白さを感じました。
 一方のダルス氏は、拾った4960を水槽に入れて観察します。日記も付け、餌を与えています。彼のWhiteへの興味は、より純粋に好奇心に寄っているものでしょう。そののち彼の仕事場が火災に見舞われますが、彼は4960を置き去りにしてその場を去ってしまうのはその現れでしょうか。
 さらに、番外編で宇宙人によって世界観の補強がなされます。過去に地球に行ったWhiteがどうなって、その結果何が起こったのか。4466と4960にも同じことが起こるのか、このエピソードは読者にそういう不安を抱かせます。両者は食欲旺盛であり、何でも食べるように描かれていますから、ここで、ダルス氏が冗談めかして行った言葉が冗談に聞こえなくなるのです。。そして、第七話のエピソード(現行最新)で読者の不安は決定的に強められます。桐尾君が見つけた4466は自分で捕獲したであろう何かの肉を咀嚼しており、桐尾君に噛み付きもしました。しかも紫崎君はそのことを知っていてなお、慣れなのか目をそらしているのか、とにかく気にしようとしません。丸っこくて可愛い、ちょっと賢い生き物が地球に迷い込んできた話がここで、怪物をそれと気付かずに人間が隣に置いてしまう不安の話に姿を変えました。加えるならば、家事で行方不明になっている4960も気になります。
 冒頭で触れたような、本作のさっぱりして簡素な描画方式は想像で補完させる比重が多いぶん、こういったホラー要素には相性が良くなります。もちろんこの後ハッピーエンドが来るのかもわかりませんが、それも含めて非常に続きが楽しみな作品であります。応援しています!





・ハイパボロボット
 ジャクロ先生による漫画作品で、今年で連載開始10周年を迎える超超古参作品であります。なんとIDは55番。古参だとは知ってたけど二桁とは。全編2値ペンで書かれているのもいいですね。最近あんまり見かけませんが、MSペイント漫画好きです。
 舞台になるのは『ハイパボリックロボット(通称ハイパボ)』という高機能な玩具が大ヒットしている世界です。ロボットをカスタムして戦わせる話ですから、ロボコンとかその辺のノリを連想していたのですが、実際はプラモ狂四郎やガンダムBFに近いのでしょうか。個人的には、ロボットのバトルは玩具であることを全然感じさせないアクティブなものなのでアーマードコアやカスタムロボを連想していました。もし商業作品なら絶対コロコロコミックに掲載されているであろう世界観の本作ではありますが、物語のソフトの部分はもっと高い年齢向けの作りになっています。主人公を含め主人公側の殆どの登場人物は高校生、折々に強敵として登場する的敵キャラクターは同じ高校生か、それより年上(殆ど年齢不詳ですけど)が殆どです。高校生や社会人、社会不適合者(?)が街のおもちゃ屋の軒先に集まって野良で遊んでいる様子は不思議な感覚を呼び起こしますね。ある意味イニDっぽいです。
 また、ヒロインの多摩川が盗撮被害をうけたり、勇者に付きまとわれるなど、戦いの理由付けにあたりバックボーンが異様に重いのもこの話に得意な印象を与えているように感じられます。
 さて、玩具ロボットモノは一般に主人公の成長の物語でもある訳で、その中で敗北・特訓・成長・勝利の図式が取られるのが王道ですね。しかしながら主人公の金田の場合は少し状況が異なっています。序盤から技能と経験の不足を協調されっぱなしの彼ですが、(特に前半の)戦績を集計してみると全然負けてません。機転、搦め手、運、挑発、などおおよそ主人公とは思えない方法で、苦戦しながらも白星を重ねていきます。大会入賞者にまでそのノリで勝ったりしているので、彼の名前は大きくなり、さらに人が集まってきます。でも面白いのが、勝ったはずなのに反省していて、それが次につながっていることですね。これは、彼の戦い方に由来すると考えられます。彼が土俵に上がる時はほぼ例外なく修羅場です。相手は数段の格上、自分は操作もままならない、そんな中で彼は自分の持てる力を最大限活かすための戦略を練ります。たぶんこれコロコロでやったら小学生の読者ついてこれないだろうなぁ、と思えるぐらい慎重に戦略戦闘を展開しています。強い相手に作戦で勝つ、これ即ちバトルモノの王道であり、これこそこの作品(前半)の面白さだと僕は考えます。ただ、実際は戦略よりも運が大きく関わっているようにも感じられましたが。
 ここで本作の残りの主要キャラの二人を見てみましょう。金田のクラスメイトの九林直人と幼なじみで恋人の多摩川ノリコです。この話では金田の他、この二人の成長も描かれています。この二人と金田は最終的にチームを組んで大会を戦う訳ですが、二人も登場時は全くの素人でした。この二人も当然どんどん強くなっていく訳ですが、成長のパターンは金田とは異なり、練習を重ねて少しづつ強くなる、いわば王道のパターンです。初めての相手に強い金田と対照的に、(特殊な事情があったにせよ)二人は初陣では負けています。その上で二人は(特に九林)練習を重ね、後半、大会第一次予選の段階では操縦技能に関しては金田を上回っているとされています。この対比が、本作の意外さ、ひいては面白さであり今後の展開に関わってくるのでしょう。
 本作の構成を見てみると、地区予選大会の前後で区切りがあるように感じられます。運と勢いとその場の機転で何とか勝ってきた前半から、ゲーマーとして素人の域を脱し、チーム戦で連携しながら戦う後半へのシフトです。この中で、上のほうに描いた『何だかんだ勝つ』構図の仕切り直しが図られていると僕は見ました。今まで実質負けなしだった金田が第一次予選の市街戦では小泉兄にすんでのところまで追い詰められ、狙ったとはいえ自分より後発の仲間に助けられ、おまけに父とのサシの勝負では抵抗らしい抵抗もできずに伸されてしまうしまうのです。この一連の敗北が金田の心情に与えた影響は第一次予選の彼らの戦果に現れます。二次ではチームが分散しながらもそれぞれが共通の目的のために戦うという連携で、見事単独ゴールしています(金田は早々に退場してバックアップに回ってしまいましたが)。原則として個人戦だった本作前半とはことなり後半はチームでの競技戦主体です。二回の予選で既にそうなっているように、個人戦の時とは比べ物にならない程戦略や選択の幅が広がります。主人公たちにとってそうであるように、ジャクロ先生にとってもこれは表現の幅が増すことを意味します。ということで今後の展開は必見なのですが、コメント欄などを見ますとなかなか更新が滞っている様子がやや残念ではあります。僕も人のことをとやかく言える身分では全くありませんが、この感想が起爆剤になって筆が進みましたら幸いでございます。部長とキョー助のことや勇者有末の話とかすごく気になっているので、ぜひとも回収していただきたいです。無力ながら今後とも応援させていただきます。





・キングの塔 
ある昼下がりの日、教室で目覚めた黒木少年はクラスメイトの白井から不思議な薬をもらうのだった。その薬を飲めばキングの塔に行くことが出来、そこで開催されているゲームに勝てば100億円が貰えるというが… 
 キングの塔は、はり先生によるゲーム漫画です。基本的な構成は、現実社会での資本格差から隔絶され極めて単純なルールのもと、手持ちの通貨を如何に増やすかを競うというものですね。この手の漫画だと僕は福本伸行先生の作品(カイジとか)を真っ先に連想しますが、福本作品が借金苦で右も左もなくなってしまった、いわば極限まで追い詰められた人々に命を掛けさせているのに対し、こちらは誰に強いられるでも無く、世の中への不満足や賞金目当てに集った人々が戦う話になっていますね。冒頭でも明言されている通り、負けても死なず、それどころか記憶を消して元の場所に戻してくれる訳ですから(黒木は懐疑的でしたが。この編の部分にも触れて欲しいなぁ)、勝ちに執着する理由としてはやっぱり弱いのかなと感じる部分もありました。
 内容は後で触れるとして、一歩下がった階層、具体的には作画の話も気になる点があったので書いておきます。まずひとつとして、コメ欄でもあったように画力はもう少し頑張って欲しいというのはあったんですが、その画力に不釣合いに構成がしっかり作られているんですね。シーンの繋がりや特定の場面描写は非常にわかりやすくて、誰が何をやって何をしゃべっているのかを理解するために時間をとられることがありませんでした。セリフの組み方なんかも的確かつ巧妙で、心理戦や駆け引きの多いこの漫画の特色を効果的に伝えていたように感じました。画力にしても、個人的にはキャラの区別がついて個々のキャラの動作が表現できてれば僕は充分だと思っているので、この漫画で特に読むのに苦労したとという感想はありませんでしたが。
 さて、内容についてです。この手のゲームモノだと、いわゆるチェスとか、麻雀とかボードゲームの類が持ちられることが多いと思います。僕の場合ボードゲームはオセロぐらいしかできないので、漫画でいきなり中国麻雀の話とかが出てきてもフリーズするしかなくて、このジャンルに一種の苦手意識がありました。この漫画でもチェスの駒が出てきますが、チェスというゲームそれ自体は全く出てこない、ただの記号なのですね。むしろゲームはボードゲームやカードゲームから無駄な要素を削ぎ落した、代数学の問題のようになっています。これなら僕でも理解できるし、ルールが精細に説明されているのもありがたいです。
 しかしながら、この漫画の主題はゲームそのものではありません。最初の勝負、ペアでのコイントスにて違和感を感じつつも説明できなかった黒木が直面したのは、自分以外全員グルという最悪の状態でした。そう、この漫画の主題は如何に人を騙すかなのです主人公は以外にもあっさりこの空気を飲み込みます。そして同じ手法で続けざまに荒稼ぎしていた井森・矢守ペアに古典的なイカサマで見事復讐を果たすのです。悪いことをしているやつを悪い方法で追い詰める、これがこの漫画の魅せどころであり、基本的なスタンスだと感じ入りました。
 続く第二戦も基本的には同じですが、今度はゲームが複雑化します。カードではなく、部屋と人を使った神経衰弱、このゲームの特徴は本編でも語られている通り、本家神経衰弱とは違い自分以外のめくりが見えないことです。だからこそ、プレーヤー間の情報交換が重要であり、そこに駆け引きが生じるというわけです。駆け引きだからこそ、金銭も発生するし嘘も混じる。その上各々の人間模様が物語の進行に関与してきます。他人の行動を予測するときは、自分が他の人間の立場にっ立ったつもりで考えますが、必ずしもみんなが自分と同じ行動原理で動いているとは限らない。ここで言えば海原がそうです。誰もが自分の勝利のことだけを考える中、彼は周囲と自分との差、自分の優位に執着することで、他のプレーヤーに増して多く妨害を行ってきます。これに対して一行は彼の違反行為を誘発することで制裁を加えていますね。これもまた上で言った魅せどころのうちでしょう。
それはそうと、姫川の引きが強すぎるような気がします。キングはある意味イレギュラな要素なんですが、それを早々に潰しちゃうぐらいならルールを多少変えて姫川にも2駒の神経衰弱に参加してもらっても良かったのかなぁとは思いました。あと、各プレーヤーに割り振られている駒の種類は全員に開示されていましたが、これを秘密にしていても、より駆け引き度の高い話にできたかたもしれませんね。
 何だか意見ばかりになってしまいましたが、全編通じて非常に熱中して、楽しませて頂きました。一端更新停止とありましたが、はっきり言って続きが超気になるので是非気を向けていただきたいです。白石とは、姫川はなぜこのゲームに参加したのか、そもそもこのゲームは何なのか、などなど色々お願いいたします。





・黒鉄城
  
 お、ロボットだ…これは横山光輝かな…いや、石ノ森章太郎かな…これは、永井豪だ!!といった訳で『黒鉄城』、木曜の「ま」先生によります巨大ロボット漫画です。
 物語は混乱に包まれた都市の路地裏、暗がりの中に佇む二人の男から始まります。地面に座り込みタバコを吹かす浮浪者ふうの青年に、ロボットの操縦を持ちかけるスキンヘッドの男…あしゅら博士と名乗るスキンヘッドを追ってきた巨大ロボット集団”機械帝国コーグ”により破壊される街、そして始まる格闘戦!(コーグって工具のことかな?)
 初めの2話丸々使って挿入されるバトルは導入としては完璧だったように思います。読み始めてすぐ、関心を鷲掴みにされました。
 この冒頭2話のタイトルや登場人物の名前、ロボットのデザインなどからも分かるようにこの漫画は随所にマジンガーZ(永井豪)へのオマージュが織り込まれています。残念ながら私はマジンガーZは衝撃Z編を時々見ていただけで明るくなく、オマージュの多くは見逃していることと思いますが、これらに明るい読者からすればこの漫画はその冒頭から、ずっと楽しみ甲斐のあるものでしょう。
 さて、冒頭が過ぎ、機械帝国コーグを撃退した(正確には撤退に持ち込ませたであり、その理由がロボの損害を恐れてというもの。開幕以前の戦闘と顛末が語られつつ、敵がかのように戦略的な判断を下し、弱さを見せているという構成はとても良いと思いました。)ゴロちゃんとあしゅら博士は”家”に帰ります。ここで登場のヒロイン、すくなとあしゅら博士が親子だったこと、あしゅら博士はすくな以外の家族と長い間家を開けていたことが語られます。私はこの段まであしゅら博士は絶対悪いやつだと思ってたのでちょっとびっくりしました。すくなと博士が積もる話をしている間に、重症の吾郎は脱走、黒鉄城を駆って研究所を破壊し、すくなを拘束します。しかしこの行動に何らかの理由があるというわけではなく、同キャラクターの無軌道で無鉄砲(でおまけにシャブ中)な性格をここで表現するものであります。(この後、吾郎による脱走未遂は博士の慧眼によりあっさり解決します)
 本作にはいくつか特徴がありますが、まずハード面、即ちロボットの部分です。同作品でいうところのロボットは、ガンダムやマクロスに見られるリアルロボットではなく、マジンガーやジャイアントロボのようなスーパーロボットに該当します。これらは何か凄い技術で動いており、操縦者の気分やその場の空気を何となく汲み取って動きがよくなったりと、とにかく機械としてのロボットの技術面に言及しなくていい、逆に言えば操縦者とロボットのキャラクター性との関係に重きを置く作品構造に適した要素です。本作でも基本的に同様でありますが、ここにさらに、ロボットのダメージが操縦者にフィードバックされるという設定が加わり、よりキャラクターが戦闘に近い、身を削り合うストーリーが展開されていくわけであります。前半で言えば吾郎、そして蒼白がどうであるように、ロボより操縦者が傷だらけの包帯だらけという状況が、物語にシリアスさを加味していますね。特にコーグ側は機械担当だった博士の不在によりロボもパイロットも修復がままならない状況に長期的にさらされます。スーパーロボットモノでの敵といえば、ほぼ無尽蔵に兵力をどんどん出してきそうなものですが、そこが本作の一つの特徴でありましょう。
 もう一つの特徴、これはソフト面、即ち人間ドラマであります。本作の群像劇部分を抜き出して視てみると、これは家族愛の物語であるということがわかります。顔面寺家の夫婦と子どもたちさらにはすくなの幼馴染などです。ロボットもの、もといウェブ漫画で家族が題材になっているものって結構珍しい気がしません?さらに言えば、無人城登場の以前は、各々が2つに別れて対立してはいるものの、これは一時の行き違いによる不幸であって、本質的な対立や抗争は何も存在しないんですよね(雑な言い方をすればゴークと博士の抗争も夫婦喧嘩の延長だった訳であり)。愛おしいじゃありませんか、一時は殺すことも辞さない勢いで争っていた双方が、交流の中で対立を辞める大円団…。
 しかしながら、この話はここでは終わりません。母が自らの自我をコピーして与えたことで自立行動を始めた無人城が、彼らの幸せを阻む…というまでが本編の最新ですね。無人城の計略により敵方に寝返ったブロッケンとアリサ、そして無人城の率いるロボットたちの猛攻を前に黒鉄城・新月城は天守閣へと生まれ変わる…!
 木曜の「ま」先生の安定感のある描画で描かれるロボットアクション、戦いの行方、そして顔面寺家の面々はこの先どうなってしまうのか、どれをとっても気になる要素満載のスーパーロボット漫画『黒鉄城』の展開が見逃せません。
 うえのほうで元ネタが何だかと言いましたが、僕のように教養ゼロの人間でもどっぷり浸かって楽しめる漫画ですので、この感想を読んで『黒鉄城』を未読の方が居ましたら、一読をおすすめします。また、私も微力ながら応援させて頂きますので、木曜の「ま」先生は今後共頑張ってください!

       

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