Neetel Inside ニートノベル
表紙

ボックス・イン・ボックス
 ■1『こんな俺に誰がした』

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 ■1『こんな俺に誰がした』

 あれから六年が経った。
 俺のトラウマは悪化の一途を辿っていて、今では女性に触れただけで死にかけるまでになってしまった。
 こんな俺にも、好きと言ってくれる女性がいないではなかったのだが、しかし俺にとって、女は鬼だ。
 アプローチされても、俺の腹を狙ってきているんじゃないのか、という気持ちになってしまい、目を合わせる事も、まともに話す事もできない。
 そうなると、普通は『こいつキモッ』と思ってくれて、遠のいてくれるのだが、たまに現実を認めようとしない強者が現れる。
 いわゆる、『私がなんとかしてあげなきゃ!』と思うタイプだ。
 実際その気持ちはありがたい。俺もこのままではいけないと思っている。
 だから、最初は勇気を出したけれど、最終的にジンマシンが出て、痙攣して、泡吹いたので、その子も申し訳なさそうにしながら離れていった。
 あの時の俺は、まるで死にかけのカニの様だった、とは友達の目撃談である。

「と、言うわけで、先ほど廊下で女子生徒と正面衝突した際、ジンマシンが出ました」
「あ、そう……」
 ここは放課後の職員室。体中が真っ赤な俺と、担任の教師(中年男性!)が向かい合っている。俺の肌が真っ赤な所為か、周囲の先生たちの仕事がさっぱりはかどっていない。こっち見ないでほしい。
「女性恐怖症っていうか、キミのそれはアレルギーみたいに見えるんだけど……」
「はぁ、よく言われます」
 母親以外の女性に触れるとジンマシンが出るので、確実に精神的なモンだとは思うが、いまさら治せるとも思えない。
 男子校に進学したかったけれど、近くに無い上、親に一人暮らしは許さないと言われ、俺は近所の公立校に進学するしかなかった。まあ、両親としても、俺の女性恐怖症を治しておきたいから荒療治、って考えだったのかもしれないが……。
「キミ、これからの事について考えてるのかい?」
「えっ、これって進路面談ですか」
「あぁ、いや、そういうんじゃないよ。でも、ほら、彼女ほしいとか、思わないのかい。キミだって年頃なんだから、そういう事には興味あるでしょ」
「まあ、ありますけど、死と引き換えなら絶対にイヤです」
「思いつめすぎじゃない!?」
「俺にとっちゃあそんくらい大事って事ですよ。ほいで? 要件はなんですか」
「……この間、検査受けただろ。覚えているかい?」
「検査ぁ? ――あぁ」
 思い出そうとして、顎に手を添えようとしたけれど、その前に思い出した。
 ボックス適正検査の事だ。

ボックスBOX
 正式名称、『Blank Of eXtreme』
 俺も詳しい事は知らないが、なんでも、人間の脳にはデッドスペースという、一切使わない無駄なスペースがあるらしい。そのデッドスペースに、いわゆる超能力めいた物が生まれることがあるらしく、そういう人間が街で悪さをしない様、半年に一度ボックス適正検査を行い、それが目覚めた人間には、それ相応の対処が施される。らしい。
 こんなにもらしい、らしいと言っているのは、実際ボックスに目覚める人間はそういないからだ。
 何せ超能力。そう数多くいるわけじゃない。日本全国で、まあ大体一〇〇〇人いるかいないか、くらいだと聞いている。

「おめでとう、と言っていいのかはわからないけれど。キミから、ボックス適正が発見されました」


 ■

 それが一週間前の話である。
 強制転校って割に、学力診断やらされたり、体力測定させられたり、なんだか酷く面倒だったが、すべての準備も整い、俺はついに、ボックス研究機関。
 国立、箱ヶ月はこがつき学園へと足を踏み入れた。
 だだっぴろいグラウンド、そして、ガラス張りの近代的な校舎。さすが国立だ。校舎から金の匂いがしてくるよう。
 周囲には、俺と同じ黒いブレザーを着た生徒達がたくさん居る。こいつら全員、ボックス保持者なのか……。俺はまだ、『可能性がある』と言われているだけなので、別世界の住人に見えてしまう。
 あんまりジロジロ校舎を見ていては、都会に立った田舎者みたいに目立ってしまう。
 さっさと職員室へ行って、自分のクラスを聞かなくちゃ。
 俺は鞄を背負い直し、校門を潜って、来客用玄関に向かう。試験で一度来ているので、そこは滞りなかった。
 靴をビニールに包んで、鞄に突っ込み、上履きに履き替え、職員室の扉をノックした。
「失礼しまーす。転校してきた葛城綾斗でーす」
 そう言えば、誰かが面倒見てくれるだろう、的な目論見はしっかり成功して、俺の元に、一人の教師が小走りでやってきた。
「――げっ!」
 その教師は、女性だった。
 黒いスカートスーツに身を包んだ、ショートカットにメガネの、起伏の激しいボディライン。いわゆる、色っぽい女性にカテゴライズされるだろう。
 彼女は泣きぼくろを携えた優しそうな視線で、俺を見た。
 じっとりと、嫌な汗が体から噴き出してくる。
「キミが葛城綾斗くん? はじめましてっ。あたしがキミの担任、麻生羽撃あそうはばたきでーす。よろしく」
「……すいません、気分が悪いんで早退していいですか」
「えっ、なんで学校来たの。それなら休んだらよかったんじゃない?」
 ごもっともである。まだ始業前なんだから、本当に具合が悪いなら家で電話すればいい。
「今具合が悪くなったんで……」
「さっきまで元気だったでしょ……。出会って早々仮病はよくないなぁー」
 マジなんです先生。あなたの所為で腹が痛いんです。
 くっそ……。まさか女性が担任とは……。そりゃ、ここにだって女子生徒はいるが……。でも、だからこそ、話す女性は制限しておきたかった。
 頭まで痛くなってきた気がする。
「とにかく、早退は認められません。大体、転校初日から早退なんて、友達できなくなっちゃうぞ?」
「いやもう、おっしゃる通り――」
 ただでさえ中途入学。
 すでに人間関係が出来上がっている中飛び込むのだ。できれば一日でも多くチャンスはあった方がいい。
「ま、大丈夫大丈夫! 何か相談事があったら、先生がしっかり聞いてあげるから!」
 と、言って、先生は俺を抱きしめた。
 抱きしめた!?
 なるほど、どうやらスキンシップが過剰なタイプらしい。
「ぎ、ぎゃぁあああああああああああああッ!!」
 俺は悲鳴をあげて気絶した。最後に見たのは、慌てる麻生先生の姿だった。

  ■

「……俺、女性恐怖症なんで、ほんと、ああいう事されると死にかけるんですよ」
「……ほんっと、ごめん」
 放課後である。
 何度も言うけど、放課後である。
 ジンマシンと口からの泡で、なんだかとんでもない事になっていた俺は、慌てて保健室に運び込まれたらしい。
「で、でもその割に、普通に会話はできてるじゃない!」
「そりゃね。そりゃあ、会話くらい普通にできるよう頑張ったんですよ。最初は目を合わせることもできなかった始末。でも、やっぱり我慢してるから、触れられると爆発しちゃうんです」
「へえ……。面白い体質だね……」
「そいで、俺帰るんですか? ――え、帰るんですか俺。学校に気絶しにきただけなんですけど」
「まあ、もう授業無いし……。それしかないわね」
「えー……」
 親に『学校どうだった?』って聞かれたら、『記憶にない』としか言えない。俺がボックス保持者になり、学費免除の箱ヶ月学園に登校できるようになってから、家計が助かると喜んでいる両親になんて言えばいいのか。
 俺は、ベットから降りて、サイドボードに置かれていた鞄を持って、先生に「んじゃ、今日は帰りますわ……」と言って保健室から出た。
 何しに来たんだよ俺。

「はぁーあ。結局、自分がどこのクラスなのかもわかってねえや」
 頭を掻いて、転校初日から先行きの不安を感じていた。
 まあ、先生は気ぃ使ってくれるだろうし。先手を打ってクラスの女子に気をつけて、と言ってくれているかもしれん。そういうプラス思考で生活していかないと、俺は腹を刺された時点で死んでいる。
 何せ、街のいたるところに殺人鬼がいるように見えるんだからな。
 ふっふん。我ながら、自分のポジティブシンキングに惚れ惚れするぜ。
 思わず鼻歌を唄い出しそうになった。しかし、その前に、俺にはやるべき事がある。
 曲がり角だ。
 俺は女子と廊下で正面衝突なんてしたら、フラグはフラグでも死亡フラグが立つ。
 なので、まずアウトコースから入り、向こう側から誰も来ないかを確認してから曲がる癖をつけている。今回も、向こう側から誰か来ないか、と確認すると本当に誰か来たので、俺は避けるコースを確かめる。
「……あん?」
 いや、ちょ、ま、待って。
 俺は角に隠れ、向こう側にいた人影を見つめる。
 日差しを吸い込むような銀色の髪。血みたいに赤い瞳。そんな現実離れした色合いを、現実に留めている整った顔立ち。黒いブレザーに赤いリボンをしているから、ここの学生であるとわかる。
 汗がじっとりと、いや、頭から水を被ったみたいに吹き出し、呼吸が荒くなってきた。
 あいつは、武蔵野白金むさしのしろがね
 俺の腹を突き刺した張本人。
 トラウマを作った張本人。
 なんっで、なんであいつがここにいんだよ!
「まっ、まず、まずい――ッ!」
 あいつはこっちへ向かってきている。いくらなんでも、白金だって刺した相手を忘れるわけないし、つまり顔を合わせれば何らかのアクションがある。
 また刺される事だってある。
 とにかく、様々な可能性が考慮できる。
「逃げるしかねえっ」
 元来た道をダッシュで戻り、保健室へ飛び込む計画を立てる。
 今はそれしか助かる道はないので、俺はとにかくダッシュした。
「……あら?」
 後ろから、廊下を走っている男子生徒を不思議に思う声がする。だが、かまってる場合じゃねえ。俺の今後の人生がかかってる。
「――私に挨拶なしとは、馬鹿者ね」
 まっ、まさか、俺の正体がバレた?
 いや、関係ねえ。捕まらなきゃいいんだ。
「――『テスタメント』ッ!」
 後ろからわけのわからない叫び声が聞こえたと思ったら、今度は俺の足がいきなり何かに躓いた。
「いでぇ!」
 リノリウムの床に思いっきり体を打ち付け、何に躓いたのか正体を確かめる。すると、どうやら足に、大きな杭が括りつけられた鎖が巻き付いていた。
「な、なにこれ」
 歩み寄ってきた白金は、倒れている俺を見下す。
「あなた、箱ヶ月の生徒のクセに、私を無視するなんていい度胸じゃない」
「は、はぁ?」
「……あなた、もしかして、転入生? なら、もしかして初めて見るのかしら。これがボックスよ、私の『テスタメント』」
 ……ボックスって、物浮かせたりとかするやつじゃないのか?
「これって、武器じゃないのか?」
「……なんにも知らないのね」
 彼女は手を振るい、その、テスタメントとやらを消してみせた。
 そして、もう一度手の中に出現させ、もう一度消す。
「転入生なら、ボックスを知らないのも、私に挨拶しないのも納得だわ

 ……そうか。ボックスって、いわゆるPSIとおんなじもんかと思ったが、どうも違うらしい。ああいう風に、武器みたいなのが出せたりするんだなぁ。
「さぁ、クラスと名前を言いなさい。そして私に頭を垂れてから帰りなさい」
 すげえ事言い出したな。
 おっかしいな……。俺の知ってる白金は、結構大和撫子な感じだったんだけどな。あの最後の一日を除いて。
 しっかし、困った。この性格、俺が葛城綾斗だと知れてしまったら、どうなるんだろう。まあ、普通に「あの時刺してごめーん」くらい言ってくれたらいいんだが、そんな期待ができるほど俺のトラウマは浅くない。
「えーと、二年A組の佐藤まさるです」
「……嘘ね。この学校はクラスは数字制よ」
 マジかよ!
 前の学校のクラスを言ったのにやすやす見破られた。やっぱり嘘は綿密な下調べをしてから吐かないとダメだわ。
「……っていうか、あなた、私と会ったこと無い?」
「いや、気のせい気のせい。シャワー浴びてる時の背後の気配くらい気のせい」 
「……なんか、あなたムカつくわね」
 ちょっと冗談言って和ませようとしたらこれだよ。
「すいませんでした。クラスは転校して速攻気絶した所為で知りません。名前もその時のショックで全部忘れました」
「……病院行ったら? っていうか、信じると思う?」
「半分は本当なのに……」
「頑なに言おうとしないのね。あなた、私のことを知っているの? ――いや、ちょっと待って」
 彼女は、しゃがみこんで倒れれていた俺に目線を合わせる。
「――ま、さか。綾斗、くん……?」
 俺は勢いよく首を振った。まるで体の水気を払おうとする犬。
 だが、どうやら俺だと確信したらしく、白金はめちゃくちゃ楽しそうに唇を歪ませた。
「へえ……。そっかぁ、綾斗くんがまさか、ボックス保持者になるなんて、ねえ……」
 ウンウン頷いている白金。俺との再会で驚き、油断したのか、隙だらけだった。俺はポケットからハンカチを引き抜き、それをヤツの顔面に向かって放り投げ、目眩ましをし、走って逃げた。
 後ろから「うふ、ふふふふっ、あーっはっはっはっは!!」と、悪党みたいな悪い声。ゾンビか何かから逃げているんじゃないか、と錯覚しそうになった。いや、殺人鬼か……?

     


  ■

 翌日。
 俺は起こしに来た母に「もう学校行きたくない」と行ったのだが、その結果「死んで永遠の眠りにつくか、生きて学校へ行くか選べ」と包丁で脅されたので、俺は泣きながら登校するハメになった。
 そして、まだ自分のクラスも知らないので、俺は登校してすぐ職員室へ行き、麻生先生に
「転校したいんですけど」と言った。
「昨日何があったの!?」
 当然だが、驚かれてしまった。
「この学校でやっていける自信がありません……」
「だ、大丈夫よ。前の学校だって、女の子がいてもやっていけたんでしょ?」
 どうやら、先生は俺が昨日トラウマを爆発させた一件で、人生に絶望していると思っているらしい。半分は合ってる。
「前の学校では女子を割ける事に青春を割いていました」
「……先生、葛城くんの将来が心配」
「それ、前の学校でもよく言われました」
 あははー、と二人で談笑する。
「じゃっ、先生、転校の手続きよろしく」
「じゃっ、じゃないでしょ、じゃっ、じゃ。」
 じゃーじゃー言い過ぎだよ。皿洗いかよ。
「ボックス保持者はここにしか通えません。転校なんてもってのほか」
「そっ、そんなぁ……」
 超能力を得たからって、喜んでたらこれだよ。日本政府はもっと超能力者に対する受け皿を広げるべきだよ。何やってんだよ。なんの為に消費税払ってんだ俺は。
「っていうか、俺ってほんとにボックス持ってるんですかね。昨日も家でいろいろ試したんですけど、まったく出ないんですよ」
「間違いないはずよ。検査って、年に数回しかやらないから、その時点でどれだけ芽生えてるかはともかく、持ってるのは間違いない。多分、葛城くんは芽生えたばかりなのね。でも、これから間違いなく、なんらかの能力が芽生えるはずだから、安心して」
 ふぅん……。
 芽生えなきゃいいのに。間違いだった、とかなら転校できるのにな。
「ま、それは追々。さっ、これから葛城くんが青春を過ごすクラスに案内するわよー」
「観測しなければ無いのと同じ。つまり、俺がこのままクラスへ行かなければ――」
「あんまりワガママ言うと、私のボックスで気絶させて連れて行くわよ?」
「……行きますぅ」
 先生もボックス保持者なんだね……。
 さすがに二日連続気絶なんてしたくないので、俺は素直に先生の後を着いて行く事にした。
 今すぐ家に帰って泣きながら布団に包まりたい。
 だが、そんなんが通じるほど社会は甘くない。女性恐怖症ってだけでこんなに苦しむ事になるとは。

 転校二日目にして、やっと自分のクラスが二年D組であると知る事ができた。
 廊下の前で、先生が、「んじゃ、私が先に入って、場を温めてくるから、読んだら入ってきてね」と言った。
「あ、はい」
 場を温めるって、お笑い芸人か何か?
 言おうと思ったが、しかしその前に先生が教室の中に入っていった。

『はーい、みんな席ついて―』
 ざわついていた教室が、少しずつ静かになっていく。
『えー、昨日は来れなかった転校生が、今日やっと来れる事になりました!』
 静かになった教室が、少しざわついた。
 やっぱり転校生ってのは期待されるもんなんだな……。漫画とかの転校生キャラってイケメンか美少女だもんな……。たまにはブサイクの転校生とかいてもいいよ。そしたら我々転校生は、高まるハードルに苦しまずに済むんだ。
『センセーっ、男ですか、女ですか! 顔面偏差値はどんな感じですか!』
 お決まりの質問だぁー。麻生先生、頼むよ。空気温めるって言ったよね? ハードル下げてくれるんだよね?
『転校生は男の子です。顔面偏差値は高いです! 先生はもう、テンション上がりました!』
 女子のテンションが上がりまくる声がする。アイドルが突然教室に入ってきた、みたいな声だ。
 いやちょっと待って? ハードル上げたぞ、あのババア。俺が絶対に越えられないハードルおっ立てたぞ。
『でもねー? 女子は声かけないであげてね? あの子ね、ホモなの』
 また黄色い歓声が上がった。
 さっきより人数は少ないようだが。
「――って、ちょっと待てぇ!!」
 俺は勢いよくドアを開き、教室に踏み込んだ。
「誰がホモだ! 俺は女性恐怖症なだけで、別に男好きじゃねえから!」
「あ、まだ紹介シーン入ってないのにもう。それに、このホモ宣言は、一応昨日気絶させちゃったから、私からのお詫びだと思って」
 気絶、というキーワードで、教室がざわついた。まあ、普通日常生活で気絶なんて言葉使わないもんな。タダ事じゃねえ、と思うのは当然だ。
「昨日、先生が、『転校生はスキンシップがイキ過ぎて気絶させちゃった』とか言ってたのは、そういう事か……」
「すげえな、あの転校生。一日で手を出すとか……」
「ちょっと先生、あらぬ誤解が広まってるんですけど。訴えてもいいですか」
 抱きしめられただけ、とはいえない。それもう充分行き過ぎたスキンシップだ。
「おほほっ。まま、いいじゃない。ここで先生と付き合ってるって事にしたら、女子生徒は近づいてこないと思うわよ?」
「先生、それ失職すると思いますけど……」
 転校初日で教師に手を出した男、だとは思われたくないので、その申し出はソッと遠慮しておいた。
「んじゃまあ、冗談はさておき。この子が、転校生の葛城綾斗くん」
 先生が、黒板にでかでかと、俺の名前を書きなぐる。字ぃ汚いっすね。
「ホモってのは嘘。本当は女性恐怖症。昨日はうっかり、先生が触っちゃったから、それで気絶しちゃったの。だから女子諸君、触ったらダメよー。絶対触ったらダメだからねー」
 クラスのみんなが、「はーい」と言った。
 ――なんだろう。なんか、その言い方だと、お笑い芸人のフリみたいだ。
 俺触られたら、ほんとにタダ事じゃないんだからね?
「葛城くんの席は、あそこ。昨日の内に用意しといた、あの後ろの席」
「うっす」
 やっと俺は、転校二日目にして自分の席に――って、この話はもういいか。
 俺は一番後ろの窓際というベストすぎるポジションをもらい、そこに腰を下ろした。
「……えっと、声はかけてもいいのかな?」
 前の席の女の子が、こちらを振り向いて、メガネの奥にある瞳をこちらに向ける。小柄で、サイズの合っていないメガネと、これまたサイズの合わないブカブカの制服が、妙にラブリー。
「あぁ、喋る位はできるから大丈夫。でも絶対に俺の前で、刃物と尖った物は持たないでね」
「わ、わかった……?」
 何を言っているんだろう、と目の前の席に座る彼女は思っているようだが、俺の立場になれば痛いほど(文字通り)わかるだろう。
「私は、亀島うららっていいます。一応、このクラスで委員長してます。だから、わからないことがあったら、なんでも訊いてね」
「あぁ、ありがとう」
 親切なクラスメイトだ。ロリ体型ってところがグッドだ。怖くない。
 まずはこういうところから慣らしていった方がいいのかな、と思ったけれど、なんかこの思考変態みたいでやだな、と思ったので、俺は黙ってホームルームを聞く事に。
 ボックスが通う学校というだけあって、いろいろボックス関係の事を言っていたが、俺にはさっぱりわからなかった。
「えーと、とりあえず、これでオッケーかな? じゃ、ホームルームはこれで終わりまーす」
 これで朝のホームルームは終わり、五分休みになるわけか。
 やっぱり質問責めとかにあったりするのかなー。俺は少しだけ、その一日しかないだろうチヤホヤに心踊らせた。
 その瞬間、予鈴とは違う、カーン、カーンというけたたましい鐘の音が鳴った。
「なんだぁ?」
 俺はびっくりして、黒板の上に設置されたスピーカーを見る。
『――おはよう、箱ヶ月の生徒諸君』
 聞こえてきた声に、俺の頭が真っ白になった。この声、白金だ。なんでスピーカーから聞こえてくるんだ。
「あ、声の主は、武蔵野白金さん。この学園の、頂点に立つ人、生徒会長なの」
 前の席の亀島さんが、説明してくれた。しかし、そんなこと言われても、俺にとっては何を言ってんだとしか思えん。
「生徒会長を頂点に立つ人、とはまた大げさな」
 なんとか言えたのがこれだけ。
「まあ、要するに、この学園で一番強い人、ってことなの。ボックスの研究的価値っていうか、まあそういう感じのがこう、強いっていうか? 戦闘でも強いけど、ほら、普通の学校でもスクールカーストってのがあるでしょ? この学校では、ボックスの強力さが関係してくるんだ」
「ふ、ふぅん……。もしかして、亀島さんって結構大雑把な性格?」
 俺は最高にぞわっとした。
 なにそれ。もう絶対いかんやん。
 説明を受けていたら、どうやら前置きは終わったらしく、白金の話が本題に入ろうとしていた。
『さて、まだるっこしい話は嫌いだから、そろそろ本題に行きましょうか。――本日、二年D組に配属された生徒、葛城綾斗という男がいる』
 周囲の生徒が俺を見た。
「ち、違います。僕、佐藤まさるです」
「……黒板に思いっきり、名前書いてあるんだけど」
 亀島さんからの容赦無い突っ込みがやってきた。
 くっそ消し忘れた。なんでだよ、あれ教師が消してくれるやつだろ。ホームルーム中ずっと俺の名前をバックに説明してやがったのか。それもう先生の名前みたいになってんじゃん。
『その男子生徒を、私のところへ、そうねえ……。二時間目が始まるくらいまでには、連れて来なさい。それを超過したら、今日はもういいわ』
 ――それって、俺をとっ捕まえろってこと?
 いや、待って。呼ばれたら、まあ素直には行かないけど。でも最初にそれくらい試してみてもよくない?
 しかも、相手はみんなボックス持ちでしょ?
 俺無いぞ。まだ芽生えてないんだぞ。
『もし、連れてきた生徒には、望む褒美をあげるから、そのつもりで』
 スピーカーの向こうから、気配が消えた。
 俺は、周囲を窺う。望む報酬はくれてやる、という途方もない言葉を信用している目だ。つまり、獲物を狩る猛獣の目。
 一人を除いて。
「か、葛城くん……」
 亀島さんは、心配そうに俺を見つめていた。
「武蔵野さんに、何したの……?」
「……ハンカチ投げつけた」
「それは怒るよ!?」
「いや、話を聞いてほしい。これにはやむを得ない事情ってもんがあるんだよ」
 戦略的撤退を完遂する為には、仕方のない行動だったのだ。よく考えたら、学校で気絶してハンカチ失くして授業も受けずに帰ってくるって、人類史上俺だけなんじゃね?
「話は終わりか?」
 目の前に、男子生徒が立った。なんか手に、人を切る為だけに作りました、的なえげつない剣持ってます。
「いや、まだ。後三時間は人生について語り合う予定だから、質問なら待ってて」
「ふんっ!!」
「おわぁっ!」
 その男子生徒が、俺の冗談をぶった切る勢いでその剣を袈裟気味に振り下ろしてきた。命の危機となると、俺の知覚は加速し、その剣を躱した。
 俺の椅子が両断されて、帰る場所が崩れ去る。
「何しやがんだ! 男性恐怖症も発症しちゃうだろ! そしたら俺もう人間社会で生きてけないぞ!」
「俺の夢の為に犠牲になれ」
 なんでそんな戦国時代みたいなセリフを、学友に対して吐けるんだよ。
「ふざけんな! 俺にどうしろってのよ!?」
「四肢を切らせろ」
「先生転校させてくださいッ!!」
「……法律がなかったら、そうさせてあげたい」
 どうやら、ボックス保持者が箱ヶ月学園以外通っては行けないというのは、日本の法律で決まっているらしい。ほんとに、何やってんだよ日本政府。
 まあ、それはいい。
 今はとにかく、この教室から逃げ出す事を考えなくちゃならない。
 周囲は囲まれているし、自分の教室でこの惨状なのだ。他のクラスのやる気満々マン達もこっちに向かっていると考えるべきだろう。
 生きる為に頑張れ俺の頭脳!
「さぁ、俺の夢の礎となれっ!」
 剣を振るってくる男に、俺の頭脳はギリギリまで回転していた。
 白刃取りなんて素人の俺には無理。だが、この剣を防がなくては話にならない。なので、先ほど両断された椅子の半分を持ち、その椅子で、剣を叩き落とした。
「死ぬかと思った!」
 そして、その持った椅子を、男の顔面に向かって放り投げる。
 いつもなら剣で防いだかもしれないが、その剣は今地面に落ちているので、思いっきり顔面にぶち当たった。
 まさか俺が抵抗してくるとは思わなかったのだろう。周りが怯んでいる隙に、俺は教室を飛び出した。
「あいつかぁ!」
 俺を狙ってきたのだろう、やる気満々マン達が、教室から飛び出してきた俺が『葛城綾斗』だと察してしまったらしく、廊下の左右からたくさんの生徒達がこっちにやってきた。
「クソがぁっ!!」
 どうするっ、いくらなんでも一〇〇人はいそうな暴徒たちに、丸腰ってのはどうなんだよ。つうか、仮に武器があっても、ボックスを持ってても勝てそうにないよ。
「葛城くんっ! 伏せて!」
 突然、背後からの声がして、俺は信用するかしないかを考える前に頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
「『サイコウェポン』!!」
 俺は、背後に立った人を見た。それは、亀島さん。
 なんで助けてくれるんだ、という疑問もあったけれど、それよりも、亀島さんの両腕がバズーカになっているのに驚いてしまった。
「発射!」
 亀島さんが叫んだ瞬間、両腕のバズーカから爆音と閃光。
 耳と目が切り裂かれるような感覚に包まれてから、こっちに迫ってきていた暴徒達が、爆発した。
「え、ええぇーっ……」
 目の前で起こっている光景が信じられない。
 学園で指名手配にされたと思ったらクラスメイトが剣で襲いかかってきて、逃げ出せたと思ったら多数の暴徒がバズーカで爆撃された。
「だ、大丈夫ですか葛城くん」
「……頭痛い」
「最初はみんなそう言いますっ」
「こんな場所に慣れたくないよぉ!!」
 俺は立ち上がって、目にあふれる涙を止める事が出来ず、泣き出した。なんだよ、その最初はみんな嫌がってたけどどんどん癖になっていきました、みたいな言い方。ここは戦場かよ。
「な、なんでみんな普通に襲いかかってくんの!? つか、亀島さんいま大量殺戮したよね!」
「大丈夫ですっ、一人も殺してないです! ショックガンみたいなものですから」
 たしかに、よく見ればちょっと動いている人たちもいらっしゃる。つったって、もう傍目には死にかけにしか見えねえ。
「それよりっ、逃げましょう!」
「ん、あ、あぁ、そうだ!」
 亀島さんの言葉でやっと落ち着く事ができ、俺は暴徒達を踏まない様にその場から離れた。
 あと約一時間逃げ切れば、とにかく今日の安全は保証される。
 その為には――。
「亀島さんっ」
 俺は、隣を走る亀島さんを横目で見る。同じようにして、亀島さんを俺を見た。
「な、なんですかっ?」
「俺は女性恐怖症だ。女の子を信用できない! つうか、正直いま、キミが助けてくれた事に対して、『何を企んでるんだろう』くらいに思っている!」
「は、はあ……。それが何か!」
「俺を助けた理由を教えてくれ! この状況を見るに、俺を助けようとする存在は少数派らしい。つまり、この学園では、白金に従っているのがノーマルって事だろ!?」
 彼女は、しっかり俺の目を見て、走りながらだというのに、目を見て、力強く言った。
「困っている人を助けるのは当たり前です!」
 と、これ以上説得力のある言葉はない事を言い出した。
 俺は、それでやっと、改めて、助けを求める気分になれた。
「……正直俺一人でこの状況を打破できるとも思えない! ボックスも無い俺だし! だから、助けてほしい。絶対に裏切らないと約束してくれ!」
 その約束さえあれば、俺はとりあえず、迷わないで彼女は味方だと思える。
「もちろんです! 全力で、お助けします!」
 あぁ、なんというお人好し。
 初めて会ったばかりなのに、学校全体敵に回しても俺を助けてくれるという。それだけでずいぶん励まされた気になる。
「ありがとう。亀島さん! ――さしあたって、まずは武器を手に入れなくっちゃならない」
「ええっ、でも、私のサイコウェポンがあれば――」
「分断された時のことを考えたら、俺にも使える武器があった方がいい」
 味方が一人いると思えば、なんだか勇気も湧いてくる。俺は、拳を突き上げ、「やったるぞぉ!」と叫んでいた。

     


  ■

「あっ、あ、あの、なんでこんなとこ通るんですか……?」
 俺の後ろを進んでいる亀島さんが、泣きそうな声を上げる。
「いや、なんでってうのは、まあわかってるんです……。見つからない為、ですよね……? でもだからって、こんなとこ通らなくてもぉー……っ」
 俺と、そして亀島さんは、ひさしの上にある庇を、四つん這いで通っていた。日除けと雨除けの、小型の屋根みたいなものである。ちょっと体が右にずれたら、俺達は死ぬ。っていうか、多分ちょっと立ち上がっただけで、室内の暴徒共に殺される。このちょうど真中を通る事は、命の綱渡りと同義なのである。
「校舎の中を突っ走るより、確実に危険度は少ないからいいんだよ。それに、できりゃ戦いたくないし」
 戦いとなると、どーしてもボックス保持者の(まあ俺もなんだけどさ、使えないしさ)亀島さんが出張る事になる。女の子は戦わせられないよ! なんて言えるほど、俺は女性が弱いと思えないので、別に女性が戦う事くらい、俺はどーでもいい。
 戦いたくない理由としては、二つ。
 まずは、亀島さんの実力を俺が知らないので、どの程度無茶ができるかさっぱりわからない事。強そうには見えないし、さっきのアレも奇襲だったから成功したと思う事にしている。そういうパターンはできるだけ多くサンプルがほしい。
 もう一つ、今回の勝利条件が逃げ切る事というのが関係する。
 戦闘に入った時点で、誰しもが半分負けになる。逃げ切るだけでいいというなら、わざわざ戦闘をして勝つ確率を下げることもない。
「平和主義者なんですねぇ……」
 関心したような後ろの声。
 ……別に平和主義者じゃまるでないけど、それが亀島さんのお好みに合うなら、それでいいや。仲良くやっていきましょ。
「あ、葛城さん。ここですよ」
 と、亀島さんは一つの窓を指さす。俺達はその窓の下に位置取る。
「亀島さん、鏡持ってない?」
「あ、はい」
 亀島さんは、ブレザーのポケットからコンパクトを取り出し、俺に渡してくれた。
 それを開いて、鏡で室内を覗きこむ。うむ、誰もいないらしい。窓を触って、横にスライドさせる。よかった、開いてた。開いてなかったら、窓を叩き割るしかなかったしな。
 開いた窓から入り込み、やっと両足で地面を踏みしめる事ができた。
「……にしても、葛城さん、なんで武器を得るのに、理科室なんですか?」
 そう、亀島さんに案内されたここは、理科室である。薬品棚とか水道とか、俺の前いた学校とそう大差ない理科室だ。
「体育館に行けば、竹刀とか――」
「まあ、いろいろ理由はあるんだけど、まず一つ。俺は剣道の経験がない。選択科目も、剣道じゃなくて柔道だったし」
 前の学校では、剣道か柔道を選択して、どっちかだけ学べる授業があったのだ。
「そしてもう一つ。真剣なら威嚇になるかもしれないけど、竹刀じゃその役目さえ果たせそうにない」
 さっき、俺に最初に襲いかかってきた男は、剣を出現させるボックスを持っていた。あれを相手に、竹刀で応戦できるとは思えないし、向こうだって「竹刀ってお前」なリアクションになるだけだろう。
「その点、理科室には、兵器がたくさんある」
 俺は、薬品棚に近寄り、品揃えを確認する。うむ、とりあえず迎撃くらいはできるだろう。
「えーと、これもあるし、あれもある――」
 とりあえず、お目当ての物は作れるな。
 俺がてきぱきと準備する横で、亀島さんが「えーと……なにしてるんですか?」と、俺の手元を覗きこむ。
「殺傷力ゼロの、お手軽爆弾を作成中」
「ば、爆弾、ですか? でも、それなら私のサイコウェポンでも――」
「いや、できれば使いたくない」
「どうしてです?」
「亀島さんのサイコウェポン、バズーカだけしか出せない?」
「……いえ、一応、銃なら一通り」
「消音性に長ける武器は?」
「……ないですね」
「音はできるだけ出したくない。目立ったら終わりだしね」
 サイコウェポンの音は、確実に遠くまで響くはずだ。そうなれば、俺がここに居ると宣伝している様な物。戦力に圧倒的差がある以上、俺達がするのは、ゲリラ戦。隠密、奇襲、それが最も大事になってくる。
 と、その時、廊下から足音が聞こえてきた。
 どうやら誰か来たらしい。
 俺は小声で
「亀島さん、隠れて。あ、入ってきたのが女の子だったら、サイコウェポンで頼む。俺には倒せないから」
「あ、はい」
 亀島さんは、適当な机の陰に隠れた。
 俺も、相手が入ってくるだろう扉の近くにある机に隠れ、タイミングを見計らって、手に持っていたタッパーを放り投げた。
 扉が、開く。
 入ってきたのは、一人の男子生徒。
 よかった、男か。
 彼は、きょろきょろと理科室を見回す。
「んー、ここにゃいねえかな?」
 と、一歩踏みだす。
 その瞬間、彼の足元にあったタッパーの蓋が、破裂する勢いで開き、パンッ! と大きな音が鳴った。
「うぉッ!? なんだ!」
 男が驚いたのを確認した瞬間、俺は机から飛び出し、素早く腕を取って、三角絞めに移行した。
「う、う、ぐぉ――!?」
 苦しみながら、膝を落とす男子生徒。それから、一〇秒ほど。
 眠りにつくように、男子生徒は倒れた。手を離して、瞼を持ち上げ眼球を覗きこむ。白目向いてるし、素人判断だが、気絶しているだろう。
 俺は実権に使う用だろう、ガムテープを懐から取り出し、男を縛り上げた。
 ボックスを持たない俺が、ボックス保持者と渡り合う方法。
 それは、使う前に殺す(殺してないけど)!
「す、すごい手際っ」
 出てきた亀島さんが、音を出さないように拍手していた。
「っていうか、あのタッパー、なんですか?」
「中に液体窒素が入ってたんだよ。冷やされた空気が温まって膨張して、ボンってわけ。昔、テレビで見たんだ。お手製スタングレネード」
「あの絞め技は?」
「柔道で習った」
 俺って結構記憶力いいからねっ!
 と、胸を張って見せるも、亀島さんはなんと言っていいのかわからなかったらしく、「す、すごいですね」の一言。
「でも、あれって一人で行動してる相手にしか効かないんじゃ……?」
 亀島さん、鋭い。
 俺の作ったお手製爆弾は、音というわかりやすい情報を相手に叩きつけ、近くに脅威があると思わせ、驚かすから隙が生まれる。
 だが、その程度の音、数人いれば驚かない。驚いても、それは一人の時より格段に少ない。
 それに、俺は数人の人間を一瞬で気絶させる術なんて持ってない。
「複数人で来た時は、しょうがない。サイコウェポンで撃ち抜いちゃって。それから大急ぎで逃げる」
 頷く亀島さん。
「とりあえず、ここを拠点に、後――」
 腕時計を見る俺。
「――三〇分くらい、持ちこたえればいいんだな」
「なんか、結構楽勝っぽいですね? 私、もしかしていらなかったり……」
 しょんぼりと肩を落とす亀島さん。俺は慌てて、
「いや、亀島さんは切り札だからさっ」とフォローを入れる。
「そ、そうですよねっ。いま、ボックスが使えるのは、私だけですもんね」
「そうそう。俺ってまだ、無能力だからさ。ボックス保持者の亀島さんがいてくれるのは心強いって」
「で、ですよね!」
 うーむ。亀島さん、俺が言うのもなんだが、単純だなぁ……。
「じゃ、この調子で、持ちこたえよう!」
「おーっ!」
 ゲリラしてるんだから、大声出したくはないが、しかし指揮を高めるには大きな声が一番。とりあえず静かにしよう。
 俺達は再び、元の位置に隠れた。
 このまま来ないでくれたらいいんだけどなー、なんて思うが、まあそんな甘い話もあるまい。
 廊下から一つの足音がして、俺は息を気持ち抑える。
 気配を消さねば、この作戦は成功しない。
 ガラリ、と、扉が開く。
 このタイミングだ! と、俺はお手製スタングレネードを放り投げた。
 しかし、何故か爆発しない。
「……あれ? 何これ」
 入ってきた男子生徒が、俺のスタングレネードを拾い上げる。そのまま爆発してくれたらよかったのだが、タイミングを外れても爆発していないのだ。普通に開けられてしまい、中の液体を確認され、放り捨てられる。
 男子生徒は、何故か髪を深緑に染めていた。長い襟足をゴムでまとめており、力のない、死んだ魚の様なタレ目。針金みたいに細い手足と、妙に高い身長。覇気とか、そういうモノと無縁な感じ。
 普通に、奇襲をかければ勝てるか、と思わなくもなかったが、しかし――相手はボックス保持者。どういうものを持っているか、見極めるまで行動を起こすのは早計と言える。
 頑張れ俺。
「めんどくさいなぁ……。あぶり出しかなぁ」
 そう言った男子生徒の手に、何か、透明な槍みたいな物が握られていた。煙の様にモヤが舞っている。おそらく、氷?
 氷の、槍?
「『アイスエンド』」
「葛城さん、逃げてっ!」
 唐突に、亀島さんが、両腕をサブマシンガンにして、机から飛び出した。
 そして、弾丸を槍の生徒に向けて連射。
 男が、何かをする前に、無数の弾丸が、男を射抜いたはずだった。しかし、その弾丸が当たった場所が凍っていて、弾丸が肌に届いていなかった。
「亀島じゃん。……ってことは、当たりか」
 亀島さんだけ敵に発見されて、俺は隠れっぱなしってのも嫌だったので、立ち上がって机の陰から出る。
「うっす。葛城綾斗。俺は蒼海茶介あおうみさすけ。お前と同じクラス、よろしく」
 ――そうか、こいつの姿を見た瞬間、亀島さんが飛び出して、いきなり打ち出したのが、なんでかわかった。能力の厄介さを知っていたからか。
「そうか。蒼海か――」
「茶介、でいいぞ」
「なら、俺も綾斗でいいぞ」
 睨み合う俺達。
 そして、何故か亀島さんが「えっ、私の時そういうのなかった」とか言っている。ちょっと今はいいからそういうの。
「蒼海くんは、こういうの参加しないと思ってた」
 両手のマシンガンを構えたまま、亀島さんは警戒を解かずに言った。
「望んだ報酬がもらえるって言ったろ。トップにいる武蔵野さんに認められれば、カーストを上げてもらって、授業を受けなくてオッケーになる」
「そんなわけないだろ」
「……なるほど、蒼海くんらしい理由ですね」
「え、なに納得してんの!?」
 学校で授業サボっていい理由があるわけないだろ。
 この二人、合わせてなにバカ言ってんだか、と思っていたのだが、なんか二人共真面目な表情をしているので、俺は「え、マジ?」と亀島さんを見た。
「――さっき、この学校だとカーストがあるって言いましたよね? トップ付近にいる学生は、授業などに出なくても単位がもらえるシステムになってるんです」
「ずるくね?」
「だから、みんなトップカーストになりたいんですよ。多分、いま葛城さんを捕まえようとしている大体の人は、武蔵野さんにカーストを引き上げてもらうのが目的だと思います」
「ふーん……」
 それなら俺もカースト上げてもらいたい。授業受けなくていいとか最高じゃん?
「んまあ、そういうわけで。俺の楽ぅーな人生の為に、捕まってくれると助かるんだけど」
「そうはいかない。武蔵野白金に捕まって、何されるかわからない以上は、絶対に嫌だ」
「――あっそ。んじゃあ、実力でついてきてもらうしかないね」
 そう言って、茶介は地面に氷の槍を突き刺す。すると、まるで急速に根を張る木の様に、氷の脈が地面を伝わっていき、ドアを凍らせ、地面すらも凍らせ、つまるところ、理科室をあっという間に冷凍庫の中みたいに氷の世界へと変えてしまった。
「これで、誰も中に入ってこれない。そして、キミも、もう逃げられない」
 足元を見れば、俺の両足が、足首まで凍っていた。地面に張り付いて動けない。まずっ、まずいぞこれ!
 槍をくるくると回し、近寄ってくる茶介。俺の脳みそがフル回転しているのがわかったけれど、しかし、それでもどうしていいかさっぱりわからなかった。

     

 切っ先が俺に向かって飛んでくる。
「躱しちゃるッ!」
 俺は思い切り体を反らした。氷で足が動かない所為で、綺麗なL字に体を反らせた。上半身があった位置を、思い切り氷の槍が通過していき、肝が冷える様な思いをさせられてしまう。
「あぶなぁい!」
 亀島さんが、両腕のマシンガンを連射し、俺を突き刺そうとしていた氷の槍を撃ち抜いた。氷の破片が俺の顔面に降り注いで、冷たいやら鬱陶しいやら。っていうか、その前に。
「危ないの亀島さんだから! 連射止めてマジで!! 背中攣っちゃうからぁ!!」
 頭上をすごい勢いで弾丸が通り抜けていく。これが止まらない限り、俺はこのL字体勢から脱却できない。
「あっ、すいません……!」
 やっと弾雨が止んで、俺は体勢を戻す事ができた。しかし、そうなったら今度は氷の槍が復活して、亀島さんへと視線が向く。
「……ふぅ。なぁ、亀島。裏切らないか?」
「なっ、何を」
 肩に氷の槍を乗せて、ため息を吐く茶介。
「ここで裏切ってくれたら、二人で捕まえたって事にして、お前のカーストも上げてもらえるよう、武蔵野さんに頼んでみるからさ」
「……お断りします」
「へえ。なんでさ」
「裏切るということは、信じてもらえなくなるということです。葛城さんは、女性恐怖症なのに私を信用してくれました。それを裏切る事は、私にとってありえません」
「……そっか」茶介は、重い荷物を運ぶ前みたいに、眉をひそめた。「だるぅーいけど、それなら、お前から無力かさせてもらう」
 一足跳びで机の上に乗り、そこからもう一度、亀島さんへ向かって跳んだ。
 対空する彼の前に、三本ほどの氷柱が出現し、ミサイルみたいに亀島さんへと射出される。
 だが遠距離戦は、能力そのものが特化している亀島さんに分があるらしい。マシンガンを連射したまま、横薙ぎに振るい、氷柱を迎撃する。だが、茶介本人には、先ほどの氷の防御が働いていて、弾丸は届いていない。
「それなら――ッ!」
 亀島さんは、右腕をバズーカに変え茶介を狙う。確かに、バズーカなら爆発の衝撃が氷を貫通するだろう。
 だが、茶介はすぐさま、腕をまっすぐ突き出し、掌から丸い氷を射出し、バズーカの発射口へと氷を叩き込んだ。
「まず――っ」
 俺は、助けようと走りだそうとした。だが、当然足は凍らされているし、その場から動くことはできなかった。
 発射モーションに入っていた為、氷が発射口に詰まっていようとも、無慈悲に、残酷に、バズーカが発射された。行き場を失った衝撃が、バズーカの内部で破裂。
「きゃぁッ!」
 右腕が爆発し、地面に倒れこむ亀島さん。
 まさか、右腕が吹っ飛んだんじゃないかと思ったが、しかし亀島さんの右腕が真っ黒になっているだけで、他に異常はなさそうだった。
「だ、大丈夫か亀島さん!」
「へ、ヘーキです。これは、能力が使用不可になった証なので……」
 そう言って、右腕を振るって、指を握ったり開いたりする。
 茶介はそれを見て、頭を掻きながら、ため息を吐く。
「健気なこって。……じゃ、とりあえず、寝ててもらうよ」
 茶介の腕から、今まで以上の冷気がゆっくりと地面に向かって落ちていく。急激に体温が下がったことで、体から冷気があふれているのかもしれない。あれでどうするつもりなのかは、なんとなくわかった。
 凍りづけにして動きを封じてもいいし、亀島さんの体温を急激に下げて意識を奪ってもいい。身を封じる事について、氷という能力は最高に向いている。
 だが、まだ抵抗しようとしているのか、亀島さんは、左腕をハンドガンに変えた。
「やめとけって。俺には届かない」
「あなたに打つつもりは、ないですよ……」
 そう言って、亀島さんは銃を撃った。
 三回ほどの破裂音が鳴り響いたけれど、茶介には傷一つなく、氷の防御も発動していない。
「なんだぁ……?」
 自分の顔を触ったり、体を見渡す茶介。やつの体に異常はない。
 それは、当たり前の事だ。亀島さんが狙ったのは、茶介ではなく、俺。
 正確に言えば、俺の足を封じている、茶介の氷。
 俺を封じていた氷が砕かれ、自由になるが、俺はそんな状態が信じられなくて、亀島さんを見てしまう。女の子が、俺を助けるなんて、と、疑ってしまったのだ。
「約束は、果たしました……」
 そう言って、彼女は微笑んでいた。
 顔が、熱くなる。俺は、なんて恥ずかしい男だ。彼女はただ、俺との約束を果たそうとしてくれていただけだ。それなのに、彼女が女性だという一点で、俺は彼女を本当には信用できなくなっていた。
 それは間違いだったと、やっとわかった。
「……ちっ。そういう事か」
 俺の拘束が解かれた事を察知した茶介は、ゆっくりと、ふらついた足取りでこちらに向かってきた。風に吹かれたら飛んでいきそうなほど力のこもっていない足取りではあるが、俺にとってはそれが恐ろしい。
 やつはボックス保持者。俺はまだ、ボックスがない一般人。
 本来なら、どうにかして逃げる策を弄するべきだ。
 それが亀島さんの考えでもあったはず。
 だけど、それはできない。
「俺はムカついた……。ぶん殴らなきゃ、気が済まねえッ!」
 ぶん殴って、それからだ。
 亀島さん、ごめん。心の中でそう謝ってから、氷の床を蹴って、茶介に向かって走る。相手の装備は槍。いざとなれば、氷塊を飛ばした遠距離攻撃もできる。
「ボックスに目覚めてないんだから、痛い目を見る前に、諦めりゃいいのに……」
 心底、俺の気持ちがわからないとでも言いたげに、茶介は掌を突き出した。
 氷塊が来る。
 さっきまで、亀島さんとの戦闘を見ていた俺は、それがすぐにわかった。
 だから、氷塊が発射された瞬間に、スライディングをして、上半身に向けて発射された氷柱を躱す。ここは氷の世界。スライディングをすれば、俺の体が勢いよく滑っていく。
 さらに、机を蹴って進路を変え、ピンボールのようにして、茶介の背後を取り、素早く立ち上がり、懇親の右ストレートを後頭部に叩き込んだ。ボクシングで言えばラビットパンチ(打ち方は違うが)、つまりは反則級の一撃だったのに、やはり効いていなかった。氷の膜が、彼を守っている。
「それなら、こいつでどうだッ!!」
 俺はチョークスリーパーで、茶介の首を締める。打撃が効かないのなら、関節技だ。これで意識を落とせば、俺の勝ち。
 しかし、やつは俺の腕を凍らせ始めた。感覚が失われていき、関節も曲がりにくくなっていくのがわかって、俺はすぐに手を離して、体ごと距離を取るためにバックステップ。
 マジかよ、と舌打ち。
 殴ってもダメ、触れるのもダメ。
 どうすればいい? やっぱり、俺もボックスを使うしかないのか。
 でも、どうやって。
「あー、クソッ!」
 俺は、氷の地面を蹴っ飛ばした。自分の考えが、弱い方向へ行っているのに気づいたからだ。
 武蔵野白金からも逃げ、今この状況からも逃げようとしている。
 ボックスが無いからとか、トラウマがどーとか、そんなのは関係ない。このまま、逃げずに、自分のできることをやるだけだ。その結果どうなとうと、そんなのは関係ない。後の俺が考えればいい。
「やったらぁ!!」
 俺は、離した距離をもう一度ダッシュで詰め直した。
 全力の右ストレート。それを打ち続けるだけだ。俺の拳が何よりも硬い。何をも砕く。そういう気持ちで、ただ打ち込むだけでいい。
「そういうの、わかんねえな……」
 無策の特攻を仕掛けてくる俺を、茶介は心底見下げ果てた様に見つめて、槍を構え、そして、突き出す。
 まっすぐ、全力。
 お互いのそれが、ぶつかり合う。
 ぶつかり合えば、俺の拳が射抜かれるのは、当然の事だった。
 しかし、当然は、絶対ではない。俺の拳の前に、透明な壁が現れ、槍から俺の拳を、守っていた。
「……ま、さか」
 俺よりも先に、茶介が答えに辿り着いたようだった。一瞬遅れて、俺もやっと、辿り着いた。
「これが、俺の、ボックス……」
 俺だけの、力Blank Of eXtreme
 自然と、口から言葉が漏れてくる。
「『アブソリュート』ぉ!!」
 地面を蹴る。もっと、もっと前へと、アイツをブン殴れる間合いまで到達する為に。
 透明な壁を押し、氷を叩き割る。
「――ん、のやろっ!」
 一瞬、茶介は抵抗しようとしたが、すぐにやめて、俺の能力の全貌が見えないからか、今度はやつが距離を取った。
 だが、逃がさない。
 あいつが下がったという事は、俺が優位に立ったという事だ。その流れを逃すわけにはいかない。
 追いかけるように、一歩踏み出し、もう一度拳を振るった。俺の能力は、透明な壁を作る事。
「おぉッ!」
 俺は、自らの前にもう一度壁を作る。そして、その壁を、思い切り茶介に向かって押した。どんどん追い詰められていく茶介を、俺は思い切り、壁に叩きつけた。
「これで、終わりだ――ッ!!」
 教室の壁と、俺が作ったバリアによって挟まれる茶介。
「がっ、ふぐぅ――ッ!」
 空気を全部吐き出すような、茶介の声。そして、俺は壁を解き、もう一度、拳の前に小さな壁を出し、それで茶介の顔面を殴った。
 後頭部が壁に当たり、今度は壁と、俺の拳に挟まれる形になる。
 これなら、いくら氷で守っていようと、壁の所為で衝撃を逃がせ無くなり、脳が直接殴れるという寸法だ。
 俺の目論見通り、壁から流れ落ちる水滴のように、茶介の体が落ち、ぐったりと四肢を放り出す。
「はーっ……」
 緊張の所為で、上手く息ができていなかったのだろう。俺の体が、新鮮な空気を求めるため、無意識に深呼吸をした。
 その瞬間、発動させていた張本人が気絶した所為か、理科室が氷の世界から、普通の教室へ戻った。
 だが、それは同時に、今まで侵入者を防いでいた氷の壁を消し去るという事に他ならない。
「――いたぁ!!」
 つまり、先ほどの戦闘音を聞きつけ、やってきた追手達が、教室の中へと入ってきたのだ。
「ゲェーッ!」
 思わず叫ぶ俺。
 ボックスを持ったばっかだし、さっきまでの戦闘の所為で準備もろくすっぽしてねえ。一〇人以上はいるだろうこの連中には、さすがに勝てねえ。
 襲い掛かってくるボックス保持者達。
 俺は、半ばやけくそになって、「やったるわボケがぁ!」と叫んだ。内心では、「やだー! 来ないでぇー!」と叫んでいたりするが、それをわずかでも出すわけにはいかない。引いたら負ける。せめて士気くらいは拮抗させたい。
 そう覚悟したのに、まるでそれを茶化すみたいに、チャイムが鳴った。
「おい、今のって――」
「あぁ。くっそ! 逃げ切られたのかよっ」
 そう言って、追手達は、もう俺に用は無いと言わんばかりに、教室から出て行った。取り残されたのは、俺と、気絶した亀島さんと茶介だけ。
「……も、もしかして、助かった?」
 腕時計を見れば、時刻はすでに二時間目の始まりを告げていた。タイムリミット一杯、きっちり逃げ切ったようだ。
「――っはぁー! やったぞオラァー!」
 拳を突き上げ、叫んだ。
 さっきまでは緊張で体がカチコチだったが、今はもう、風呂に入ってたっぷりとくつろいだ後みたいに、体が軽い。
 とりあえず、亀島さんを保健室にでも連れて行かねば。
 亀島さんに駆け寄ろうとした、その時だった。拍手のような、手を打つ音が聞こえて、俺は教室の入り口を見た。
「げっ、白金!」
 入り口には、満面の笑みを見せる白金が立っていた。
「テメーっ! 俺を捕まえに来たな! やってみろやぁ!」
「……強気な発言とは裏腹に、バリア出てるよ?」
 だって怖いんだもん。俺を殺しかけた事を、忘れたとは言わせねえぞ。
「ま、今はやらないよ。今の綾斗くんとやったら、きっと、綾斗くんは私の事を卑怯者だって言うもん」
 俺の事を舐め腐ってやがるな……。
 実力差がありすぎるから、俺がまだボックスを得たばかりだから、まだ私には勝てないと、やつは言っているのだ。
「それはやってみなくちゃわかんねえが、まあ、まずは。なんの目的で、こんな馬鹿げた事を仕掛けたんだよ」
 バリアの中で、俺は敵意をむき出しにして、白金を睨む。この視線であいつを攻撃できないか、と思ったのだけれど、どういう意図で送ったモノなのか白金にはわかっていないらしく、笑顔は変わらない。
「綾斗くんが、今もまだ、強いままなのか気になったんだよ」
「……はっ。俺はいつだって強いさ」
 自分を大きく見せるハッタリは言っとくに限る。
「そうだね。今のところは、期待に答えてくれてるよ」
 期待という言葉に、すげえムカッと来た。やつの掌の中で踊らされているような言葉のチョイスだったから。しかし、今のところはその通りだろう。
「もっと私に、強い所を見せてよ。もし私の期待通りに、強い綾斗くんでいてくれるなら、その時は、私が相手をするよ」
 じゃあね、と言って、スカートの端を摘んで、恭しく頭を下げて、その場から去っていった。
 バリアを解いて、その後姿を見つめて、俺はやっと、緊張を解く事ができた。
「あ、頭と腹がイテェ……!」
 白金と、五メートルは離れた位置で会話しただけでこれである。
 これじゃあ、確かに白金に勝つ事なんて無理だ。
 やっぱり、トラウマを克服するしかないらしい。

       

表紙

七瀬楓 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha