Neetel Inside 文芸新都
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鬼面
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永くから鬼はそこにいた。
神社の社殿の屋根裏。
外から少しばかりの光が差し込んでくる。
薄暗い。
ここに暮らすのは、あとは虫の死骸と、吹き込んだ落ち葉と、そこに居ついた白蛇のみだ。
白蛇はいつも蜷局を巻いて寝ている。
寂しさが鬼の心を無にした。

今日は外が珍しく賑やかだ。
屋根の隙間からちょいっと顔を出すと、近所の幼子どもが、木の陰からこちらを眺めている。
その様子がいじらしいので、鬼は幼子どもを観察した。

「あれが呪いの面か。恐ろしく怖いのう。」
「お前のいっていた鬼伝説は本当かえ。ただの面じゃねえか。」
「ほうら、こっちをにらんでおるぞう」
きゃー、といって子供たちは逃げて行った。

もう風の吹き込む音しかしない。
人が来たのは数十年ぶりだろうか。

鬼の寿命はどのくらいなのだろう。
この社といっしょに朽ち果てゆくことだけが分かる。
白蛇がこちらを見てふう、と息を吐いた。

     

今日は賑やかだ。
鬼は社殿の前の茣蓙の上にいた。
目の前には豪華な酒と食い物が並んでいた。
それを松明が赤々と照らす。
烏帽子を被った男たちが、鬼の前で舞を踊っている。
厳密な舞のようだが、烏帽子たちは時々おどけた動きをするので、鬼は退屈することがなかった。
とても愉快だ。
宴は夜が明けるまで続いた。

太陽が山の影から見え隠れする。
烏帽子の一人が舞を止め、それに続いて周りの烏帽子たちも動きを止めた。
烏帽子は腰に手をまわす。
朝日に白刃が光る。鳥帽子たちが白刃を大きく上段に構え、鬼に近づいてくる。
鬼は恐怖した。
背をみると、社殿の戸には大きな錠前が架かっている。
とても中には入れまい。
ふと社殿の側面をみると、階段状の梁が屋根裏に続いていた。

     

屋根を見ていた。
白蛇はいないようだ。
あれはいつだったか。
何度も巡った過去だった。

屋根裏に駆け込むと、外からぎごぎごと削る音が聞こえた。
梁はなくなっていた。鬼は嘆いた。
それからはずっと薄暗闇の中だった。
鬼は屋根の隙間から、繰り返す四季をずっと眺めていた。
そして気付いたら白蛇が住んでいた。
これが鬼の全てだった。

ばっさばっさと音がする。
烏天狗が社殿の屋根に止まった。
「鬼が社殿の中から出られぬとは情けないよのう。白から知らせがきた。ここいらはよく飛んでおる。たまには寄って、旅の話でも聞かせてやろう。」

鬼は顔を出し、こくりと頷いた。

「聞いた通りの無口や奴じゃ。」

烏天狗は屋根に腰かけた。抜けた羽が舞った。

       

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