Neetel Inside ニートノベル
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 胸倉をつかまれている少年は耳が隠れる程度の黒い長髪で、腰に荷物を下げている。やけにごてごてした靴が重そうだ。現在進行形で危機が迫っているためか、顔が引きつっていて声も情けない。
 一方の褐色のエルフは銀色の髪に、エルフの特徴である長く尖った耳。薄汚れたフードをかぶり、左手には装飾が施された幅の広い短剣が握られている。肌の色からしてダークエルフというやつだろう。
 ダークエルフは少年に顔を近づけて言い放つ。
 「本来なら有り金全部いただくところだが、今回はこの宝剣で許してやるぜ」
 「そ、それだけはやめてくれよ!その剣は…」
 何とか食らいつこうとする少年を突き飛ばし、ダークエルフはその場を去ろうとした。だが、その行く手をシンチーが阻んだ。
 突然現れた亜人に顔をしかめるダークエルフ。早速今しがた手に入れたばかりの剣を構えて見せた。
 「なんだよ、お前は。まさかアタイに刃向おうってのかい?」
 そう不敵に笑う。
 特に答える必要性を感じなかったシンチーは無言で剣を抜いた。途端に相手の顔がこわばり、一歩後ずさった。しかし、自分の背後に少年がいることに気づいて、まずい、といわんばかりの表情に変わる。
 その様子を見たシンチーは取るに足らない相手であるということを悟り、適当に剣を振って見せた。
 「ひっ…」
 すると、エルフは大げさなくらいシンチーから間合いを取り、
 「あぁ、ちょっと待てよ!俺の剣!」
 少年を押しのけて逃げ出した。
 「逃げ足だけはなかなか早いみたいだねぇ」
 傍からその光景を文章にしていたロビンが、ペンをしまいながらそうシンチーに語る。
 シンチーは剣を収めながら首を横に振った。
 「逃がしてしまいました」
 「いやぁ、仕方ないよ。うん」
 「仕方なくないっ!」
 それまで呆然としていた少年が二人に食ってかかった。先ほどと違って声も大きい。
 「どうするんだよ、俺の剣とられちゃったじゃんかよ!」
 少年の顔には焦りが見え隠れする。どうやら相当大事な剣だったようだ。
 自分の剣が奪われたのは二人の責任だとでも言いたげな口調に、ロビンとシンチーは顔を見合わせた。
 どうやら人助けではなく藪をつついただけのようだ。
 「ま、まぁ、命があっただけでもありがたいと思いなよ」
 ロビンがそう取り繕うが、少年はだぁかぁらぁ、と大仰に首を横に振る。
 「俺にはあの剣がないと困るんだって!なんでおっさんもあのエルフ捕まえてくれなかったんだよぉ!」
 「文句を言う前にそもそも、君がもっとしっかりしてればよかったでしょ」
 それをさっくりと切り捨てる。少年は次の言葉に詰まる。シンチーは冷ややかに少年を見ているだけだ。
 「し、仕方ないじゃないかぁ!俺、全然力とかないし、魔法もあの剣がないと使えないし…」
 「…その体たらくでよくこの大陸に来れましたね」
 必死に絞り出された言い訳もシンチーに軽く言い返されてしまった。
 いよいよ言うことがなくなってしまったのか、少年はうつむいて肩を震わせはじめる。
 実際、異国の地で見ず知らずの相手に脅されて、身ぐるみ全てはがされなかったのは不幸中の幸いだと思うのだが。確かにシンチーに全て任せて執筆活動なぞ始めたロビンに全くの非がない訳ではないかもしれないが、そもそもこちらも善意で行っていることなのだ。助けられた相手が責め立てるのはお門違いではなかろうか。
 これ以上関わっても面倒なだけだと、ロビンとシンチーはその場を去ろうとした。
 「ちょ、ちょっと待って!」
 少年がシンチーの腕を掴んだ。掴まれた方は露骨に嫌そうな顔をするが、掴んだ方は必死だ。
 「おねーさん、俺のボディガードになってくれよ!」
 「嫌です」
 間髪入れずにそう断るが、少年はあきらめない。
 「頼むよぉ、あの剣を取り返すまででいいんだ!」
 シンチーは呆れ顔でロビンの方を見る。
 「そりゃ、我々だって乗りかかった船だけどねぇ」
 「おっさんには聞いてねぇよ」
 少年はむすっとそう言い返した。ロビンはヘラヘラ笑うだけだ。反対にシンチーはむっとした表情になり、少年の手を振り払った。
 不躾な子供だと言わんばかりに睨み付け、先ほどよりも早足でその場から去ろうとする。
それを止めたのはロビンだった。
「ちょっと待って、シンチー」
「…もう行きましょう」
「いや、話だけでも聞こうと思ってさ」
そう言ってニヤリと笑う。シンチーは納得がいかない様子だ。
いや、納得がいかない様子だったのだが、
「実は俺たち、宿を探していてねぇ」
ロビンのこの言葉で、納得したのであった。

       

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