駅前のベンチで、一人缶コーヒーを飲む。
ざわざわと人混みが目の前を流れていく。休日ということで比較的人通りは多い。たまに目線があって気まずさに顔をそらす。ぼんやりと眺める人の流れというものは、まるで水族館の魚のようだ、と思った。
ごちゃごちゃとした喧騒がイヤフォンの隙間から聞こえてきて、僕は孤独になっていく。
きっとみんなが感じていることなのだろう。このざわざわした世界と自分の距離感を。
喧騒の中に身を置くほどに、自分は一人だと感じずにはいられない。
誰もが誰かと繋がりたくて、着飾ったり電波を飛ばしあったり、キスをしたりする。
それが本当の繋がりではないとわかっていながら、それをせずにはいられない。
悲しくて、空しくて、無意味で。
「また、君は難しいこと考えてる」
すとん、と僕の隣の席に、誰かが座る。
「考えてないよ」
僕は彼女にそう応えて、半分残った缶コーヒーを彼女に手渡した。
「うそつき」
「そうだね」
いつもの調子で、けらけらと僕と彼女は笑った。
「でも、やっぱり考えてなんかいないんだ。結論が出せない、堂々巡りのいたちごっこでさ、答えなんか出せたことないんだよ」
「いいよ、答えなんか出なくても」
彼女は目の前を通り過ぎる魚の群れを眺めながら、缶コーヒーを傾ける。彼女にその景色はどう見えているのか。
僕と同じように見えているのなら、それは幸せだけれども。
「君はちゃんと、わかっているんだよ。何が大事で、何が大切で、何を選べばいいのか。答えはずっと、そこにあるよ」
「そこ?」
「ここ」
ここ、と言いながら彼女は何も指さない。
それでいいのか。それで、いいのだ。
「ま、あんまり考えすぎて、禿げたりしないでね」
彼女の軽口に苦笑しながら、僕は頷く。
彼女の言葉に僕は救われている。孤独の中で僕もまた、もがいてもがいて誰かと繋がろうとする。
それが単なる気休めでもいい。無意味でも構わない。
心も体も、完璧に繋がることなんてできないけれど。
「ごはん、食べに行こうよ」
彼女がそういって、僕は頷いた。
彼女は空になった缶をぽい、と投げる。からん、と音がなる。
「それで、何食べるの?」
「魚介類、かな」
彼女が言って、僕が笑った。