Neetel Inside 文芸新都
表紙

ニート的日常
2

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 2-1~ニート的行動範囲~

 以前にも述べた通り、
 ニートは外出を疎んじる傾向にある。

 丸一日自室から出ないなんて日もあるかもしれない。

 そんな余りにも動きに乏しいニートを、
 小説や漫画の主人公にしようと思うと大変だ。

 場面に動きがなく、
 単調でつまらない物になりがちだからである。



 あ、このスレオモスレー……

 今日も今日とていつものように、
 起きたら早速パソコンを起動していた。

 昨日もVIP、今日もVIP、
 きっと明日も明後日も、そしてまた次の日も?

 それは、ある意味とても魅力的にも思えるが……

 一般的な成人ならば、
 1年もの間ニートを続けることはないのだろう。

 世間の目や生活費なども確かに辛い。
 しかし、おそらく最も辛いのは有り余る時間である。


 やることがない。


 打ち込める趣味や追い求める夢、
 職探しや家の手伝いなどすることがある奴はまだいい。

 だが残念ながら、
 私にはそんなものはなかった。



 やることがない。



 これこそが真のニートに立ちはだかる、
 至上命題であると言っていい。

 と、そんなことを考えてるようでは、
 まだまだアマチュアニートである。


 生き物はすべからく進化を遂げる。

 キリンが頭上の葉を食べるために首を伸ばしたかの如く、
 魚類が陸に上がるため肺を手に入れたかの如く、
 先人達は既にこの至上命題に対する回答を得ていた。

 即ち、暇を潰すために妄想という名の行為を獲得したのだ。

 そうして彼らは全てを手にした。

 部屋にいながらにしてサンサンと照りつける太陽の下へ、
 剣と魔法が飛び交うファンタジーの世界へ、
 更には自分の理想とする女性の下へ。

 よって真のニートは暇を持て余すことはない。

 ハァハァ……ユリアタソ……

 私はいつものように妄想の世界へ飛び立ち、
 そのまま意識を失った。

     

 2-2~ニート的前兆~

 戦争に次いで文明の発展に貢献しているものは、
 ずばりエロだと私は思う。



「ハァハァ……こんなところで……」

 私は頭が真っ白になっていた。

「だ、だめだ……ぅ……こんな」

 それでも何とか理性を保とうと精一杯の抵抗を見せる。

「へぇ、どの口がそんなことを吐くの?」

 耳元で囁くように言葉が紡がれる。
 それは甘く、それでいて蠱惑的な響きを持ち、
 いっそ優雅とも言えるかもしれない。

「貴方が望んだことでしょう?」

 一言、また一言。

 紅い唇から音が漏れる度、
 理性が自我が、
 自分の中の知性を司るナニカが奪い去られるのを感じる。

「っ……!!」

 違う、こんなものじゃない!
 私が、私が望んだのは!

「ストーップ! ストップストーップ!!」

 あらん限りの理性を総動員して叫んだ。
 
 すると瞬く間に、
 場を支配していた異様な空気が消え去る。


 電車の中で痴女から痴漢に会う。
 それはいい。

 ところが乗り気になった男に逆にしてやられ、
 歯止めが利かなくなった男が少し強引に。

 と、こういう飽くまでも!
 私が優勢で責めるシチュエーションだったんだが。

 ダメじゃないか!
 あそこまで魅力的だとなに、
 こう理性が本能に押し切らてしまうからして……
 
 あたかも映画監督のように、
 いや、この場合はビデオか。

 ソレのように声を張り上げ演技指導のフリをする。


 だってぇ、
 タケちゃんがあんまり可愛いく鳴くからついー……

 すると甘えるような声でユリアが舌を出して謝り、
 
 もうしょうがないなぁ、ユリアは……

 私としては許す他なく。

 うふふ……あはは……えへへ…… 


 という妄想。

 いつもよりリアルに妄想出来た気がして、
 満足しつつ私は眠りについた。

     

 2-3~ニート的異変~

 妄想と現実の区別が付かなくなった時、
 それは最早ニートではなくただの危ない人だ。

 しかし、しかしだ。

 もし仮に妄想が現実と同じように感じられるならば、
 私は危ない人でもいい。

 こう言う者は少なくないであろう。



 私はふと思い立ち、
 いつもとは違う板を覗いてみることにした。

 私にとってこの掲示板は、
 一つ一つが新しい驚きに満ちた異国のようなものである。

 違う板を覗きにいく私は、
 さながら新天地を求めさすらう旅人か。


 板が変わればスレの質も変わる。
 中には難解な文字が並び、
 およそVPPERには理解不可能なスレばかりの板も少なくない。

 つらつらと斜め読みをしていると、
 あるURLが目に止まった。

 そこにマウスを合わせると画像が浮かび上がる。

 歳の頃なら十七、八。

 降り注ぐ太陽が栗色の髪を照らし、
 薄いピンクの唇が妖艶な微笑みを作り出す。

 大胆にも制服の胸元をはだけさせ、
 小さな布地からは四肢が露わになっている。 

 そして、
 透き通るような真っ黒な瞳がこちらを見つめ……
 まぁ早い話が女子高生風のエロ画像だった。


 これは……!
 
 早速お気に入りフォルダに突っ込もうと、
 マウスを操作した。

 
 その時。


「もう、私だけじゃ満足出来ないって言うの!?」

 と、ユリアから突込みが入る妄想。

 いやいや愛してるのは君だけさ。

 でもね、
 デザートは別腹っていう言葉が世の中には存在してて……

「じゃあ私もデザート食べに行っちゃってもいいの?」

 いやいやいや、それはまた話が……

 いつものように妄想を繰り広げていたが、
 ふと何かが引っ掛かった。

 声の響きがやけにリアルだ。

 あたかも自分の真後ろにユリアがいて、
 怒声を浴びせかけられているような……


「ちょっと聞いてるの!? もうっ!……」


 本当にその声が聞こえた気がして、
 反射的に後ろを振り返る。

 私の想像上の産物、
 私の妄想の中でしか存在し得ない生物。

 だが紛れもなく確かな存在感を放ち、
 ユリアがそこには立っていた。 

       

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