Neetel Inside ニートノベル
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 甲皇国駐屯所資料室、甲皇国の女性将校が意見書の作成途中で休憩していた。つむった右目を押さえ眉間にしわを寄せる。片方の目に負担が集中しているのかもしれない。
 気分を変えるために、自分の執筆した従軍記を読み返してみたが、すぐに本を閉じた。続きを書くにはまだ時間が必要だ。傷が乾ききるくらいの時間は。
 連隊司令部にて、スズカ・バーンブリッツは完成した意見書を直属の上官であるゲル・グリップ大佐に手渡した。ゲルは意見書をパラパラとめくると、すぐにスズカに突っ返した。
 近年、戦争による後天的な不具者もさることながら、環境破壊の影響による先天的な不具者が増加している。加えて甲皇国女性の合計特殊出生率はついに1.0を割り込んだ。戦争に取られると分かっていて、子を産みたがる女性がいるはずもない。
 スズカは対策として、一夫多妻制を民衆のレベルまで広めることを提案している。国が亜人の性奴隷を民衆に安値で払い下げるというものだ。
 熟読しなくてもスズカの言わんとしていることは分かっている。要はホロヴィズの進める軍隊の機械化に反対なのだ。機械兵が軍隊の中核になれば、人口減による兵力不足の問題は一挙に解決する。しかし、今まで兵力不足のためやむなく許可されていた、女性軍人の地位は危ういものとなるだろう。
 ゲルは右目の傷を髑髏の面で隠している。スズカは左目のやけど傷を隠さない。ゲルはその理由を知っている。女だから傷を隠しているとは絶対に言われたくないのだ。
 ゲルは制帽を正し、黒板にホロヴィズ将軍のここがスゴい! と大書する。軍制改革を断行し、忠誠心の低い傭兵から徴兵制に完全移行した。アルフヘイム上陸作戦を立案し、成功させた。機械兵の実用化。ゲルは黒板が文字で埋まるまで箇条書きする。
 スズカにとってゲルはやりやすい上官ではあったが、ホロヴィズを信奉しすぎている。こんな手は使いたくなかったが、感情に訴えるしか手はなかった。
「私は亜人どもが人間を性奴隷にしているという情報をつかんでいます。それでも亜人奴隷を活用することに反対ですか」
 スズカは一個人の体験を拡大解釈して、あたかも高貴な人間が奴隷にされているという話をでっちあげた。元ネタはスズカの知り合いの奴隷商ボルトリック・マラーが若いころ男娼をしていたというだけの話だ。
「かつてのホロヴィズ将軍ならば喜んで亜人奴隷を腹ませよと命じたはずです」
「分かった、再考の余地がある問題だ。秘書官に掛け合ってみよう」

       

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