Neetel Inside ニートノベル
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 なんでこんな昔話をしてしまったのか。首だけで横を向くと、エイリアはすでにぐっすりと眠っていた。メゼツは目がさえてしまって、今から眠れそうにない。


 気分を変えようと外に出た。
 澄んだ冷たい風がひんやりと心地よい。
 雲もなく、見上げると満天の星が空を埋め尽くしていた。甲皇国本国ではけして見ることのできない5等星や6等星などの名もない星も肉眼で見える。
 まるで空から銀色の雪が降り注いでいるようだ。
「母さん、銀色の空、ホントにあったぜ」
 メゼツは誰に言うともなくつぶやいて、しばらく何も考えず、飽きもせずに星空を眺めていた。
 こういう星のきれいな夜にお星さまは出るらしい。ようやくエイリアの言葉を思い出して、起こすために円盤の中に戻った。


 メゼツが掛布団の上から揺すって起こそうとするが、エイリアは寝ぼけたままで一向に起きる気配がない。
 布団をはいでやったが、それでも目を覚まさない。
「ったく、しかたねえなー」
 メゼツは文句を言いながらも、エイリアを負ぶって外に出た。
 お星さまは星のきれいな夜に森の中に現れる。情報はそれしかない。闇雲に夜の森を歩いてみたところで出会えるものではないだろう。
「まったく、なんでこんなことに俺は付き合わされてるんだ。当の本人は夢の中だっていうのに」
「呼んでる」
 急に耳元でエイリアにつぶやかれて、足がもつれてつんのめった。
「起きてんなら降りろよ。呼んでるってお星さまがか?」
 メゼツは負ぶっていたエイリアを降ろす。エイリアは首を振って大きく光る一番星を指さした。
「あの星をお星さまが呼び寄せてる」
 もとから奇行の目立つ女だったが、いよいよおかしなことを言い始めたな。一笑にふそうと指さす方を見ると、一番星はさっきより大きくなってて近づいてきているように見える。
「一番星を呼んでるってことはだ。反対側の西にお星さまがいるかもだな」
 メゼツは目星をつけると、すぐに捜索を始めた。
 星を操ることができるなら、かなり強い魔物に違いない。純粋な衝動がメゼツを突き動かす。せっかく取り戻した強化した肉体を試してみたい。
 どんどん森の奥に進むと、具合でも悪いのか四つんばいになっている半裸の男をみつけた。腰布一枚だけつけて、皮膚も色は青ざめている。あきらかに怪しい。メゼツは大剣に右手をかけて、十分注意しつつ顔をのぞきこんだ。
 目も鼻もなく顔はのっぺらぼうだ。大きく開いた口だけが、そこが顔であることを主張している。
「それ! そいつがお星さまよ」
 エイリアの声にメゼツの注意がそれると見るや、お星さまはメゼツの喉笛にかみつこうとかじりついた。すでに大剣は引き抜かれ、その勢いのまま叩き潰すように斬る。逆にお星さまの首が割れ、漆黒の液体が噴き出した。
 手ごたえが軽すぎる。あまり強くはないのかとメゼツはがっかりした。
 お星さまは2本足で立ち上がると、笑った。
 一番星はまた少し近づいてくる。
 お星さまの割れた首が再生し、体が一回り大きくなる。こきこきと首の骨を鳴らすとメゼツに飛びかかった。
 3本爪がメゼツの上衣を引き裂く。
「もらった!!」
 待ち受けていたメゼツはお星さまの引き際に大剣で胴を払う。
 お星さまは猫のように背中を丸め、ぎりぎりでかわす。大剣はむなしく虚空を斬った。
 また一番星が近づき、お星さまの体はもう一回り大きくなる。星が近づくほどにお星さまは強化されていく。
 左足2本爪の強烈な蹴りを体さばきでかわすことには成功したが、大剣を持つ右手首をつかまれてしまった。
 まさか足を使ってつかんでくるとは。完全に不意をつかれたメゼツは攻撃できぬまま、肩口を切り裂かれた。
 左足でメゼツの右手首をつかみ、片足立ちしながら、お星さまはとてもうれしそうに笑った。
 お星さまの口がさらに大きく広がり、首をかじろうと迫る。
「左も右も、ぼくは両方使えるんだ!!」
 メゼツは右手から大剣を離し、左手でキャッチ。すかさずお星さまの開いた口に大剣を突き入れた。
 黒い噴流が口からあふれ、光り輝く塊を吐き出した。
 つかまれた右手を振り払い、両手持ちで大剣を振り上げる。とどめをさそうと思ったが、その必要はなさそうだ。お星さまはしだいに透き通っていき、ついには消えてしまった。残ったのはお星さまが吐き出した光り輝く塊のみ。
 メゼツがその塊を拾うと、光はしぼみ、ただの石ころになった。
「星の欠片って、これでいいのか」
 そう言ってメゼツはエイリアに欠片を手渡す。
「どうして、あなたはこんなにも優しくしてくれるの?」
 自分でもなんでここまでしてやるのか、分からない。
 メゼツは初めてエイリアの顔をまじまじと見た。瞳に夜空の星が映り込んでいる。
 そっか、瞳が。瞳の光が最愛の妹メルタに似ていたんだ。メゼツは一人納得すると、口かららしくない言葉が零れ落ちる。
「星がきれいだな」
 エイリアはちょっとだけ驚いた顔をして、声を殺して笑った。
「おかしいかよ」
 顔を朱に染めて、押し黙っていたエイリアが口を開く。
「それ、私の母星では口説き文句だよ」
「いや、そういうつもりじゃないんだ。えーと……そういうつもりなのか」
 瞳の中の星が消える。目を閉じたエイリアの顔がメゼツに近づく。
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