Neetel Inside ニートノベル
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 そうしてドラゴンの安アパートから徒歩三分近所の団地の公園に俺たちは向かう。家を出たすぐドラゴンは「あっついでにツタヤの延滞してるDVD持って来るわ」といって別に逃げるわけでもなくマジでDVDを持ってくるんだから呆れたもんだ。お待たせ~。
 公園の中ではランドセルを地面に置いて小学生くらいのガキたちがサッカーで、ブランコで、ベンチでカードゲームしたりして遊んでいてどうやらここは近所のガキのたまり場らしかった。ドラゴンが「あれや!」と言って指差したのは小さな子供用のコーヒーカップだ。乗った人物がカップの中心の円盤型の部分を右回りで回すとその方向にカップは回る。円盤は赤褐色に錆付いて触ると血の匂いが鼻をくすぐった。ドラゴンは円盤の下に手をやって俺たちの視界から隠す。
「ええか? よう見とけよ」
 そう言ってドラゴンがふんっと鼻息荒く力を入れる素振りをすると円盤の上から何かがニョニョニョっと突き出てくるものがある。赤黒く錆付いた鉄でできたドラゴンの腕だ!
ミナコがああ~と言葉を洩らし俺は素直に感心する。ほお~。
「どうやすごいやろ、え?」
 そう言って自慢げに笑みを向けるドラゴンの腕に向けて俺は右手を突き出し照準を合わせドラゴンが笑みを絶やすことなく「ん?」と言った瞬間俺は力いっぱい思いっきりハンマーを振り下ろすような気持ちで鉄のドラゴンの腕を発火させる!
 ボン!
 言葉にならないドラゴンの悲鳴が響き渡り公園中に反響しそれまできゃっきゃと遊んでいた子供たちが一斉にこちらを振り向いた。隣りのミナコのボブカットの黒髪が熱風ではためき浮いていた錆が勢いのままに空中に舞い上がる。ドラゴンはコーヒーカップから出て砂の地面を転げまわっている。やりすぎたかなと思って燃やした腕のところを見ると真っ赤になっているだけで焼け消えたりはしていない。こういうときのための鞄の中の非常用の水を取り出して患部にかけてやると次第に落ち着きを取りもどし、ドラゴンはぶるぶる震え泣きながら俺を睨む。
「な、なにすんねん!」
 もう一本水の入ったペットボトルを取り出してドラゴンに投げる。
「罰だよ、だってあんたそうでもしないとまた泥棒するだろ、長くは続かない、いつかばれて痛い目見るんだ、だったら、今俺がこうしてやったらもうしないだろ、あんたは一応、俺の担任なんだからさ」
「だからってお前な、もっとやり様があるでしょうが、ああ熱う」
「警察に突き出されるよりはマシだろ、な?」
 そう言って後ろのミナコを見ると髪の毛の先端が若干焦げていて俺を恨めしそうに今にも刺し殺しそうな雰囲気を纏って俺を睨んでいた。こうなったときのミナコは怖いと俺は過去の経験から知っていた。ミナコが無言で近寄ってくるので「ごめんなさいっ」と俺が両手で頭を覆ったが飛んでくるはずの暴力がないのであれっと思って目を開けるとミナコはドラゴンの前にいる。
「そうですよ軍上先生、リョウ君の言うとおり、私たちは先生にそんな悪いことしてほしくないです。私たち先生のこと好きなんですから」
なんだか照れくさかったので頭を掻きながら「俺を入れるなよ」と付け足すとドラゴンが真っ赤な腕ですすり泣いていて俺はギョッとして驚く。「うう~ごめんなお前ら~」などと言いながらだらしなく鼻水も垂らしているドラゴンを見てうわマジかよって若干引かなくもないけど、そんなやつでも俺たちの教師であり人間なのだ。それにドラゴンはクズはクズだがたぶん良いやつなのだ。俺のやったことは間違っていない。となんだか和やかな気持ちに勝手に一人でなっていると、ミナコもドラゴンもまだ気付いていないようだったがドラゴンの真っ赤だった腕が急激に色を変えて肌色に戻っていく。んん?
「もうしないでくださいね先生、私先生のこと信用してますから」
「わかった~わかった~」
 ハンカチでグシャグシャの顔をミナコは拭いてやる。二人していかにも青春ドラマの一ページみたいな雰囲気だったがそこにはもう俺はいなくて俺の意識はドラゴンの腕に向いていた。俺が見てから数秒で真っ赤だった腕は元の完全な肌色になり、しかし小さな火傷はところどころは黒くのこっている。
「ドラゴン、腕治ってるよ」
 泣いていたドラゴンは俺の言葉を聞いてあれって顔をして自分の腕に目を降ろして「ほんまや、もう熱ないわ」と言う。
「あれぇ水のおかげかなぁ」
 ドラゴンはそう言うが、そうなのだろうか?
 時はすでに夕刻を過ぎて夜になりかけていて、そうして俺たちは雰囲気に飲まれて絶賛感動中のドラゴンが飯を奢ってくれると言うのでお言葉に甘えて近所の天下一品に行きラーメン好きのミナコはとても嬉しそうにしていた。一応教師のドラゴンが教師らしく送っていくといったが断ったので「気をつけて帰れよ~」といってドラゴンと別れた。
 それからというもの学校でドラゴンに会うたびにやつは嬉しそうな顔で絡むようになってきた。俺はミナコがいたからそうでもなかったが、割りと自分の能力について周囲に話すこともはばかられるから簡単には話せず寂しかったのだとガハハと語った。いつから能力が使えるようになったのかと聞くとそれは割と最近だと言う。
「始めはたまげたけど、まぁ慣れると便利やからなぁ」
俺もミナコもそれ以上やつの犯した罪について追求することはしなかった。気持ちは痛いほど分かるし何度も言うがドラゴンは根は生徒思いの良いやつなのだ。
 そんなことがあってドラゴンは俺たちの仲間になった。

       

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