マンガの資料が届いたので広げていたら彼女から小言。
「またそんなの買ったの? 前も似たようなの買ってなかったっけ?」
「そうだっけ? まあでも資料だから……」
「これまたアレに着せるんでしょう?」
アレとは僕の部屋にある等身大ラブドールのことである。
「しょうがないじゃないか。僕だってホントは君に着て欲しいけど、君が無理って言うから人形で我慢してるんだよ」
「はあ? 何それ。私はラブドールの代わりだっていうの!? 信じらんない!」
最初におねがいした時からというもの、何かと言うたびにこうして怒られている。そんなに怒るなら、というのでラブドールを使いはじめたらそれはそれでまたご立腹らしい。意味が分からない。
「いいから早く人形さんとコスプレ写真ごっこしてきなさいよ! 『資料』ですものね?!」
彼女がプリプリ自室に引き上げていったので、僕もマンガを描くことにしよう。
「あれ?」
さっき部屋に戻った時に持っていき忘れた衣装を取りにきたのだが、どこにもない。いくらヒステリィを起こしてるとはいえ、僕のモノを勝手に捨てるような人じゃないハズなんだが……。一応聞いておこうと彼女の部屋をノックする。
「ごめーん。いる?」
「へっ!? あっ、ちょっと待って。すぐ開けるか……」
彼女の慌てた声に続いて、凄まじい落下音。
「おい、大丈夫か!?」
ドアごしに呼びかけるが返事がない。僕は慌ててドアを開いた。
床の上で大の字に延びている彼女は、見事なまでに赤いチェックのプリーツスカートをはだけてパンツを晒していた。上には青いカッターシャツに紺のネクタイ、プリーツスカートと同じ生地のベスト……俗に言う「アメスク」、アメリカの学校制服のコスプレだ。僕が今朝開けたものと全く同じものである。
「何見てんのよ!」
パンツ丸出しのまま怒鳴られても迫力ないんですが。というか、怒るのはむしろこっちなんじゃ。怒ってないですけど。
「最初は恥ずかしくて断ったけど……貴方の手で着飾るラブドール見てたら、羨ましくって……。私だって、たまには貴方の好みの可愛い服で着飾ってみたいって……。魔が差したというか、勝手に着たのは悪かったわ。ごめんなさい」
僕は心の中でこっそりガッツポーズした。
「そういうことなら素直に言ってくれればよかったのに。じゃああの人形は捨てちゃうね」
そう、こうなれば人形型彼女誘導催眠装置はもう、必要ないからね。