Neetel Inside ニートノベル
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「……じゅう。もーういーいかーい?」
 呼びかけたが返事はない。振り向くと無人の荒野……ではないが、うるさかったガキンチョ共の姿は消えていた。返事がないのは、声を出すと隠れてる場所がバレるから、だそうだ。
「さて……と。なまった身体でどこまでいけますかね?」
 軽くストレッチをしながら辺りを見渡す。確か範囲はこの裏山一帯ということだ。最終的には体力が物を言うとしても、序盤ぐらいは頭を使って効率良く探していかなければ。幸い子供の浅知恵で隠れるような場所というのは限られている。バンバン安地を暴いてガキンチョ共を震え上がらせてやろう。

 目をつけた樹木に囲まれた背の高い草むら。近くまで足を運ぶと、ガサガサ草を踏み分ける音と一緒に声がする。
「来た来た来た」
「シーッ、静かにっ」
「近い近い、まずいんじゃね?」
「逃げる?」
「え、でも気付かれてなくね?」
「まだ行けるまだ行ける」
 草むらの中で稟議しているのが丸聞こえである。ハハハ、こういうのを下手の考え休むに似たりと言うのだ。どうやら連中は3人ほどで纏まって潜伏しているようだ。これなら一網打尽に出来るだろう。
「そこかぁ!」
「うわああああ!!!」
「ぎゃあああああ!!」
「きゃああああ!!!」
 樹の根本を見る、とみせて身を翻して草むらに上半身を突っ込むと、ガキンチョ共は楽しそうな悲鳴を上げて飛びのく。その背中を必死に追いかけてタッチする。草むらに足を取られて、奥の方に逃げた奴は逃がしてしまった。
「にーちゃん、ずりいー」
「そーだよ。だますなんてさー」
「覚えとけ。大人になるってことは、ずるくなるってことだ」
 文句垂れてる二人に向かって、カッコ悪い説教を垂れた。

 その後も何度かの茶番や追っかけっこを経て、遂に最後の一人を見つけた。
「フフフ、もう逃げられんぞ」
「や、やめて……来ないで」
 どうも様子がおかしい。普通はキャアキャア言いながら楽しそうに逃げるのに、私の顔を見て尻もちをつき、声にならない悲鳴を上げながらじりじりとあとずさっている。まるで本物の怪物に会ったかのような……。
「来るな……来るなあああああああああ」
 とうとう泣き出してしまった。おどかすつもりはなかったのだが……。私は戦闘態勢を解いてゆっくりと彼の元に近付くと、優しく声をかけた。
「大丈夫。僕らが襲うのは生きてる人間だけだよ。君はもうゾンビなんだから、誰にも襲われることはないんだ」

       

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