Neetel Inside ニートノベル
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 図書館の窓から外を見ると、街は雨の色に染まっていた。と言っても、塀が水色のペンキで塗られていたとか、雨粒や雨雲がオレンジやピンクに見えるとか、そういう話ではない。どちらかと言うと、「雨の気配」の色という方が正しい。まだ降ってはいないけれど、いかにもこれから一雨来そう、それも辺り一面を洗い流すほどの激しい奴が。そう思わせるような雰囲気に景色が染まる時がある。敢えて例えるなら、赤銅色、あるいはセピア色とでも言おうか。

 ボケーっと眺めている間に、今度は窓ガラスに細い透明な筋が入り始めた。筋はみるみる間に増えていき、灰色だった地面が黒ずんで変わっていく。今日はどうやら「降る日」のようだ。雨音は読書に集中するのに丁度いい気がする。そろそろ帰るつもりだったが、もう少しゆっくりすることにした。傘も持ってきてないし、雨が上がるまでお邪魔しよう。

「お客様、そろそろ閉館時間ですよ」
 職員さんに肩を揺すられてハッとする。雨は上がっていた。どうやらそんなことにも気付かないほどに没頭していたらしい。御礼を言って図書館を出る。家に帰ってやり残した家事をしなくちゃあ。その時大変なことを思い出した。

 洗濯物欲しっぱなし!

 完全に忘れていた。思わず自宅に向かって走り出す。今から取り込んでも、雨曝しになっていたことは取り消せないのだが。
 ところが帰ってきてみると、意外にも洗濯物はパリッと乾いている。雨や泥で汚れた形跡もなく、とてもさっき雨が降ったようには思えない。
 そういえば、帰り道のアスファルト、全然濡れていなかったような……。

 丁度ベランダの外で犬の散歩にしていたおばさんに聞いてみた。
「すいませーん、今日って雨、降りましたっけ?」
「いいやー? 別に降ってないねえー、今日は曇り空だったけどよく洗濯物が乾いたよ」
 やっぱりおかしい。図書館で見た雨は一体なんだったのだろう?
 困惑する私の周りが、またセピア色に染まっていく。テレビの天気予報が、「明日は土砂降り」と伝えていた。雨が、予行演習でもしたのだろうか。

       

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