Neetel Inside ニートノベル
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 壇上に5人の男が並び立つ。4人はかなりがっしりとした体格の持ち主で、目からは鋭い眼光を放っている。残る一人は他の四人と組み合ったらあっという間にひしゃげてしまいそうなほどに小柄な男だ。観客の熱狂ぶりに比して、舞台には一触即発の緊迫した雰囲気が漂っていた。
 司会者が元気良く宣言する。
『それじゃ、THE☆BIG☆EAT FIGHT、ファイナルマッチ開幕です!』
 男たちの前に山盛りのカレー皿が乗った机が運ばれてきた。

『凄い凄い凄い! その小さな身体のどこにそれだけの量が入るというのか! いやむしろ、小柄な身体こそが大食いの王者の資格ということなのか〜?』
 司会が興奮するのも頷ける。それほどに小柄な男の食べるスピードは異様だった。既に空けられた皿の数の差は倍と半分になろうとしている。周りの男たちが遅いというのではない。奴が早過ぎるのである。一瞬で体内にカレーが吸い込まれていく様は、掃除機の通販番組を見ているかのようだった。
『おや? これはどうした、手が止まったぞ?』
「どうしたー!」
「休んでんじゃねー!」
 開始30分で早くも50杯目に入ろうか、という時になって、男の手がピタッと止まった。観客から応援、挑発など野次が乱れ飛ぶが、男は動かない。やがて身体全体がプルプルと震え出した。明らかに異常な痙攣である。奥からメディカルスタッフが現れ診察を始めようとするが、男は何故かそれを拒む。
「やめろっ、俺に近付くな……」
「なに言ってるんだ、そんな様子で大丈夫なわけないだろう」
「リタイアよりも健康の方が大事だろ、ほら早く診せなさい」
「違うっ、そういうことを言ってるんじゃねえ、いいから早く離れろ!」
 男が叫んだ瞬間、男の身体が奇妙に歪み、次の瞬間に消えた。「シュゴッ」という音が舞台に響く。
 突然のことに固まる面々。その一瞬の隙をつくかのように、「シュゴッ」「シュゴッ」とリズミカルな音が響く。それに合わせるかのように一番近くに立っていたメディカルスタッフたち、そして選手たちが次々と消えていった。
『ふ……不正改造です! なんとその身体に小型ブラックホールを仕込んでいた! それが今暴走している! これは明確な不正行為』
 「シュゴッ」という音を残して司会が吸い込まれると、辺りは蜂の巣を突いたような大騒ぎになったが、それが静寂へ変わるのにそう時間はかからなかった。

       

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