Neetel Inside ニートノベル
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「お願い、殺さないで! 私を助けてくれたら、きっと貴方のお役に立ちましょう」
 釣り上げた魚の言葉を聞いて、漁師は言った。
「何の力も持たない小さな魚が、おいらの役に立つだって?」
「そうですとも。試しに何か一つ願いを言ってご覧なさい。私がその願いを叶えて差し上げましょう」
 漁師は思った。一つ、この魚の話を聞いてやるのも悪くない。途方もない願いを一つ言って、叶えばよし、叶わなければ最初の通り捌いて食ってしまえばいい。
「分かった。んじゃ、おいらを億万長者にしてけろ」
 漁師がそう言うと、魚は飛び跳ねて空中で一回転した。
「お安いご用です。ではまず、ここから南へ真っ直ぐおいでなさい。足の歩幅は普段通りに、大きくても小さくてもいけません。方角を違えることなく真っ直ぐ歩き続けていくと、いつか足の裏が鋭く痛む場所に出るはずです。その地点をスコップで掘るのです。そうすれば、貴方に富がもたらされましょう」
 漁師が言われた通りにすると、まもなく足の裏が痛くて痛くて踏めない場所に行き当たった。
「ははあ、ここだな」
 漁師がスコップで地面を掘ると、果たしてそこから金貨や宝石の詰まった宝箱が出てきたではないか。
「ありがたいだ。これでおいら億万長者だ」
 漁師が喜んでそう言うと、魚はこう答た。
「御礼には及びません。その程度の富では億万長者と言うには程遠いですからね」
 それからと言うもの、漁師は歩くたびに行く先々で強烈な足痛に悩まされるようになった。足が痛む場所を掘れば、必ず宝箱が手に入る。しかし漁師は、それを次第に煩わしく思うようになっていった。彼はそもそも億万長者になりたかったわけではなかった。最初に得た金貨だけで、彼が一生遊んで暮らすには十分だったのだ。
 漁師は魚に足を痛ませるのをやめるように言ったが、魚はこう言った。
「残念ながら、私は貴方の願いをまだ叶えていません。願いを叶えない限り、その術は解くことが出来ないのです」
 漁師は宝探しを続けた。欲しくもない宝箱を集めるために、痛む足をひきずりながら、毎日毎日一心不乱に穴を掘った。手に入れた宝箱は人に上げてしまうと自分が億万長者になれないので、自分で貯め込むしかない。人は彼を守銭奴と呼んだが、彼は自分の足を治すのに必死だった。
 やがて魚が漁師の『願い』を叶え、術を解いた時、彼の足の裏は彼の資産を使っても直せないほど大量の魚の目に覆い尽されていた。

       

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