Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

店ののれんをくぐると、先輩が手を振った。
「いやー、悪いねいつも」
「いやいや、先輩の為なら例え地獄にでも駆け付けますから」
「え? あんたそれ私が地獄に落ちるって言いたいわけ?」
「とんでもない! 先輩が行くとしたら絶対天国ですよ」
「結局死んでるでしょーがそれ!」
カラカラと先輩が笑う。こういうくだらない話がいつまでも続いてくれればいいのに。そう思いながらも、つい自分でそれを壊しにいってしまうのが恨めしい。
「それで、今日はどんな大作戦を奏上すればいいんですかね?」
「しーっ、声が大きいぞ軍師リョーコ! もっと口を慎め!」
大げさな動きで私を制す先輩。しかしその目はキラキラを輝いて笑っている。これからの作戦会議とその後の恋愛大作戦のことを想像したのか、心持ち顔が緩んでいる気もする。
そんなに先輩が喜んでくれるのが嬉しくて、私は更に先輩の望みを叶えようとする。それが自分の本心に反する結果になろうと分かっていても。
「とぼけても無駄ですよ? また出来たんでしょう、好きな人」

先輩の告白を、私は路地裏の片隅に隠れて聞いていた。
「ずっと前から好きでした!」
宗田さんは、少し驚いたように目を見開いて、それから申し訳ないような、嬉しいような、そんな複雑で優しい表情を浮べながら、「ごめんね」と言った。失敗だ。
先輩の胸のうちを思うと、胸が引き裂かれそうだった。失敗の可能性が高いことは分かっていた。宗田さんには素敵な彼女が既にいたのだ。そのことは先輩にも告げていたし、それでもなお正面突破からの玉砕が成功率が一番高いと進言したのは私だった。それでも、もし先輩の前に立っているのが、私だったら。もし先輩が好きなのが私だったら、そんな思いはさせないのに。
一方で、作戦が失敗に終わったことを喜ぶ自分も確かにそこにいて、その自覚が私をより苛んでいた。もっと上手いやり方があったんじゃないか。例えば彼女と別れさせてしまってから先輩を接近させるとか。ベストを尽そうとしなかったのは、お前自身の欲望のせいだ……そういう良心の声がまた、私の心をボロボロにしていく。
「リョーコ」
上から響く声でふと我に返ると、先輩が心配そうにこっちを見ていた。
ひどいな、私は。振られて傷心中の思い人に心配されて、喜ぶなんて。
「今日は反省会ですね。いつものお店で」
「だね! チクショー、死ぬほど飲むぞー!」
先輩の空元気に合わせて、私も静かに笑った。

       

表紙
Tweet

Neetsha