Neetel Inside ニートノベル
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悪夢にうなされているという話を友人にしたら、そういうのを専門にしているとかいう人を紹介された。
幽霊とか信じないタイプなので、そういうのはいいと断ったのだが、向こうの方が何故だか乗り気で、無理矢理押しかけられて「治療」を受けることになってしまった。
万年床に仰向けに転がり、脇で「治療」の「準備」とやらにいそしむ「専門家」を眺める。歳は僕とそう変わらない、せいぜい20代の後半から30代といった感じだ。力のない瞳と生気の薄い顔は不安感を煽り、よれよれに着崩れした着流しとざんばらの頭は胡散くささしか感じない。おざなりの紹介だけしてとっとと逃げ帰ってしまった奴との付き合いは考えなおす必要がありそうだ。
「整いましたよ」
ふと気付くと、彼の傍らには見たこともないような動物が座っていた。パッと見は、キツネや犬に似ているが、色は白くて、毛の生えていない胴体は全体的につるんとしている。尖った頭には鼻や目や口はなく、流線型の形に手足が生え、同じようにつるんとした尻尾が生えていた。
「これはバクです」
私の訝しげな視線に気付いたのか、そう彼は言った。一般的な動物の貘ではなく、夢を食べると言われる想像上の生物であるバク。これを使って今から「治療」をすると言う。
私はいささか拍子抜けした。「治療」と言うぐらいだから、本人が手をかざしたりするとばかり思っていたのだ。「バク」が突然現れたのは少し不気味だったが、動物を使うならそうそう変なことにもなるまい……そう思っていた私の期待は裏切られた。
バクは奇妙に震えたかと思うと、突然、頭から3つに裂けた。裂け目には細かくギザギザした歯が並び、頭……と思っていた口の中は、ピンク色のぬめぬめした舌が3本ほどのたうち回っていた。
「この中に頭を突っ込んで、悪夢を食べてもらいます」
彼は平然とそう言って、微笑んだ。

私は目を覚ました。体中がこわばり、両手は硬く握られている。全身が寝汗でべとべとして、寝間着が貼りついていた。ここまで鮮明な悪夢は久しぶりだった。
枕元で着信を報せるLEDが光っている。起き上がって内容を確認した私は息が止まりそうになった。
「知り合いに悪夢を祓う専門家?がいるんだけど、話したら是非紹介してくれって! 今度一緒にそっち行くから」

       

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