Neetel Inside ニートノベル
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 立食パーティーは昔から苦手だったが、どうやら長いこと引きこもりをしている間に一段と苦手になったらしい。皿とコップを抱えた僕は何が出来るでもなく、ただ隅っこでボーッと突っ立つだけの時間を過ごしていた。そこへ現れたのは担当編集。挨拶回りでもしていたのか他の人と親しげに話をしていたが、僕の寂しそうな様子を見兼ねてかこちらへやってきた。
「どうですか、パーティーは」
「いやー、人見知りで中々……。こういうのはどうも苦手で」
「はっはっはっ。でしたら私からどなたかご紹介しましょうか。ちょっと待っていてください」
 担当がふらふらと去っていって数分、背中をぽんぽんと叩く感触がする。振り返ると腰の曲がった老人が立っていた。
 老人はそのままの姿勢で動かない。僕もしばらくはじっとしていたが、やがて勇気をふるって声をかけた。
「あの……何かご用でしょうか……?」
「ん? ワシか?」
「え、あ、人違いだったら申し訳ないんですが、先ほど僕の背中を叩かれたような……」
 老人の首がゆっくりと右に捻られる。ややあって、「ああ!」と老人が声を上げた。
「そうじゃそうじゃ、ワシじゃ。ワシが叩いた」
 老人はカラカラと笑った。
「いや何、あまりにもカチンコチンに緊張している様子だったので、見ていて可哀想でな。老婆心、いや老"爺"心ながら少し揉んで解してやろうかと思ったのよ」
「はあ」
 僕は老人をもう一度じっくりと眺めてみた。年のいった新人……というには少し堂々としすぎているような気もする。もしかして、この老人が担当の言う『見繕ってきてくれた』人なのだろうか? 独特の雰囲気があるし、何かこの業界に多大な影響力を持っている影の実力者とかなのかもしれない……。
「ちょっとおじいさん! また勝手に入り込んで!」
 背後から担当の怒鳴り声が聞こえて僕は肝をぶつした。話しかけられた当の本人は飄々としている。
「今年はバレるのが早かったのう。まだ食べ足りんわ」
「そのうち窃盗で訴えますよ! 全く、守衛さんは毎年いったい何をしているのか……」
 担当はひょい、と老人を抱えると、そこで初めて僕に気付いたようだった。
「あー、紹介はちょっと待ってくださいね。この不法侵入ホームレスをつまみ出してから改めて」
 そういうと二人は僕を置いて去っていった。

       

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