Neetel Inside ニートノベル
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「小説が書けないんです」
「そうなんですか。これまでは書けてたんですか?」
「はい。最初のうちは普通に書けてたんですけど、最近は全然駄目なんです」
 深刻な表情で嘆く相談者を見ながら、カウンセラーは優しく頷いた。
「なるほど。どういう風に駄目なんですか?」
「以前にも不調の時はありました。けれど、寝たり身体を休めたりしてリラックスしていると、目の前になんというか……神様? みたいな存在が現れる感じがするんです」
 相談者の目付きは真剣そのもので、ふざけているようには感じられない。もっともカウンセラーの方はこういう相談者には慣れているようで、大きな反応はしない。肯定することも否定することもなく話を続けていく。
「その神様が小説を書くのに役に立っているということなんですか?」
「はい……自分で言っててもおかしな感じがするので、多分夢なのかな? と思うんですが……とにかくそれを見ていると、色んなインスピレーションが湧いて、また書けるようになるんです」
「なるほど。今はそうじゃないんですか?」
「そうです。なんというかこう、寝ても何も出てこないんです。夢を見てない状態というのが一番近いんですけど……本当に何も出てこなくて、毎日苦しい苦しいと言いながら書いています」
「そうなんですか……。苦しいけど書き続けているのはなぜなんですか?」
「書かなければ自分が駄目になってしまう気がするんです。書いていてもあまり良くなる感じはしないんですが、辞めてしまうと本当に何もなくなってしまう気がして」
「なるほど、そうなんですね」
「こうして話を聞いてもらっているうちに元気が出てきたような気がします。今なら何か降りてきそうです」
「それは良かった。今日は書けるといいですね」
「でも、ここを離れるとその感じが去ってしまうような気がします……そうだ」
 相談者は突然身を乗り出した。
「今からここで寝るので、僕の前にちゃんとインスピレーションの神が現れてるかどうか確かめてくれませんか?」
「え? ここでですか?」
「そうです。お願いします」
 カウンセラーが止める間もなく、椅子に座った状態で相談者は目を閉じる。ほどなくぐうぐういびきが聞こえてきた。
「困ったな……あと5分で次の人なんだけどな……」
 カウンセラーはしばし迷ったのち、「よし」と軽く頷いて紙とペンを手に取った。
「何文字ぐらい書けば満足してくれるかな……1000字ぐらい?」

       

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