Neetel Inside ニートノベル
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 最近になって、変なブザーの幻聴が聞こえるようになった。2秒おきに2秒の間隔で、無機質な「ブー」という音。そんなに大きな音ではないし、何かに集中しているときは特に気にならない。しかし、回りが静かだったり、やる事を終えてリラックスしたりするタイミングで、ブザー音は突然鳴り始める。耳鼻科に行ってブザー音の話をすると、ロクに症状も聞かずに医者は言った。
「分かりました。その症状については専門のドクターを知っていますので、紹介状を書きましょう」
 怪しいとは思ったがやはり耐え切れず、私はその個人病院に向かった。

 出てきたおっさんは胡散くささの塊だった。はっきり言って医者にも見えなかったが、ここまで来たら乗りかかった船である。私は言った。
「ブザーの耳鳴りが酷いんです。直してください」
 男は微笑んだ。
「よくうちまで辿りついてくれました。貴方のそれ、実は病気ではないんです。よく聞いてくださいね」
「病気じゃない? いやいや、じゃあこれが正常だって言うんですか」
「正常というわけじゃないですが、貴方の身体や心がおかしいのでもない。悪いのは外部から放射されるその音なのです」
「外部?」
 頭が混乱する。ブザー音が強くなった気がした。
「特殊なスピーカーから、特定の人間にのみ聞こえる特殊な音波を射出する実験が行われているんです。しかもその音は、非常に危険な性質を持っています。詳しくは分かりませんが、我々は、音を通じて、人に指令を与え、意志を操ることが出来ると考えています」
 音は確実にうるさくなっていた。頭がガンガンして、私は額に手を当てた。
「私たちは計画を阻止すべく、貴方たち被験者を探していたのです……ちょっと? 聞いてますか?」
 男が私の顔を覗き込んだが、それに構う余裕はなかった。頭が割れんばかりに痛い。何かを言葉にしようとして出来ないまま、私は意識を手放した。

 私が目を覚ますと、そこはさっきの病院のベッドの上だった。隣にはあの男が寝ている。夜通しの番でもしてくれたのだろうか。
 ブザーは頭の中で鳴り続けていたが、私の心はもう穏やかになっていた。ほら、今も語りかけている。うるさくなんてない。この音に導かれるがままに行動していれば、私は幸せに暮らしていけるのだ。だからまずは指示通り、良からぬことを企む悪い奴らを殲滅しなくては。
 私は晴れやかな気分で、目の前にいるクズを張り倒した。

       

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