Neetel Inside ニートノベル
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 社員の指示に従って作業列を移す。目の前には丸い透明なガラス玉のような物が並んでいる。
「手順は一緒すか?」
「うん、あ、5番目だけ飛ばして後回しにして。終わったら指示するから俺呼んでね」
「はい」
 素直に返事して、俺はハンマーを取り出した。玉の中心に向かって打ち下ろすと、パリンと小気味よい音を立てて割れる。中身は空洞のように思えるが、実際は中に粘土か豆腐のような湿った半固形の柔らかいものがいくつかの電子部品と一緒になって入っている。まるで脳みそみたいな感じだ。割るとそれらは外に飛び散るのだが、それについては俺の仕事の管轄外であった。
 10個ほど割った頃、ふいにちょっと人の呻き声のような音が聞こえてきた。この仕事も長いが、こんなことは初めてだ……初めてと言えば、さっきなんか変な指示されたな。確か……
「うわっ、しまった!」
 慌てて5番目まで戻ると、やっぱり玉は割れていた。しかもその下から例の呻き声が聞こえてくる。どうやら俺のミスが原因っぽい。やっちまった……。
 善後策を社員に乞おうと内線ダイヤルを回していると、例の音のする玉のあった辺りに人が立っているのが見えた。おいおい何者だよ、どこから入った……そう聞こうとして、その人影から例の音が発せられていることに気付いた。よく見ればその頭はハンマーで叩き割られたかのように陥没しており、身体全体に粘土のような半固形の物体がへばりついている……。
 俺が何か言うより早くソイツはこちらへ向き直った。ソイツには目がなかった。いや、目というより顔そのものがないから、俺の方へ向けたのが前側なのかどうか分からないが……。とにかくその「無貌の顔」をこちらに向けて、ソイツは切れ切れに言った。
「助……け……もう、殺さ……で……」
「もしもし、どうした?」
 電話の向こうで社員の声が聞こえた。
「あっ……社員さん、なんか、間違えて割っちゃって……したら、なんか、変な奴が現れて、なんか……と、とにかく助けてください」
 社員の指示は明確だった。
「あーやっぱり5番の電源切り損ねだった? あの場で時間取って確認すれば良かったね。もう割っちゃって起動しちゃったんだ……そうしたらそのアンドロイドの背中の方に主電源のスイッチがあるハズだから、それ押して。もしそれでも電源切れなかったら、悪いんだけど俺行くまで変なところ出歩かないように監視しといてくれない? よろしくー」

       

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