Neetel Inside ニートノベル
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 20年来の友人の披露宴。新郎の友人の顔は輝いている。当然だ、人生にそうそうない晴れ舞台だからな……。奥さんも優しい柔和な微笑みを浮かべてそばに寄り沿っている。世界一幸せそうな二人だと思った。

 一方の俺はと言えば、慣れない場に引きずり出されて完全に気が動転していた。つんつるてんのスーツ。剃り残した髭。普段は気にしていないはずの吐息の加齢臭すらも気にかかる。はっきり言えば、全員が俺を笑っている気がする、という感じ。そんな事は被害妄想だ、単に中学生によくある自意識過剰な考え方だと分かってはいても、その思考を止められない。

 その時、俺の耳にクスクス笑いが忍び寄ってきた。空耳だ、被害妄想だと思い込もうとしたが……無理だ。本能が告げていた。背後のテーブルで女性たちが指さして笑っているのは……俺だと。顔が真っ赤に茹で上がるのが分かる。式は進行しているが、俺の耳にはもう何も入ってこなかった。これ以上生き恥を晒すなら、もう帰ろう。そう思った時だった。

「お引き取り下さい」
 突然の声に驚いて振り向くと、そこには前に立って挨拶していた筈の新郎がいた。その目は俺の後ろにいた女性たちに鋭く向けられている。高校時代、俺や彼をいじめて喜んでいた女どもを睨みつけていたあの目を思い出した。
「人選には万全の注意を払ったつもりでしたが、こちらの落ち度で貴方がたを呼んでしまったようです。それについては大変申し訳なく思います。しかし我々としては他の参加者を愚弄するような輩にはここにいてほしくありません。ご祝儀はお返ししますから、お引き取りを」
 静かに、だが有無を言わせぬ口調であった。

 女たちは鳩が豆鉄砲を食らったようになって、口数も少なに退散していった。その後、残った参加者に丁寧に詫びて回る新郎を見ながら、俺は改めて思った。彼はいつも誠実なのだ。招待前にも「呼んで大丈夫か?」と確認されたし、式前日にもわざわざ電話で「無理して出なくてもいいからな」と言ってくれた。今の出来事だって、いわば俺のワガママな出席によって起きたことなのに、こうしてその泥を被ってくれたのだ。だからこそ、今日の晴れ舞台が、アイツには相応しいと思える。

 結婚おめでとう。末永くお幸せに。

       

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