Neetel Inside ニートノベル
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「ぐおぉ……」
 カリ首のあたりが強く締め付けられて、声が漏れる。結衣奈は上目づかいにこちらを見つめると、ゆっくり前後し始めた。ペニスが喉奥から引き抜かれ、裏筋を舌がなぞり、亀頭に唇が触れる。そして、再び喉奥まで飲み込まれる。たったの三往復しただけで、俺は耐え難い射精感に見舞われた。
「ちょ、ちょっとまて」
 慌てて腰を逃がす。
「どうしたの?」
 未だ、上目づかいで見つめる結衣奈。
「出るところだったぞ」
「出していいよ。遠慮しないで」
 諭すように言われる。
 別に遠慮などしていない。ただ、膣内にも入れていないのに、早々に射精するのが情けないだけだ。俺の憮然とした表情から悟ったのだろう。結衣奈は慈しむように、掌で陰嚢を包む。
「大丈夫。すぐにイっちゃうのも、お口で射精するのも恥ずかしくないよ。男の子だもん」
 言うと、結衣奈は再び、おいしそうにペニスを頬張る。
 今度は口の中をいっぱいに使って、性感を弄ばれる。竿のあらゆる場所をぬめった舌が這う。頬の内側で亀頭を擦られる。緩やかな刺激に身もだえしていると不意に、固い感触がペニスを挟んだ。
「つっ」
 歯で甘噛みされた陰茎には、痛みとも快感ともつかない痺れが残る。
 結衣奈は悪戯っぽく顔を見上げた。痛んだ場所を、癒すように舐められる。快楽から痛みまでを支配されると、感情の手綱まで握られているような錯覚がする。なにもかも結衣奈の思い通りならば、身を任せてしまってもいいのではないか。どうせ、最後には満足させてくれるに決まっているのだから。
 玉を揉み解されながら、俺はだらしなく口元を緩める。屈服した様子を見て、結衣奈はトドメとばかりに、根元まで吸い付いた。
「で、出るっ……」
 言葉に返答はなく、口淫の奉仕で応えられる。いよいよ精液がこみ上げた。喉からペニスが引き抜かれると同時に、尿道を吸い上げられる。結衣奈の頬がすぼまって、下品な空気音が鳴った。抜けそうな俺の腰に追いすがって、一心不乱に貪ってくる。
 意識が遠のき、一瞬の浮遊感の後、俺は射精していた。
「ぐぅっ……」
 奥歯すり合わせて、快楽を受け入れる。湯のような唾液の中に、精液を吐き出す感覚が紛れていく。
 ようやく波が過ぎる。下を向くと、結衣奈が口を開けている。精液を見せつけたいらしい。
「いっはいれたね」
 出した白濁の、あまりの量に面食らう。俺の表情を見ると、満足して精液を飲み下した。生々しい音とともに喉が上下する。すべて飲み干して、結衣奈は再び口を開けて見せた。
「はあっ……おいしかった」
 とろけた様な目元、紅潮した顔。発情した女が、口から雄汁の匂いを立ち上らせている。普段は穏やかな結衣奈のはしたない姿に、俺はまた股間を固くしていた。
「あれぇ、まだすっきりしてないの?」
 上気した顔のまま、結衣奈は立ち上がった。
「またしたくなっちゃったんだ。私、和樹くんの好みと全然違う年増なのに。これってやっぱり、和樹くんが嘘ついてるってことなのかな」
 問い詰められ、俺は後じさる。ついに壁際まで追い詰められたとき、足元には布団が敷かれていた。
「ふふ……えいっ」
 結衣奈は嬉しそうに笑ったあと、俺に足を掛けてくる。
「おわっ」
 射精の余韻があだになった。脱力していた足はあっさり転ばされる。次の瞬間には、布団の上だった。起き上がろうともがくと、腹の上に結衣奈が乗った。豊満な尻が俺の腹をつぶして、自由を奪う。
「うぶ……ど、どけ、重い」
「え、嘘、本当? 最近太ってないし、普通くらいだと思うんだけどな……」
 これまでとうってかわって、深刻そうな顔で上を退く。常人らしく、体重は気にしているらしい。成人が腹に乗っかったら、誰だって苦しいわ。
「あ、ごめんね。すぐにスるから、そのまま寝ててね」
 結衣奈は言って、いそいそと服を脱ぎ始める。
 いまなら隙を見て逃げ出すこともできるのに、もう逃亡の気勢は削がれていた。セックスに臨む女の気持ちなどよくわからないが、結衣奈はやたらと楽しげに準備をしている。鼻歌まで歌って服を脱いでいるのに、俺が土壇場で拒否しようものなら、こいつはひどく落ち込むだろう。本気で拒絶すれば強引に犯されなどしないことを、俺は重々承知している。結衣奈はまともな人間だ。その事実がかえって、苛立ちを起こさせる。なぜなら、結衣奈を肯定的に捉えるほど、俺の甘えた心が浮き彫りになるからだ。
「よぉし、それじゃあするね?」
 呆けていると、いつの間にか裸体が目の前にある。服の上からでも十分な迫力があったが、脱ぐと更に圧倒される。どの部位も曲線で縁取られた身体。朱く熟れた乳首と開いた骨盤が、いずれ母になる彼女を想起させる。
「腰、浮かせてね」
 指示されるまま従うと、ズボンと下着をはぎ取られた。
「しょっ……と」
 結衣奈は俺に体重を掛けないよう中腰になり、穴に狙いを定める。位置を決めると、慎重に降りてきた。
「はいっ……たあ」
 膣内に入ると、全神経が局部に集まる。
 熱い。しとどに濡れて、迎える準備を済ませていた蜜壺は、蒸すように熱かった。結衣奈は背筋を反らせて、亀頭を奥まで導く。尻が落ちきると固いものが当たる。子宮口まで到達したらしい。
「はあぁぁ……」
 ポルチオの性感帯を刺激され、結衣奈は歓喜の息を漏らした。快楽に捉えられて、身動きができなくなっている。反撃のチャンスだ。俺は腰を引き、勢いをつけて突き上げる。
「ひゃあうっ」
 頓狂な悲鳴を上げて、結衣奈がくずおれてくる。
「ずるいよぉ……」
 目を細めた顔が胸板に落ちて、すぐ近くにある。結衣奈は俺の得意な表情を見咎めて、飛び掛かかってきた。
「んむぅ」
 唇に吸い付かれる。油断していた俺は舌の侵入を許し、口内をねぶられた。好き放題に蹂躙される。数十秒も口を塞がれ、呼吸が困難になったところで、ようやく解放された。
「ぷはぁ……和樹くんは動かないで。私がしてあげるから」
 結衣奈はうつぶせの体勢のまま、腰を上下させる。厚みのある肉壁が俺の分身を包んだ。ほぐれているため強い刺激ではない。が、絞るような蠕動は徐々に快感を持ち上げる。
「はあ……はあ……」
「ふう……んぅ……」
 二人の、吐息を漏らすリズムが重なる。目線が絡み合い、触れているところから体温を分け合う。行為が惰性的になるにつれ、互いの境界は失われ、一体になっていく。
「気持ちいい?」
「……ああ」
 何も考えず、俺は返答していた。
 二人して、茹ったように赤くなっている。部屋にはエアコンもついていない。したたる汗が脇腹を伝う。体をぶつけ合う音も湿っている。一定の間隔で刻まれる卑猥な音が、酩酊さえ引き起こしていた。俺はもはや射精感すら忘れ、柔らかい膣内を貪り続ける。
「もっと気持ちよくしてあげる」
 朦朧としながら、結衣奈が言う。すると、不規則に唇を啄んでいた彼女の舌が、首筋をつたい、胸板まで降りてくる。焦らすように周辺を舐めながら、乳首に近づく。むずがゆい。我慢しきれず、結衣奈の乳房を掴んで急かす。
「ふふ、触ってほしいんだ」
 結衣奈は勝利の笑みを浮かべると、乳首の先端を噛んだ。瞬間、電撃を流されたような感覚。にわかに、身を潜めていた性感が押し寄せる。
「うあぁ」
 気をよくした結衣奈は、もう片方の乳首を指で責めたてる。訪れた快楽の波濤は凄まじい。一気に精液が昇ってくる。結衣奈も予兆を察知した。腰の動きが速まり、膣内の締め付けがきつくなる。
「イっていいよ、和樹くん。イってっ!」
 乳首から口を放した結衣奈が、全身を摺り寄せる。射精の許可を与えてくれた。親に許しを得た子どものごとく従順に、俺は何度も頷く。
「出すっ……イく……結衣奈ぁ……」
「うん、うん。受け止めてあげるから、全部出してっ」
 俺は遮二無二腰を振り、子宮口を突きまくる。結衣奈は置いて行かれまいと、俺の身体にしがみついた。その行動が、肌の表層に幸福を呼び起こす。より密着することを望み、両脚で結衣奈をホールドした。筋肉の緊張とともに、俺は精を放っていた。
「うっぐぅぅ……」
 全身の毛孔から汗を吹き出していたために、液体を吐き出すことに違和はない。俺の中にあるなにもかもを、目の前の女に出し切る。精液はその一部に過ぎない。ひどく動物的な原理を、俺は理解した。結衣奈の方はといえば、雄を受け止める衝撃に悶えている。唇を噛んで顔を伏せ、小刻みに身体を震わせる。しばらくの間、互いの時間が滞っていた。
「……っはああぁぁぁぁ。気持ちよかったあ」
 ようやく、結衣奈が快楽の淵から抜け出す。清々しい顔をして、俺の腹を撫でている。どうして女というのはどいつもこいつも、セックスの後に元気になるのだろうか。こっちなんてのは、起き抜け三回目の射精となる。いい加減、頭にのしかかる気だるさも異常の域だ。精液を搾り取られると同時に、命までも吸い上げられているような気がしてならない。思考の片隅に『腹上死』の文字が踊る。まさかな。
「和樹くんも気持ちよかった?」
「ぼちぼち」
 気のないように言っておいた。
「そっかあ。あ、後始末しないとね」
 結衣奈は肉棒を穴に挿したまま身を捩り、箱ティッシュに手を伸ばす。
「あふん」
 動きの拍子にペニスが刺激されて、情けない声が出た。
「どうしたの?」
「こそばゆいんだよ。まずはマンコを抜け」
「気持ちいいんじゃなくて?」
「こそばゆいんだよっ。もうセックスはうんざりだ」
「ほんとかなあ~」
 結衣奈は意地悪く微笑む。同時に、膣に力を入れて、死に体になったペニスを刺激する。
「あーもう、やめろやめろ」
 理性と口では拒絶を示すのに、反して、ペニスは固くなってくる。これは単なる生理現象だ。刺激されれば血が集まる。それだけのこと。なのに、結衣奈はしてやったりと勘違いして、鼻を伸ばす。
「ほらほら和樹くん、下の口はこんなに正直だよー」
 口じゃねえよ、どっちかと言えば鼻だよ。調子に乗りやがってこのアマ。
「ほーら、これは気持ちいいでしょ」
 結衣奈は思い切り膣内を締め付けながら、腰を持ち上げる。茎に残っていた子種が全部持っていかれた。
「うぉぉ……」
 脳の中にまで痺れが走る。空っぽになっていた性感の容器に、新しい欲望が注がれた。まずい、このままでは本当におかしくなる。廃人になりかねない。
「だあああっ! もうやめろっ。チンチン痛いのっ、擦り切れちゃうのっ! めっ!」
 手元にあった尻を引っぱたいて制止する。乾いた音が部屋に響いた。
「きゃんっ」
「大概にしろ」
「はあい……」
 結衣奈はやっと股から退くと、俺の隣で布団に包まる。
「ねえだったら、次に私が来たときもエッチしてね」
 俺の方にも掛布団を半分寄越して、結衣奈は懇願する。万年床でつくったかまくらの中には、二人分の体温が篭っている。触れる柔肌とだらしない笑顔に、毒気を抜かれてしまう。
「しょうがねぇな。気が向いてたらな」
「うん」
 陽気な声を聞き届けて、俺は微睡みに飲み込まれていった。


 目を覚ますと、寝顔が間近にあった。結衣奈が安らかな寝息を立てて横たわっている。季節は夏になろうというのに、一つの布団で密着していた。汗をかいている。暑さから逃れようと立ち上がるが、結衣奈が足を抱えて離さない。ええい、うっとうしい。俺は絡みつく腕を蹴飛ばして逃れた。
 布団から出ると、今度はひどく寒かった。冷たい風が、濡れた体から温度を奪っていく。何かと思えば、窓が開けっ放しになっていた。俺は急いで部屋を閉め切って、失った水分を補給しにかかる。
 水道から流れる水をがぶ飲みすると、やっと落ち着いた。畳に立ち、窓を通して見える空には、三日月が光っている。カーテンのない窓。その奥には、夜の帳。虫が鳴き出すこの時間になると、アパートの住民たちは皆、静かになる。
 今日もまた、無益な一日を過ごしてしまった。朝起きてオナニー、結衣奈が来てからはくたびれるまでセックス。ジャングルに住む猿だって、もう少し文化的な生き方をしている。最低な一日をもたらした張本人は、布団に潜って身じろぎをしている。相も変わらず、平和な顔をして生意気な。これでいて、翌朝にはスーツを着て仕事に出るのだから不思議である。こいつの精神は一体、どうやってバランスを保っているのだろう。
 そういえば今日も、避妊具を付けずにセックスしてしまった。もし子どもができていたらどうしようか。仮にそうなれば、結衣奈が持ちかけた通りに責任を取り、婿入りする羽目になるのか。ヒモのフリーターが取れる責任など、役所で籍を入れるくらいである。家庭を持ちながら、結衣奈に養われる未来を想像する。俺は主夫になるだろう。結衣奈は外でバリバリ働きつつ、家では俺と子どもを甘やかす。すべてが結衣奈の思惑通り。眠る彼女を見て、俺は空恐ろしくなった。
 家庭といえば、子育てについて『男は断ち切り、女は飲み込む』という話がある。この話は男女それぞれの、わが子への接し方を対比するものだ。つまり、父性は子どもに対し、「成功できれば、褒めてやる」と、条件付きの愛情を与える。すると突き放され、目標を見出した子どもは奮起するという寸法だ。対照的に、母性は「どんなことがあってもあなたを愛している」と、無償の愛を捧げる。これは、父性愛を受け取る下地に必要なもので、より原始的な、自己肯定感を育てる。
 父性愛、母性愛のどちらも、行き過ぎてはならない。突き放され過ぎれば子どもは孤独になり、甘やかされ過ぎれば生涯にわたって自立できなくなる。特に恐ろしいのは母の愛である。一見情緒的で、美しいものに思える愛情は、ときに猛毒になる。
 女は蛇だ。目を付けた獲物を捉え、離さない。緩慢になった相手に密着し、どこまでも堕落させる。人間を丸ごと喰らう、ウワバミ。結衣奈がウワバミだという役付けは、やけにしっくりきた。俺はさしずめ、コイツに睨まれて身を竦ませるカエルか。
 彼女に甘えるのはこれっきりにしなければいけない。強く思う。でなければ、俺は人生で果たすべき事柄を、何一つ実現できないだろう。
 俺には、死ぬまでに必ず実行するべきことが、一つある。それはつまり、小学校高学年の女子児童を拐かし、二度と社会復帰できないまでに、性的調教を施すことだ。この計画は、俺が齢60を超えてから発動する予定だった。現状、地位も責任もないフリーターをしているとはいえ、俺には両親がおり、未来にはわずかな希望がある。これらは、誘拐の罪で警察に捕まれば、すべてが台無しになるだろう。ならば、望みを果たすのは人生の終局でいい。負債は払わず寿命で死ぬという、堅実で狡猾な選択をする、その予定だった。今までは。
 結衣奈に絡め取られた俺の胸には、焦燥の炎が燃えている。俺は健康体である。体が使い物にならなくなるのは、まだ先のことだろう。しかし、心の方も同じとは言い切れないのだ。近いうち、俺は若さという情熱を失って、安寧の鎖に繋がれる。期限は刻一刻と迫っている。
 俺は窓を挟んで、月に正対する。夜空に星はない。光をもたらすのは、欠けた、不完全な月だけだ。

『なあ和樹、オレは成すべきことを成すぜ。お前も同じようにしろよ。オレたちがそうしてやらなくちゃ、この世界はまるごと全部、退屈になっちまう』

 古い友人で、一等バカだった男の言葉。口を歪めて、不敵に笑う三日月に、俺は笑い返した。わかっているとも。女には女の、熟女好きには熟女好きの、ロリコンにはロリコンの、生き様ってものがある。
 深呼吸。拳を掲げて、夜空に誓う。俺は必ず――幼女をこの手に収めて見せる。

       

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Neetsha