Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 当たり前に思っていた事があった。
 あの頃は、分からなかったことです。
 でも、それは何か特別な事じゃあない
 ただ、いつも一緒に居たかっただけなのです。
 ある日を境に、いつの間にかあなたは遠くなってしまった。
 当たり前は当たり前じゃあなくなってしまいました。
 でも、それが恐ろしくてしょうがないのです。
 ただ、いつも一緒に居たかっただけだったのに・・・

 目的は、ただこの世界に悪意をぶちまけること。ただ、その一点だけを目的として、静かに活動を開始したのでした。
 そこは、人通りのほとんどない寂れた地方の商店街。不況のあおりを受けて、屋根についていたアーケードの維持費すら捻出できず、とうとう青空市のようになってしまったもの悲しい商店街でした。街灯だってもうありはしないので、夜に(とくに深夜にでも)なるともう、そこは何も見えない闇の中です。
 闇は、汚いものを隠してくれます。
 だからこそ、取って置きの悪意をそこにため込む事だって、実は可能でした。
 そうしてため込んだ、もうどうしようもない程の絶望的な悪意をその場所から、世界に向けてぶちまけたかったのです。
 そうする事できっと、この世界で見殺しにされるてて無しの子どもの数は100倍に増え、老人は虐待され、身体障害者は駆逐される。そんな理想的な世界が始まるのです。

 「悪魔らしく。」
 メフィスト・フェレスはそうつぶやいて、悪意を全世界に向けて放ち始めました。
 由美の望んでいた悲しみ、苦痛、絶望を、書籍、そして映像としてアーカイブ化し、そこに溜まりに溜まった悪意だけを世界に向けて放ち続けたのです。
 願わくば、由美を亡き者にした「マイク」なる人物に、とびっきりの絶望が降り注ぐ事を誰よりも強く願いつつ、悪意を解き放ちました。
 そうして、もう叶ったとしても意味のない悲しみの収集へと、メフィスト・フェレスは再び赴いていきました。
 メフィスト・フェレスの寿命が尽きるまで、「中央悲劇閲覧センター」には悲しみが集まり続けるのです。
 その建物の中で、いつまでも涙が止まらない悪魔への軽蔑と尊敬の念を込めた「ティアーズカード」なるものが配布されるようになるのは、もう少しだけ先の話でした。

       

表紙
Tweet

Neetsha