Neetel Inside ニートノベル
表紙

デェーとティー
ダイスケ&月子

見開き   最大化      

――――

「月子ー、学校遅れるわよー」

「はーい。行ってきまーす」

 お母さんに急かされて私は玄関でローファーの爪先を床でとんとんと叩く。家族でキャンプに行ったあの日から季節は巡って外には桜。私は志望校に合格して春から高校生。去年の夏休みが終わってから勉強ばっかでなんだかあっという間って感じ。

「ほら、外でお兄ちゃんが待ってるわよ」お母さんの声を聞きながらスクールバッグを担ぐとドアの向こうの駐車場からエンジンをふかす音が団地の床を伝って響いている。

「今日は土曜だからガッコ午前で終わんだろ?」夕方に家族でご飯を食べに行く約束をしたお父さんが白いシャツを着て玄関にやってきた。

「授業が終わったら連絡するのよ」

「うん、わかった!行ってきます」

「お、おい月子」

「まぁ月子ちゃんったら!」

 私は爪先立ちでお父さんのヒゲが生えたほっぺにキスをするとドアを開けてお兄ちゃんが待つ駐車場に向かって階段を駆け下りた。


「おい、遅いぞ月子!」

 走ってきた私を振り返ってお兄ちゃんのダイスケが50CCのバイクの上で私を急かすようにエンジンを空ぶかした。ダイスケは去年の秋口か原付免許の勉強をし始めて今年のお正月を過ぎてようやく免許を取得した。

 お父さんの知り合いから譲り受けたバイクに乗って私はお兄ちゃんと同じ高校に通う。進路は色々悩んだけど家の事や将来専門に通うだろうから偏差値の低い高校で良いかって感じで公立の今通ってる学校を選んだ…っていうのは建前。

「乗ったか?じゃあ行くぞ」

 ダイスケから手渡された半ヘルを被って二人乗りのバイクが走り出す。ベランダから寝ぼけまなこで歯を磨いている上の階のおばさんに手を振ると砂利が敷かれた駐車場を抜けて右折したバイクが青になった信号を通り抜ける。

 公道に出てバイクの速度がぐいぐい上がる。私と別の高校に通ってる泉さんが彼氏と一緒に歩道を歩いてる。「ヒュー、朝からお熱いね、おふたりさん!」すれ違い様に聞こえるように2人を煽ると目の前で信号が点滅してダイスケがバイクを止めた。

「なんで止まんのよ!いま行けたでしょ!?」私が抗議すると兄は振り返っていやらしい顔でニヤリと笑う。歩いてきた泉さんと彼氏が私と並んで顔を覗き込んできたので私は気まずくなって早く信号が青に変われと心で強く願った。

 気を取り直してバイクは学校目指して走り出す。少しずつ速度が上がって髪を撫でる風が耳元でびゅうびゅうとすり抜けていく。運転中にダイスケから手渡されたLのイヤホンを右耳に差し込む。アジカンの『signal on the street』が鳴っていた。

 坂道を下り始めてバイクのリミッターランプがチカチカ点滅する。ガー、とエンジンが何かを引きずるような音を出し始めてダイスケが前に重心を置きなおす。私は通学路でこの場所が一番好き。私はダイスケのおなか周りに腕をまわして顔を背中に押し付ける。

 ドッドッドッ、て感じでエンジンと心臓の音がユニゾン。そのまま短いトンネルをくぐると「おい、いつまでくっついてんだよ。寝ぼけてんのか?」とダイスケに言われたから私はほっぺを体から離す。

「あのさ、お兄ちゃん」

「ん?どうした月子?」

「…なんでもない!」

 お兄ちゃんが目線を私から正面に移す。私は照れ隠しで微笑みながら幸せだなぁなんて思う。

 次にトンネル入ったら大好きって言ってやろう。ダイスケって呼んだフリして大好きって言ってやる。

 バイクは私とダイスケを乗せて路を蹴って走る。うざくてキモくてバカなお兄ちゃんだったけど、一緒に居て楽しかった。流行のゲームをしてたらダイスケの友達にレイプされそうになった暑い日の放課後。ふたりでレトロゲームをやった日曜日。みんなで集まって大きなプリンを作った。家族でキャンプに行って本音をぶっちゃけた。

 色んな事があったけど私はこのお兄ちゃんの妹なんだ。それはふたりが大人になっても歳を取ってもずっと変わらない。密やかに胸にしまった想いをかみ締めるとバイクは深いトンネルの中へ潜っていった。


 <了>


































































 ……あ、気付いちゃった?この文章の存在に気付いちゃった?まぁスクロールバー見りゃ分かるかー。いきなり時系列飛んで終わっちゃったついでに登場人物の進路先でも伝えておこうと思う。

 ボクの好きな映画に『スタンドバイミー』っていうのがありましてね、それのラストが子供達が分かれるときにそれぞれに進路について語ってるんですね。なんか酔ってるんで上手い事文章まとめられないんだけどあとがきだからゆるちて。


 俺、ダイスケは高校を卒業後、スメラギのコネでヤツの子会社で家電の設計をしてる。30の時に俺がデザインした電子レンジがグッドデザイン賞を取ってその金で家族が戸建てを買った。

 高校時代は俺なんて一生童貞だろとか思ってたけど26の時に結婚。年上のカミさんに娘が2人いる。31の春に係長に昇進した。


 月子は高校卒業後福祉の専門学校に通っていたけどいつの間にか辞めて東京でOLやってる。こないだ実家に帰ってきた時に会社の枠が埋まってて正社員になれないとか愚痴っていた。

 これ書いてる時あいつは30だけど未だに結婚してないし、浮ついた話も聞いたことが無いが本人は焦る気ナシ。俺が東京に行った時にふたりでバーに行ったけどそんとき少しヘンな雰囲気になった。


 スメラギは親の会社を継いで大企業の社長やってる。学生時代から身体は細かったけどこないだ株主総会で見た時に気苦労か、顔がやつれていた。

 29で結婚した年にハニトラに引っかかって文春砲を受けるという芸能人的イベントが発生して少し羨ましかった。今のところ上手くやっているらしい。秘書の彩子さんは研修で行った南極の地でシャチに喰われて死んだ(逝年33歳)。


 よつくんも親父さんの道場を継いで弟子達を育てている。学生時代オタク風のルックスだったけど俺たちの中では一番早く結婚した。まともに働いてまともに税金納めてまともにパパやってる。よかったね。


 関西からやってきた、なごっチは向陽町に永住を決めたらしく、今も不細工な彼女と公園でキスし続けている。ブチュー


 「 な ん や て ! ? 」


 ☆本当の終わり★

       

表紙
Tweet

Neetsha