『TASK 令和時代』


【所収作品一覧】
*番号は掲載順で評者が付したもの

0 序文
1 バカンス | 杏野丞
2 四月三十日 メトロトロン| 硬質アルマイト
3 アンテグラル | 黒杜玖乃
4 令和元年のベースボール | 江藤竜
5 ベーシストは変態なのか | 零F
6 エスカレーター | 元壱路
7 平成くんと令和ちゃん | 藤沢泰大
8 リュウの入会 | 架旗透
9 選択肢、その枝の先 | 董火 ru-ko
10 GRAZAR | ところてん
11 鉄槌は孤独の調べ | 電咲響子
12 ゲーム | 維嶋津
13 ようこそ、次の世界へ  | 高座倉


◯全体的な印象(冒頭5本ほど読んだ途中の印象)

毎年、SF小説短編集を出し続けている恐るべき創作集団、「グローバルエリート」。
今回はメンバーを募り、新しい元号「令和」の時代を描き出す。

いつもの「SFアンソロジー」ではなく「テーマアンソロジー」と銘打っているように、ここでは、SFに留まらず、ちょっとした青春、スポーツもの、恋愛ものなど多様なジャンルの作品が集められている。

この新しい時代をどう構想するか。
「元号」という人為的なイベントを、時代変化としてどう受け止めるか。
作家として異なったバックグランドを持つ13人もの執筆陣が、それぞれの視点とテイストでこれらの問いに応えている。共通の「お題」があることで、かえってそのそれぞれの個性が浮きぼりになっている。自分にとって、普段の生活や交流・関心の範囲では知り得なかった、様ざまな世界や価値観に触れ、交流することができたような気がする。「あー。この方にはこう見えてたのか、ここがフックだったのか」というような。

また、「時代」をテーマとした本作は同時題の気録としての価値が非常に高い。
もちろん、所収作のすべては創作、しかも実際の改元以前につくられた作品である。事実よりはエンタメ性が重視されており、その中身がそのまま歴史の記録ということはできない。

しかし、それでも、それぞれの作家の想いがつまったこれらの作品を通じて、「あのとき、確かにこういうことを感じていた」「こういうイベントがあった」「こういうふうに予想していた」といった、といった自身の記憶、その「匂い」までが甦ってくるような、そういう感覚に囚われた。

本作の入手に長い時間を要したこと(令和元年(2019年)12月30日に落手)、また、生来の怠惰につき、読み始めに一ヶ月、感想着手にさらに2ヶ月近く要したことにも意味があったように思われる。

本作を入手し、拝読し、感想を書くことで
ようやく私にも「新しい令和時代が訪れた」。
しかし、同時にすでに「令和は遠くなりにけり」でもあった。
この二つを同時に味わえたのはなかなか不思議な体験であった。

作品ごとの感想もちびちびとまた書いていく予定です。


以上です。
1  バカンス | 杏野丞

[作品紹介から]
「令和を目前に迎え、日本を脱出する計画を立てた『私』と真美子は、紆余曲折あってなぜか沖縄へ飛ぶことに。時差もクソもない石垣島の隅っこで、三十路過ぎのふたりは無事、令和の魔の手から逃れられるのか。」

[以下感想]
「令和なんてギリギリまで撒いてやれ⭐︎日本大脱出計画」。それは海外に飛ぶことまでギリギリまで5月1日を回避して悪あがきするものだ。破天荒な友人、真美子の馬鹿な提案は、実際にはちょっとした、馬鹿なノリと勢いで飛び立つGW旅行というものだったのだろう。

 しかし、計画の張本人、真美子が遅刻することで物語は大きく狂っていく。彼女たちは、予定を急遽、国内旅行に変更、そして平成最後の日没さえホテルで寝過ごし、島であっけなく令和を迎えるまでの顛末の話。

 非常に短いページだけれど、どたばたした旅行の様子、またリゾート地での改元景色の情景など、見てきたようなリアリティで伝わってくる作品。何より、昭和に生まれ、未婚のまま令和を迎える「平成ジャンプ」と呼ばれる二人の女性にとって、「平成」がどのような時代であったのか、濃縮された感情を食らわされる。

 人生の計画の何もかもうまくいかない時代でもあり、しかしまた次の改元に一緒に馬鹿をやろう、と笑い合える友達がいた時代。多くの人にとって青春時代のど真ん中であった「平成」は、誰もが多かれ少なかれ、このような錯綜した感情を掘り起こされる、そういった時代だったのではないか。昭和の人間でもあり、平成は非常に中途半端であった私にも、しみじみとそう感じさせる作品だった。

以上です
2 四月三十日 メトロトロン| 硬質アルマイト

「時が編める」という不思議な「彼」。
平成最後の日に東京に帰る飛行機、隣にいた「彼」が僕に話しかけてくるところから物語ははじまる。「時を編む」というのは、関係者の記憶の改竄を通じて、現実をも動かす、一種の超常的な能力であるようだ。堂々たるSFである。

不思議な「彼」との出会った後、「僕」にとっての平成最後の日は非常におぼろげなものとなっていく。元恋人の「ミリ」と男友達の「サトル」。別れたはずの彼女/彼との未来可能性。夢か現かも覚束ない気分は、いやに鮮明な渋谷駅近辺の描写によってさらにふわふわしたものとなっていく。この読後感は、ちょうど、酔っ払った翌朝、記憶の大半は飛んでいるのに断片的な映像だけやけにはっきりとフラッシュバックするあの感覚に近い。

私には別れた恋人からの結婚式に招待された記憶など、もちろんない。
けれども、どこか頼りない「平成」の記憶、何か他にもいろいろ可能性があったような気分、あるいは何か重要なことを忘れているような気分、というのは確かにある。そういった、酩酊感を掘り起こされるような作品だった。

以上。

3 アンテグラル | 黒杜玖乃

大学の研究室の先輩、砂川日和麗(すながわひかり)をめぐる物語。
美人で天才肌で変人の砂川先輩、「僕」藤堂、そして経済学部の津島。

物語はこの友人津島が暗号の謎かけを持ちかけるところから動き出す。
ネタバレをすると、この津島は砂川先輩に好意を抱いきその切っ掛けづくりのため、この謎を持ち込んだが謎はあっさり破られ、その意図までも見透かされ恋物語自体は終わる。

「令和」を用いた暗号の謎解きはそれ自体良くできて、ミステリ短編として楽しい。
だが、私の関心を強く引いたのは、やはり終盤、砂川先輩と「僕」とのやりとりだろう。
「令和」とはどのような時代になるのか、『全』か『個』か。
それまで何気ない背景として描写されていた東京オリンピックの談議も通じて
砂川先輩の、おそらく筆者の「令和」への受け止めが展開される。

その主張は作中の人物の歳相応に「若い」とも感じるが、それがまたよい。
何より、こういった優秀美人ぼっち先輩。ポニーテール万歳。

以上です。
sage