Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 当日。 暑い八月の日差しを浴びながら、電車を何度も乗り継ぎして、わりと有名な遊園地に辿り着いた。まさかこんな遊園地があるとは。地方出身の俺はこの遊園地の名前だけは知っていたが、実際には来たことがなかったので不覚にも胸がわくわくする。
 三姉妹も来たことがないようで、「うわー……」とか言いながら遊園地の入り口を見ている。
「ほら。行くわよ」
 睦月だけは経験者らしく、先に立ってスタスタ歩く。
 入り口を抜けるとマップを見て三姉妹が騒ぎ始めた。
「このドラゴンが出てくる急流滑りに乗りたいっ」
「待って、凛々香! こっちのタコに襲われるのを体感するボートツアーの方を先に行くべきよ」
 ……京香のやつ。ビビッて泣き出すくせにそんなアトラクションに乗りたがるのか。
「香恋ちゃんは何に乗りたいの?」
 睦月の問いに
「……このタイムトラベルを体感できるのに乗りたい。……今後の参考に」
 香恋は香恋で末恐ろしいことを言っている。
「じゃあ順番にまわりましょうか。一番近いのはボートツアーだからそれに決定」
 睦月の意見に全員賛成して、ボートツアーに向かった。
 案の定、タコが出てきた途端に京香はビービー泣き出した。あんまり叫びまくるものだから、緊迫感を演出していた添乗員のお姉さんは苦笑しながら手加減してくれた。
 そのあとは、泣き止まない京香を俺が見ている間に、他の三人で急流滑りに行った。睦月曰く、あのタコで怖がるなら、京香にはあの急流滑りは無理だそうだ。俺たちは外で三人が降りてくるのを待つことにした。
 本当は俺も乗りたかったのだが、京香が俺の腰にしがみついて離れないのだから仕方がない。「他のやつには内緒だぞ」とソフトクリームを買ってやって、ようやく泣き止んだ。
 急流滑りに関しては、滑っている最中の写真を撮ってくれるサービスがあって、それを見ると凛々香だけが笑顔でピースサインをカメラ目線で送っていた。この女には恐怖という感情は無いのだろうか。睦月は少しひきつった顔をしていて、それを笑うと本気のグーで殴られた。とっても痛かったです。
 水を大量に使ったショーを観たときは、四人とも楽しそうだった。香恋と睦月がこの世から陸地が無くなるのは何年後になるかを笑顔で計算していて、少しひいた。
 その後は、香恋のリクエスト通りタイムトラベルを体感できるアトラクションに乗ることになった。これもスリル系だったので京香を乗せるわけにはいかない。
「今回は私がみてるから、桐緒は乗ってきなさいよ」
 睦月がそう提案してくれた。
「いいのか?」
「ええ。前にも乗ったことあるし。さっきからとっても乗りたそうに見えるけど」
「サンキュ! 実はめちゃくちゃ乗りたかったんだ」
 すると睦月は顔を赤くして、
「行くならさっさと行きなさいよ! ……その顔は反則だわ」
 最後はぼそぼそと聞き取れない声で言ったあとそっぽを向いた。
 そうして俺はアトラクションを楽しむことができた。
 そうして、色々なショーやパレードをみんなで楽しんで、俺たちは帰ることにした。一番はしゃいでいた凛々香は帰宅途中、寝てしまったので、俺がおんぶして帰ることになった。
「……ん……むにゃ。急流滑り……もっかい乗りたい」
「……寝言言ってるのか」
「……お母さん……お父さん……」
「…………」
 俺は凛々香を起こさないように静かに歩いた。

       

表紙
Tweet

Neetsha