Neetel Inside ニートノベル
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 お嬢様は車いすを机の横に止めると石動の隣に座る。和宮はさっきまで内阿がいたはずの場所に座り、翼ちゃんはその隣に。全員着席した瞬間に店員がやってきて水を置き、注文を取って行った。
 それが終わってすぐ、石動は話を始めた。


 「で、リザはどこだ?」
 「行方不明」
 「ふざけるなよ…………阿武熊さんが面倒見ているけど本来は彼女の仕事だろ……」
 「カイザーか、まだ目覚めないのか」
 「当分は無理みたいだ」


 あの戦いの後、カイザーは昏睡状態のまま目が覚めない。
 この二週間、最悪このままずっと。
 それなのに、リザはどこかへと消えてしまった。阿武熊さんがカイザーの知り合いで、入院の手続きやそのほかを済ませてくれた。佐奈と交代で面倒を見ているらしい。セバスチャンとは違う病院で、石動はそっちに通い続けていた。
 大きくため息を吐き、がっくりとうなだれる。
 怒りと呆れが混ざりに混ざって何とも言えないどす黒い感情へと変貌している。どこかに吐き出そうにも、ゴミ箱は見当たらなかった。
 翼ちゃんは水を飲みながらほんの少し申し訳なく思っていた。

 実は和宮と翼ちゃんは知っている。
 リザは生まれ故郷に帰っていったと、一応連絡先も残してある。しかし、リザから絶対に誰にも話すなと厳命されているので黙っている。カイザーにあわせる顔のない彼女の心境も分からなくはないからだ。
 うなだれ続けていたってしょうがない。
 石動は気を切り変える。

 「ところで和宮、本当に中国に行くのか?」
 「あぁ、お前の言うリー老師に会ってみたいからな」
 「翼ちゃんも本当にいいのか?」
 「はい、無事パスポートも手に入りましたし、あそこにはもう一度行ってみたかったので」
 「こいつと一緒は苦労するぜ、がんばれよ」
 「四六時中一緒なわけではありませんし、堅悟様みたいに突然ウニにはならないでしょう」
 「はははは、それもそうだ」


 そんなこともあったなと懐かしく思う。
 本当はもう少し色々と話したかったのだが、先に用事を済ませることにする。
 石動はセバスチャンの方を向くと話しかけた。


 「いくつか聞きたいことがある」
 「何でしょう」
 「雲取山って知っているか?」
 「いえ、地名には疎いもので……」
 「この辺りだ」


 そう言って携帯を差し出し地図を見せる。
 位置としては東京都から埼玉県、山梨県をまたぐように存在している。水源林もあり、三峰山の一つにも数えられている。きちんとコースも整備されている美しい山だ。セバスチャンは地図を見て初めてどこだかわかったらしく、「ああ」と頷くと答えた。


 「ここは昔使っていたお屋敷がある場所ですね。確か最後までマーリン様は使用していました」
 「ここでマーリンは何を?」
 「確か、人形を製作していたはずです」
 「…………そのお屋敷の詳しい場所は?」
 「それはまたどうして」
 「マーリンの遺言だ」
 「…………」

 とたんに無言になるセバスチャン。
 一瞬の間の後、彼は拡大された地図の一か所。山のふもとに近い当たりを指さした。

 「この辺りから中腹まで登ると看板があります。古ぼけて崩れかけた物ですが、それに書かれている矢印の通りに進むと細い、しかし整備された道に出ます。そこを辿れば着くはずです」
 「そうか、ありがとう」
 「石動、マーリンの遺言とは何だ?」


 そう口火を切ったのは間遠。
 しかし石動は薄く笑うとこう答えた。

 「それは、秘密だ」


 一瞬の静寂。
 知りたい三人と頑なに口を開かない一人。
 そのどちらでもないもう一人は「あ、私トイレ行ってくるねー」と容易に言い放つと席を立つと消えていった。お嬢様の後ろ姿を見守りながら、石動はふとあることに気が付いた。

 「少し、背が伸びたか?」
 「お気づきになられましたか?」
 「何があった」
 「邪神の力のおかげでしょうか」
 「……安定したという訳か」
 「二週間で十cm近く伸びました。まだ、伸びるでしょう」
 「…………」

 邪神の力のおかげで普通に成長するようになったということだろうか。
 それは非常にいい知らせだった。
 翼ちゃんは石動が露骨に話を逸らしたことに不快感を覚えつつもこう尋ねた。

 「ところで、堅悟様どうなさるので?」
 「うん? 遺言の事?」
 「ええ」
 「あぁ、行くよ、でもその前に必ず一言いうさ」
 「ならいいですけど……」
 「まぁ、心配するなって」
 「…………」


 この後はひたすらとりとめのない話が続き、解散となった。

 その次の日、石動は誰かに何かを告げることなく、雲取山へと向かって行った。



       

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