Neetel Inside ニートノベル
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「正直、リザにはもうついていけないところがあったんだ…」
 豚の餌になるところから救われた鹿子は、陳満軒の薄汚れたテーブルに手を置き、ぽつぽつと話し始めた。
 デビルバスターズではリザが実質的なリーダーとして君臨しているが、その独裁的で強引なやり方に反感を覚えることが増えていた。独断でカーサス・ヴァイオレットというイカれた聖職者コンビを傭兵として招くし、破れば命を落とすような契約を交わすし、和宮が裏切った時も躊躇なく彼を殺しにかかってきた。
 リザとしては親の仇を、カイザーを殺すためになりふり構わない姿勢というので一貫しているのだが、やり方が余りに強引だし、仲間であるはずの鹿子たち若い非正規英雄たちをまったく信用していないのだ。
「あたしたちも修行をして、少しは強くなった。もう少し信用してくれてもいいのにね…」
 と、鹿子は寂しそうに言った。
 元々、子供の頃に家庭環境に問題を抱え、一人で生きてきた鹿子は、非正規英雄としても単独で行動することを旨とする一匹狼だった。それが今や仲間との絆を重んじるように変わっていったのは、デビルバスターズとして活動してきた日々、仲間の和宮、天音、キョータたちとも馬が合っていて、楽しかったというのがある。だが、しょせんは血で血を洗う鉄火場の中での絆など、単なる利害関係以上のものでしかなかった。リザが独裁者のようにふるまっても、誰もそれを命がけでいさめることはできない。
「ふーん、まぁ大変だったんだな」
 心底どうでもいい調子で、堅悟は溜息をついた。
 リリアックは仲間だの友情だの無縁の組織だ。
 デビルバスターズが結局はリザの独裁組織になって利害関係でのみ動くというなら、リリアックは堅悟の都合で作られて利害関係オンリーで動いている。
 非正規英雄も準悪魔も結局はそういうものなのだ。
 だから、終わらせる。
 この下らない争いを。
 天神も邪神も、まとめて俺がぶっ潰してやる。



 数日後。
 テレビをぼうっと眺めていると異様なニュースが飛び込んできた。
 埼玉県を中心に、日本全国各地で謎の宗教団体が猛烈な勢いで勢力を伸ばしているというのだ。白づくめのスーツをまとった信者たちが駅前で布教活動をしている。一般人には気味悪がられているし、テレビも面白おかしく報道しているが、それでもなぜかどんどん勢いを増していく。
 数週間も経つと、その宗教団体の信者がテレビの報道番組などで普通にコメンターとして出てくるようになった。荒んだ凶悪犯罪などが起きると、決まって「世界から神への信仰心が失われてしまったヘイガイによる…」などとしたり顔でコメントしているし、同席している他の芸能人やニュースキャスターまでが「まったく仰る通りですね!」とオウム返ししている。これを見たアホアホな視聴者は正しい宗教団体だったんだ?と錯覚してしまうだろう。
「天神救世教ねぇ…」
 それがかの宗教団体の名前である。
 まぁ、誰が裏で糸を引いているのか大方予想はつくのだが…。
 その天神救世教の超ド派手な本部が、東京湾に巨大人工島が造成され、建設中という。
 完成イメージ図はテレビでも報道され、理想郷の建設! ここが永遠の楽土! などと宣伝されており、気持ち悪いことといったらこの上ない。
 天神救世教が急速に勢いを増したのには幾つか理由がある。
 まず、この数週間というもの、野良の準悪魔の数が非常に増えた。過激派でも穏健派でもなく、今まで見たこともないような準悪魔が現れ、それらが欲望のおもむくままに大っぴらに一般人を襲うようになってきた。
 悪魔の目撃情報は相次ぎ、アトランティスは一時的に馬鹿売れしたが、それ以上にテレビや新聞などでも喧伝されるようになっていた。
 じゃんじゃか景気よく人が殺され、隣近所に死体の臓物が散らばっているのは最早日常茶飯事。天気予報ならぬ、悪魔出現警報なるものが発令され、毎日それが点灯しっぱなしだ。テレビのニュースキャスターも「今日は悪魔がいっぱい出るでしょう。外出はお控えください」など、真夏日ですから熱中症に気を付けてくださいとでも言わんばかりの口調。
 そして天神救世教の信者の一人が、白いスーツに身を包んだ美少女が──それが秋風天音という非正規英雄だということを、鹿子が教えてくれた──テレビのニュース番組で、「天神を信じる者達により、悪魔は滅ぼされるでしょう」としたり顔でコメントしているのだ。
 どうも、デビルバスターズは解体され、新たにこういう団体が出来上がったようだ。
 それも、デビルバスターズよりもずっと厄介で、世間の耳目ってやつを味方につけるようなやり方で、勢力をずんずんと拡大させている。
 真っ白いスーツに身を包んだ天音は、いかにも現代のジャンヌ・ダルクのような顔をしており、世間で急速にアイドル視されていたりする。この前の夏のコミケでは天音を題材にしたエロ同人誌が大量に作られ、天神救世教の信者によって大量にそれらの同人作家が粛清されてしまっていたほどだ。
 そして何より、天神救世教の教祖というのが。
「我が天神救世教への入信を! 悪魔から人々を守るべく! 信じる者は救われる!」
 銀色の髪が神々しい。
 今や一時期の消費者金融やパチンコ・スロット店のコマーシャルよりも大量に、どの番組をつけても天神救世教のコマーシャルがやっている。ニュース番組はもちろん、バラエティーでも、ドラマでも、野球中継でも、いつどんな時間帯でもやっている。どんだけ金使ってんだ。もう、総理大臣の名前は知らなくても、リザの名前は知っているってぐらい有名人になっちゃっている。演説で熱弁を振るうリザは、現代に蘇ったイエス・キリストもかくや、だ。
 準悪魔の被害に遭う人々を救うのも、また天神救世教の信者兼非正規英雄たちなのだ。神聖武具を装備した彼らは救世の戦士として、人々に崇められ、余計に信者は増えていく仕組みだ。
 おかげで、この準悪魔の大量発生はこいつらの自作自演じゃね?という声も匿名掲示板で陰謀論として噴出しているが、信者がすぐに擁護して潰されている。
 何だかもう世も末って状況だぞ。
「リザ…そこまでやるか」
「お前の元奥さんこじらせすぎじゃね?」
「……ううむ、頭が痛い」
 テレビをぼうっと観ながら、おせんべを齧り、翼ちゃんの出したお茶をすすりながら。
 俺はカイザーと共に深く深く溜息をついた。
 うーん、どうしようっかなぁ…。
 いや、どうしようもなくね?
 え、俺がやんのか、こいつらと?
 やだなぁ…。
 カイザー、そんな期待を込めた目で見ないでくれよ。
 とほほ。

       

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