ニノベオフ
どんべえは関西派の(文字)オフレポ
「さて、行きますか」
駅のホームにて小さくそう呟いたのは身長2mを超え、小説を書く筋肉(脂肪)が異常なまでに発達した六本腕の巨漢にして、宮城毒素先生の友人に似ていると巷で噂の新都社の三流作家、どんべえは関西派その人である。
黒いコートを身にまとい、棒立ちする彼の周囲にはまばらな人影が
初めてのオフ会、そして三年ぶりとなる新幹線の緊張からか、額から嫌な汗がツーッと流れ落ちていく。
そんな彼に思考はたった一つのことで埋められていた。
それは
(荷物重い)
神奈川から名古屋までは二時間弱、速読(漫画限定)を身に着けた彼にとって一冊や二冊では三十分ももたない。一応携帯ゲーム機も持って来ているが、道中確認したところ充電ができていなかった。
無駄に大きく、無駄に重いスーツケースに無駄に本を詰め込んでいる。無駄無駄の三連星。ガイア、オルテガ、マッシュもびっくりびっくりするようなコンボが確実に運動不足な右肩を苛んでいた。
さて、一方で彼は悩んでもいた。
それは『乗り物酔い』である。
エレベータでさえ時として「ウッ」と来る自分が果たして新幹線などという悪魔に打ち勝つことができるのだろうか。否、今まで新幹線で酔わなかったことはない。一応、対策として酔い止めを持って来ているので大丈夫だとは思うが
うん?
そこで違和感に気が付く。
持って来ている?
発射時刻ギリギリになって飲んでいないことに気が付いた。
急いで水を買い、薬を流し込む。それとほとんど同時に轟音と共に白い機体がホームへと滑り込んでくる。幸いなことに間に合ったらしい。
どうやら自分が思っている以上に緊張しているようだ
そんなことを自由席、三列シートの一番端に座り、浅野いにおの「ソラニン」を読みながらふと思った。
だが、よく考えていただきたい。
彼はまだ新都社作家歴半年の若造である。それがあの後藤健二先生やソルト先生、宮城毒素先生と交じるバジル先生という歴戦の勇士と集まって、名古屋でニノベオフ会をするというのだ。
想像してもらいたい
今から半年後、あの有名作家たちとオフ会なのだ。
関西どんべえは想像だにしていなかったが
自分なんかが行っていいのか。ふと、そんな言葉が脳裏をよぎり消えていく。そんなこんなしているうちに新幹線が出発し、緩やかに滑り出す。見慣れた景色がどんどんと遠ざかっていく。
そこで考えるのを止めた。
ポケットからウォークマンを取り出すと、イヤホンを耳に突っ込み「無敵超人ザンボット3」のオープニングを流し、頭の中を空にする。ちょうど目の前の漫画も半分まで来た。最後に一つ、寝過ごさないようにしよう。そんな言葉が通り抜けていった。
約二時間後
関西どんべえは初めて名古屋のホームに降り立っていた。
「着いたか」
そこまで酔わなかったことを神様に感謝しながら足を一歩前に踏み出す。
戦場はすぐそこだ。
銀の時計の前には何人もの人がごった返していた。待ち合わせ場所として有名とは聞いていたがここまでとは思ってもいなかった。あまり人混みが得意ではない彼は乗り物酔いと相まって、少し目の前がくらくらするのを感じていた。
何とかしなくては
そう思った瞬間
関西どんべえは見た。
新都社という非常に見慣れた三文字の言葉が刻み込まれたボードを持つ一人の男性の姿を
後藤健二先生だ。彼はニュータイプのように唐突に閃いた。
何を隠そう、後藤健二先生がボードを持っている理由は携帯電話を持っておらず、Twitterのダイレクトメッセージでやり取りができない関西どんべえのために、恥ずかしいのを我慢してくれているのだ。
感謝!!
圧倒的感謝!!
心の中で某ギャンブル漫画のモノマネをしながら黒いコートの裾を翻し、真っ直ぐそこへと向かって行く。
そして後藤健二先生の目の前まで来たところでオジギをかわす。
「ドーモ。後藤健二=サン。どんべえは関西派です」
「あ、ドーモ。どんべえは関西派=サン。後藤健二です」
仮に自分がビーハイヴ=サンだとしたらここで「かかったな!! ニンジャスレイヤー=サン」と叫んで背中のガトリングガンが火を噴くところだが、残念ながら自分はニンジャじゃないし、ここはネオサイタマではない。
そもそも自分は両足の震えを押し隠すのに必死で、そんな冗談を飛ばす余裕などない。というか飛ばしたところで通用するとは思えない。それ以上に今書きながら思いついたネタだから、あの時は頭の中真っ白だったから
というかファイアーサンダー先生と肩を並べるほどの人見知りお化けの自分がこうして初対面の人に自分から話しかけるなんて何か月ぶりだろうか
はい
混乱してました。
閑話休題
話を戻そう。
ほんの少し余裕の生まれた関西どんべえは後藤健二先生の御姿を目に入れる。その第一人称は、これだった「若いッ!! 四十とか嘘やんッ!!」だった。いや、本当に事前にその情報を知らなければ二十代でも通用するだろう。
さすがM性感の風俗を経営しているだけはある。←関係ない
これ以上みると目が潰れてしまう。
そう思った自分は、少し目を逸らしてみると後藤健二先生の隣に立つ人の姿を見る。
そこには場合シリーズとニノベ感想企画でおなじみのソルト(鹽竈)先生の姿が
――ッ!!
刹那
その身から放たれるオーラに関西どんべえの体は焼き尽くされるようだった。彼は瞬間で察した。強い、この人は絶対強い。自分なんかが向かって行ったところで五分も経たず制圧されてしまうだろう。
逆立ちしたって勝てやしない。
ここまで言っておいて何なのだが、第一人称が「強い」というのはどうかと思う。
だが、気を取り直しオジギを交わす。
それが終わり、他に誰かいるだろうかと首を回した時
ヒットマンが現れた。
二年前、アメリカの秘密研究所から逃走してきた自分(大嘘)を追って来た殺し屋かと思い、反射的に身構える。彼はそんな自分の姿を見て「クックックッ」と低い声で笑うと、落ち着いて声でこう言った。
「隙だらけですねぇ」
「あ、あなたは」
「初めまして、混じるバジルです」
「――ッ!!」
失礼を承知で言おう
むっちゃ真面目そうな人だった。
混じるバジル先生ともオジギを交わし人数を確認する。
これで四人、残りは宮城毒素先生ただ一人である。後藤健二先生やソルト先生は、手元の携帯電話を使い、何とか彼の姿を探そうとしている。自分も何の役にも立たないのに顔をキョロキョロさせる。
どんな人だろうかと、勝手に想像を膨らませていく。
その時、一人の男性が四人のもとにやってきてこう言った。
「遅れてすみません。宮城毒素です」
後藤健二先生が真っ先にそれに反応し、挨拶を交わしている。
どんべえの目から見た宮城毒素先生の姿は普通に良い人そうだった。
例えて言うなら、新宿の交差点で荷物を沢山持ったおばあちゃんを助けながら道を歩いている姿がナチュラルに似合いそうな人だった。基本的に性格の悪い関西どんべえが素直にそう思える。それは中々珍しいことだった。
宮城毒素先生ともあいさつを交わす。
これで全員を揃ったことになる。
とりあえず、駅の外に出てどこで昼食を食べるか相談することとなった。
関西どんべえは駅を出てすぐ後ろを振り向いてみる。するとそこには、見上げてもまだ視界に入りきらないほど高いビルがそびえたっていた。ふと足を止め、それを凝視する。さすが都会といった感じだった。
ニノベのアベンジャーズ
ふと、非正規英雄のコメント欄にあったこんな言葉が脳裏をよぎって消えていく。
それなら自分はハルクだろう。
そんなことを考えながら、前を進む四人の後を追って地下に向かって行った。
味噌カツ(みそかつ)は愛知県名古屋市周辺発祥の料理で、「名古屋めし」と呼ばれるものの一つ。愛知県内だけでなく岐阜県美濃地方と三重県北東部でも供する飲食店が多い。ウィキペディアからコピペしてきた。
名古屋に来るのが初めてのように、関西どんべえは味噌カツを食べることも目にすることも始めてだった。メニューにはひつまぶしとかいろいろとあったのだが、結局は全員一番お手軽な値段の味噌カツ定食を注文した。
見た目は普通のカツとはほとんど同じ、唯一はっきりと見て取れる違いはかかっている味噌である。色がウスターソースとは全然違う。
いただきますと合掌してから箸を伸ばし、カツをぱくつく。
おいしい。なるほど、普通のカツとは全く違う味がする。ご飯が進む。むっちゃ美味い。
少し喉が渇いたので、腕を伸ばしお茶の入っている湯呑を手に取り口に運ぶ。
「熱いッ!!」
猫舌
これだけは勘弁してほしかった。
数十分後
見事すべて食べきった関西どんべえはすっかりぬるくなったお茶を飲み、一息ついていた。満足だった。軽い酔いもこの頃になるとすっかり吹き飛んでおり、ちゃんと食べきることができた。
何の気も無しに顔を下げるともう一度何も無くなった皿を見てみる。
すると異変に気が付いた。
さっきまで何もなかった皿の上に
味噌カツが増えているッ!!!
何が起きたのか分からず困惑する関西どんべえ
すると隣に座っていた混じるバジル先生が低い声で笑いながらこう言った。
「若いんだから、しっかりと食べなくっちゃ」
「へ?」
「ククククク」
どうやら食べきれなかった分を自分の皿にのせて来たらしい。
まだ余裕があった関西どんべえは喜々としてそれも口に運ぶ。
こうして昼食の時間は終わりを迎えた。
次にアベンジャーズが向かったのはカラオケである。
カラオケ
恥ずかしながら関西どんべえ、カラオケで歌ったことがない。カラオケ自体には四度ほど行ったことがあるのだが、その時は隅で座って機械をいじくって遊んでいた。それだけで十分楽しかったからだ。
ところが、このオフレポでは違った。
受付を通り、部屋に入る。
その後それぞれ席に座り一息ついたところでマイクを手渡されたのだ。
「え?」
「まずはどんべえ先生からどうぞ」
「えぇ!? 自分はカラオケで歌ったことないんですけど……」
恥を忍んでそう答える。
何を歌えというのか
どうしろというのか
いろいろな思いがグルグルと頭の中を竜巻のように通り過ぎていく。
その時
「処女散らしちゃいますか?」
そんな言葉が聞こえてくる。確か混じるバジル先生だったか
それでなんか吹っ切れた。
幸いなことに自分は処女厨ではない。
とりあえず歌えそうな曲を見つけると、手早く機器を操作して曲を入力する。するとすぐに曲が始まった。
前奏が始まり、モニターに懐かしのアニメが展開される。
それを見た瞬間、その場にいた全員の心の声が聞こえてきたような気がした。
ボトムズッ!?
そう、自分がいれた曲とはかの有名な装甲騎兵ボトムズのOP曲「炎のさだめ」なのだ。
一曲歌った後、関西どんべえの緊張は嘘のように解けていた。後藤健二先生が熱唱する聖戦士ダンバイン曲を聴きながら、それを実感していた。カラオケという異様な空間にもすっかり慣れた。
あぁ、オフ会に来たんだな
初めて実感を抱くことのできた関西どんべえだった。
後藤健二先生はダンバインを熱唱している姿が、混じるバジル先生は干物妹うまるちゃんのOP曲を熱唱していたのがとても印象に残った。
宮城毒素先生は普通に歌がうまくてびっくりした。あそこまでうまい人に会ったのは初めてだった
ソルト先生とは真ゲッターの「HEAT」を一緒に歌わせてもらった。
カラオケでは後藤健二先生の御土産をいただきながらアンケートに記入した。一足早く描き終ったのだが、色々と書き直してのとコッソリとロボットを描いたのがあって結局ほかの人と同じぐらいの時間に終わってしまった。
その後はゆっくりと非正規英雄のことについて話し合った。
身近に小説を書いている人がいることにはいるのだが、あまりこういった話はしないので、なかなか刺激的で斬新な時間だった。
一番年下で格下だったのだが、そんな事あまり気にすることなく楽しい時間を過ごすことができた。
昼食を食べてすぐにカラオケに来て、夕方までそこで話していた。
カラオケを出た後は、夕食ということでかの有名な「世界の山ちゃん」へと向かった。
手羽先
そう手羽先で有名なあの店である。
もちろんの事、関西どんべえはその店に入るのは初めてである。
席に案内され、椅子に腰を下ろす。そして目の前のお手拭きを手に取り広げてみる。すると、驚きの物が目に飛び込んできた。お手拭き一面に店名にもなっている山ちゃんの姿があったのだ。
ハッと驚き、辺りを見渡してみる。
そこかしこに山ちゃんの姿があり、こちらのことをじっと見つめている。
なんだか不気味だった。
そんなこんなしているうちに後藤健二先生が手早く注文を済ませており、皿一杯に盛られた手羽先がテーブルにドカッと載せられた。そのボリュームに感嘆の声を禁じ得ない関西どんべえだった。
一つ手に取り、割りばしの入っていた紙袋に書いてあった通り小さい部分をねじってちぎり、大きい部分を手に持ち肉の部分を歯で挟んで引き抜く。すると、するりと食べられる部分が口の中に残る
はずである
はずなのだが
あまり器用ではない関西どんべえはそこまで綺麗に食べられない。悪戦苦闘しつつもとりあえず、一つを平らげる。残念なことに小さい方の肉はうまいこと食べれなかったので半分ほどで音を上げて壺の中へと放り込んだ。
手羽先は思ったより辛く、いちいち水を飲まなくては口の中が持たなかった。しかし、美味いことに変わりはなかった。今まで食べた者とは全く違う味付けに少し戸惑いはしたものの、口にはあった。
ほかの先生方はビールを片手にパクパクと食べていたのだが、不幸なことに自分は飲めなかった。酒飲みたいなーと思いながらも、しょうがないので水で我慢した。
宮城毒素先生のノベルゲームの話はここでしたのだ。
その話は自分にとって非常に魅力的なものだった。その昔、ノベルゲームではないがRPGツクールでゲームを作ろうとしたのだが、エクセルすらまともに使えない自分には難易度が高すぎて挫折した。
非正規英雄が終わり、機会があったらノベルゲームに参加できるかもしれないというのはなかなか心が躍る話だった。
十九時になったところで新幹線の時間があるので帰宅することとなった。
店を出て名古屋駅まで行ったところで解散することとなった。後藤健二先生はチケットを買いに、混じるバジル先生は名古屋で一日過ごす予定らしかった。ソルト先生、宮城毒素先生と関西どんべえは一度トイレに寄ってからホームに行ったりチケットを買いに行ったり、それぞれの目的地へと向かって行った。
関西どんべえはあらかじめチケットを用意してあったので、ためらいなく改札を通ると新幹線に乗り、またまた自由席の三列シートの一番端に座る。
窓からもうすっかり暗くなった外の景色を見ながら、全身を包み込む心地よい広い缶に身を任せる。
このまま寝てしまうかもしれない。
しかし、帰りは行きと違って一時間ちょっとしかかからない。おまけに寝過ごすとシャレにならないことになるので、乗る直前に買ったお茶をのどに流し込み、何とか意識をしっかりと保つ。
そしてウォークマンでテンションの高い曲を流しながら、電池のほとんど残っていないゲーム機で麻雀を始める。
そんなこんなしていると、新幹線はいつの間にか発車しており、たまに光っている街灯や家の光がまるでレーザーのように突き抜けていくのが窓越しに確認できた。
久しぶりに充実した時間だった。
今日あったことを思い返しながら、関西どんべえは最高レベルに設定した対面の三倍満に見事振り込むのだった。
終わり