Neetel Inside 文芸新都
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No24 「川の怪獣」

メキシコ某所、13歳の少女、モニカは、ある日、遠くの山に発光する物体が墜落するのを家の窓から目撃した。
だが、翌日、周囲の人間の誰に聞いても、誰も発光体を見ていないという。
不審に思いつつも普段通りの生活を送っていたモニカだったが、ある日、川で釣りをしていた男性が川から出現した触手のような物に水中へ引きずりこまれるのを目撃してしまう。
モニカはその後水死体となって発見された男の調査に来た警察に川の中から現れた触手の件を訴えるが、全く信じてもらえなかった。

それから、モニカは周囲の人間に必死に川から現れる触手の脅威を説明して回り、川に近づかないように呼びかけるが、誰一人、モニカを信じる者はおらず、モニカは段々と孤立していってしまう。
そうしている間にも、次々と行方不明者が続発していき、遂にモニカの知人までも犠牲になってしまった。
モニカはせめて自分だけでも助かりたいと村からの脱出を考えるが、13歳のモニカが村から脱出して自力で生活する事などできるはずもなく、逃れる術はない。

そんなある日、モニカの父が下流の街へ行く事になり川を下る事になってしまった。
父の身を案じたモニカは、言葉を尽くし、何度も止めようとするが、父は全く聞き入れず、きつく叱られてしまう。
それならばとモニカは漁師に頼んで怪獣を見た場所に電流を流してもらおうとするが、当然聞き入れてもらえない。
更に漁師が言うには、あの川は人を引きずりこめる程の巨大な触手を持った何かが潜める程に深くは無いという。
それを聞いて、モニカにも自分が見た物が幻ではないか、という考えが浮かんできた。

結局、何もできないまま、父の出発する日がやってきた。
ボートへ向かう父を見送りながら、仕方なかった、あれは見間違いだった、きっと何も起こる事は無い、必死に自分に言い聞かせるモニカ。
だが、何故かモニカには確信があった、あの触手は、必ず再び現れる、と。
確かに、川は浅い、自分の他に目撃者もいない、だが、自分が見た光景が、見間違いだったと、モニカはどうしても思えなかった。
何か、何か父を救う術はないか、モニカはもう一度、必死に考える。
そうだ、誰かが、誰かが代わりに襲われればいいのだ、今なら周囲に人がいる、怪物が現れれば必ず目につくし、助けてもらえるだろう。
そう思ったモニカは、勇気を出して、川へと飛びこんだ。

そこからは、あっという間だった。
必死に水上へ上がろうとするが、水が渦を巻き、手足に絡まって身動きできないモニカ。
モニカを助けようと川に飛びこむも、同じく溺れさせられてもがく父。
モニカの父の叫びを聞いて集まってきた人々の悲鳴、怒号。
どこからか鳴り響いてくる銃声。
そして、巨大な蛇の様に持ちあがり、村へと上陸してくる川の水。
川の水は、体から触手の様な細長い水を伸ばし、驚愕する人々を次々と捉え、体に飲み込んでいく。
怪獣は川に潜んでいたのではない、川が何らかの力によって40m程の巨大なアメーバの様な液体の怪獣になってしまったのだ。
そして、今までの獲物とは違う、若く、新鮮で、宇宙エネルギーの豊富な人間の少女が体に入った事で、興奮して活動を開始したのである。

大蛇の様に体をくねらせながら、モニカの村を蹂躙する川、その時、天空の彼方から白い胴着姿の宇宙人が飛んできて、川の前に立ち塞がった。
宇宙道徳に従い、地球人類のために戦う宇宙空手の使い手、カラテレンビクトリーだ。
ビクトリーは川に手を突っ込み、中にとらわれているモニカ達を助けだすと、上空に飛びあがり、凄まじい勢いで乱れ蹴りを放った。
川はビクトリーの乱れ蹴りで激しく四散し、あっという間に霧の様に霧散する。

怪獣化した川を撃破し、宇宙へ帰ろうと、空を見上げて飛び立たんとするビクトリー。
それを見て、意識を取り戻したモニカは叫んだ。

「待って、ビクトリー!お願い待って!!」

40mの巨体を持つビクトリーが、モニカの必死の叫びに反応し、動きを止めてモニカの方を見下ろした。
自分の叫びに反応したのが信じられず、茫然となるモニカ、それを見て、ビクトリーはモニカに近づいて膝をつき、話をするように手で促す。
モニカは意を決し、もう一度叫ぶ。

「あの、あの山に、何かが落ちたの!きっとそれで川がおかしくなったの!きっとあの山に、何かあるのよ!」

ビクトリーはモニカの訴えに頷くと、ゆっくりと飛びあがり、モニカが示した山、川の源流へと向かった。
その巨体は村からも見る事ができ、村の人々は固唾を飲んでその光景を見つめる。
ビクトリ―が川の源流に到着すると、地底からモニカが見たのと同じ発光と共に、蜂に似た巨大な侵略星人、バチッバ星人が現れた。
雄たけびを上げ、ビクトリーに両手の鋭い針で突きかかるバチッバ星人、ビクトリーはそれをひらりとかわすと、回し蹴りでバチッバ星人を地面に転倒させ、起き上がりに飛び回し蹴りを見舞って頭部を吹き飛ばす。
頭部を失って倒れ、爆発四散するバチッバ星人、大歓声を上げる村の人々、そしてモニカ、それに見送られ、カラテレンビクトリーは宇宙へと帰っていく。
村の大人達は自分達の非を認め、口々にモニカを褒め称え、彼女の名誉も回復し、こうして地球侵略を企み、川を怪獣化させたバチッバ星人の陰謀は、小さな少女の大きな勇気によって潰えたのだった。

       

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