Neetel Inside 文芸新都
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No28 「友情の大決闘-後編-」

突如アメリカの都市を黒いドームで包みこんだ侵略星人、パンゲアラ星人は、都市の住人を人質にカラテレンビクトリーに自分の連れてきた宇宙人と戦うように命令する。
着流し姿のその宇宙人の名前は、ケンゲキオーゼット、カラテレンビクトリーのつかう宇宙空手と同等か、それ以上の技を持つ、宇宙剣技を使う宇宙人だ。
本来ならばカラテレンビクトリーと同じく、地球人に危害を加えるような宇宙人ではないはずだが、何故かパンゲアラ星人に味方し、カラテレンビクトリーに戦いを挑んで来たのである。
カラテレンビクトリーはそれを星人による人質工作と睨み、アメリカ政府に人質の救出を頼むと、パンゲアラ星人の挑戦を受け、単身、星人の作りだしたドームへと降り立つのだった。



「よく来たなカラテレンビクトリー、だが、如何にお前でも宇宙剣技には敵うまい」

どこからか聞こえてくるパンゲアラ星人の言葉に、しかし、カラテレンビクトリーは怯まない。

「パンゲアラ星人、ケンゲキオーゼットに何をした!彼は貴様のやっているような事に味方するような者では無かったはずだ」
「ふんっ、知る必要は無い!さあ、戦って殺しあえ!カラテレンビクトリー、脆弱な地球人を守る為に無駄に命を散らすがいい」

ドームの壁面が割れ、カラテレンビクトリーがその中に入ると、ケンゲキオーゼットは街から少し離れた森の中に立っていた。
街の外には民間人の姿は見られなかったが、超感覚を持つカラテレンビクトリーには、建物に籠る大勢の市民達の気配が感じ取れており、人々はなるべく大きく頑丈な建物か地下にまとまっているが、宇宙空手と宇宙剣技が正面からぶつかれば、地下だろうと高層ビルだろうとその余波で簡単に破壊してしまう。
ケンゲキオーゼットと市街地で戦う事だけは絶対に避けなければなら無い。

「ケンゲキオーゼット…」

カラテレンビクトリーは戦う前に、せめてその事をケンゲキオーゼットに伝えようとした。
だが、ケンゲキオーゼットは手を上げてカラテレンビクトリーを制し、無言で首を振る。
その目は深い深い悲しみに満ちていた。
カラテレンビクトリーはそれを見て、察っする。
言葉は無用、この場でどんな言葉を交わしても、何も状況は変わら無いのだ、と。

「地球の平和を乱すのならば、相手が誰でも容赦はしない」

覚悟を決め、構えをとるカラテレンビクトリー。
ケンゲキオーゼットも刀を構え、次の瞬間、凄まじい速度の斬撃が放たれた。
身を引いて攻撃をかわすカラテレンビクトリー。
そこ目がけ、再度ケンゲキオーゼットの剣が襲い掛かる。
カラテレンビクトリーはそれを蹴りで撃ち落とし、空手チョップを放つ。
身を翻してかわそうとするケンゲキオーゼットだが、その背中をチョップが掠った。
姿勢を崩しかけるケンゲキオーゼットに素早く追い打ちの下段蹴りを放つカラテレンビクトリー。
ケンゲキオーゼットはそれを飛びあがってかわし、カラテレンビクトリーへ斬撃を放つ。
身を引いてかわしたビクトリーに素早く体制を建てなおしたケンゲキオーゼットから斬撃が続けざまに放たれ、袈裟懸けにカラテレンビクトリーの胸を切り裂く。
素早い斬撃の連打からカラテレンビクトリーが反撃の機会をうかがっていると、その背後に火の玉が突然現れ、ビクトリ―を襲ってきた。
間一髪かわし、距離をとるビクトリー。
すると、ケンゲキオーゼットの横に、チャイナ服を着た少女の姿をした侵略星人、パンゲアラ星人が現れた。

「ふっふっふ、2対1だ」

そう言って得意げに笑うパンゲアラ星人。
パンゲアラ星人が傍に現れたにも関わらず、ケンゲキオーゼットは攻撃を仕掛けず、カラテレンビクトリーに構えをとっている。

(今星人を倒す事はできない、という事か)

恐らくパンゲアラ星人を倒しても、星人の死に反応して何かが起こる様になっている、そう判断し、慎重に構えをとるカラテレンビクトリー。
そこ目がけ、パンゲアラ星人が腕から高熱火球を放ってきた。
宇宙回し受けで跳ね返すカラテレンビクトリー。

「しまった!」

思わず、カラテレンビクトリーは叫んだ。
カラテレンビクトリーの弾いた火炎弾は、街の建物へと向かってしまったのだ。
だが、その進路上にケンゲキオーゼットが割って入り、火球を切り裂いて街を救う。

「何を余計な事をしている、ケンゲキオーゼット!」
「む…うう…」

それを見て怒りの声を上げる星人に、歯噛みするケンゲキオーゼット。
カラテレンビクトリーは、やはりケンゲキオーゼットが何かやむおえない事情で自分と敵対しているのだと察っし、パンゲアラ星人を指さし、叫ぶ。

「パンゲアラ星人、ケンゲキオーゼットから人質をとっているな!」
「ふっふっふ、だったらどうした?」
「貴様等外道な侵略星人が人質をいつまでも生かしている理由がない!もう殺しているはずだ!」
「何を言う、人質は生きている」
「そんな証拠は無い!ケンゲキオーゼット!こいつを信じてはダメだ!」
「証拠ならばある」

そう言ってパンゲアラ星人が手を振ると、空中に立体映像が現れ、白い毛で覆われた10人程の華奢な体系の宇宙人達の姿が現れた。
宇宙人達は金属の壁に囲まれた場所で、皆体を寄せ合って震えている。
それを見て、肩の力を少し抜くケンゲキオーゼット。

「サバララス星最後の知的生命体の生き残り…よかった、無事だったのか」
「私とてサバララス星人を必要なく滅亡させたくは無い、ケンゲキオーゼットがカラテレンビクトリーを倒し、この星から永久に手を引けば、彼らを解放しよう」

そう言って、ニヤリと笑ったパンゲアラ星人は、立体映像を消すとカラテレンビクトリーを指さした。

「さあ、行け、ケンゲキオーゼット、サバララス星人を根絶させたく無ければ、この星を私の物にするのだ」

そう言われ、やむなく再びカラテレンビクトリーに向けて構えをとるケンゲキオーゼット。
応戦すべく構えをとったカラテレンビクトリーの口が、一瞬だけ吊り上がる。

(頼むぞアメリカ合衆国、頼むぞ、人類、今のヒントで人質を見つけ出してくれ)


――――――――――――――――――


カラテレンビクトリーから星人の使う通信の波長の情報を受け取っていたアメリカ政府は、星人ががサバララス星人の人質の映像を映すための通信波をキャッチし、直ちに行動に出ていた。
合衆国各地に仕掛けられた電波系や探知機を用いて、通信波の出所を探し、程なく、その場所を発見する。
場所はごくありふれた山中で、軍が調査した結果、そこに何かしらの物体が透明になって隠れている事が判明した。
直ちに合衆国の最精鋭の特殊部隊が宇宙人の施設へと突入し、通信波に映されていたサババララス星人達を救出する。
怯えるサバララス星人達を落ち着かせ、身振り手振りで助けに来た事を伝え、歓喜して泣きついてくる星人達を誘導して施設から脱出する特殊部隊。
星人達を脱出させると、役目を終えた後に証拠を消すための装置が働いたのか、パンゲアラ星人の基地は音も無く発光して消滅してしまった。


―――――――――――――――――――


「…!!」

突然、黒いドーム内でカラテレンビクトリーと戦っていたケンゲキオーゼットの動きが止まった。

「どうしたケンゲキオーゼット!今度は何だ!?」

苛立たし気に声をかけるパンゲアラ星人に、ケンゲキオーゼットはそれまでの無表情を崩し、不敵に微笑んで見せる。

「サバララス星人達が解放された、今彼らからその旨を伝えるテレパシーが俺に届いたぞ」

その一言に、パンゲアラ星人は一気に青ざめ、身を翻して即座に逃げようとするが、その前にカラテレンビクトリーが立ち塞がった。

「ケンゲキオーゼット、君の手でこいつを倒すんだ!」
「ひ…ひいい」

悲鳴を上げるパンゲアラ星人の首を居合い一閃、ケンゲキオーゼットの刀が斬り飛ばし、星人の首が宙を舞う。
更にケンゲキオーゼットは残った星人の胴体をZ字に切り裂き、爆発四散させた。
黒いドームがそれと同時に消滅していき、街に残されていた人達が外に飛びだしてきて、二人の巨人を見上げて大歓声を上げる。
邪悪な侵略者をカラテレンビクトリーとケンゲキオーゼット、そして人類が協力して打ち破った瞬間だった。



その後、米政府からケンゲキオーゼットへのサバララス星人達の引き渡しが行われた。
一部ではサバララス星人をケンゲキオーゼットやカラテレンビクトリーへの交渉に使えないか、との声もあったが、それらは大統領の
「アメリカ合衆国が宇宙と地球、そして君達自身の良心に背を向け、二人の宇宙人と世界中を敵に回すのはどう考えても得策でない」
の一言で沈黙する。
星人達はヘリから降りてケンゲキオーゼットとカラテレンビクトリーの下に赴く際、口々に救出に当たったアメリカ特殊部隊にお礼をいい、巨大な二人の巨人もまた、深く礼の言葉を述べた。
米兵達もまた、命をかけて地球の為に戦ってくれたカラテレンビクトリー達に素直に心からの礼の言葉を述べ、去っていく星人達を敬礼で見送る。
そこに、国家だとか利害だとか、そう言った複雑な物は無い。
ただ、友情だけが光り輝いていたのだった。

       

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