Neetel Inside 文芸新都
表紙

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「ねえねえ、今度飲みに行かない?」
シナをつくった様な誘い。こいつこんなキャラだったか?
「合格祝いに奢るからさ、二人で行こうよ」
「合格祝いならさ、みんなで行こうよ。受かったの俺だけじゃないんだし」
「んー。そーだねぇ」
院試が終わって、俺も彼女も卒論研究が忙しくなった頃。度々の彼女の誘いを俺はことごとく断っていた。夏に遊べなかった分、仲間との約束でスケジュールはいっぱいだったし、合格祝いならみんなでやりたかった。

秋が過ぎて冬が来ると、卒論の大詰めで皆忙しかった。進学して研究室に残る俺たちと比べて、彼女は学会発表だとか追加の実験に終われて夜遅くまで残っているようだった。
「バイトあるからお先にー」
「お疲れ様ー」
そんなやり取りしかしない日すらあった。

春が近づいて卒業旅行は、研究室のメンバーで東南アジアに行ってきた。彼女は国内なら同行するとのことだったが、多数決で決まった海外旅行に意義を唱えることなく実験に勤しんでいた。
旅行から帰るとあっという間に卒業式で、段ボールに詰め込んだ荷物と一緒に彼女は去って行った。

一年半後、彼女は結婚が決まり、研究室のメンバーみんな二次会に招待された。ドレスを着た彼女はびっくりするくらいに綺麗で、屈託のない笑顔で挨拶をして回っていた。卒業後、一度もあって会っていない俺たちには特に話す事もなく、当たり障りのない会話が過ぎただけだった。

実は一度、彼女からメールが来たことがある。
「貴方にとって、あたしは一体なんだったの」
それだけの文面で、責めているのか悔いているのか判別はつかなかった。
「研究室の仲間だよ。他の皆と同じ」
そう返信すると、それ以来連絡はなかった。次は結婚式二次会の招待状だったのだ。

何故今さらこんなことを思い出したのかと言うと、今度先輩の結婚式があるのだ。どうやら彼女も出席するらしい。俺自身、結婚を考えている相手がいる。
あの頃を振り返って、どんな顔をして彼女に会うべきか。何を言うべきか。未だ決めかねている。

       

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