「さぁ、キミ達アクターの持つ変身道具すべてを、こっちへ渡してもらおうか」

――アクターズロワイヤル開始直前。ロングコートの男が体育館から飛び出た私たちに手をこまねく様にして指を折り曲げている。その芝居がかった気障な態度に舌打ちを浮べると「あ、あの人は!」なんてキタローが男を指差して知っているような素振り。他のアクター達も顔を見るなりざわざわ、ざわつき始めている。

 どうやら相手はTVなんかで顔の知れている人物らしい。「自己紹介は…する必要がないだろうし、キミ達の方がボクの事を良く知っているかもしれない」なんて自分の世界に浸りきったまどろっこしい言葉を並べているその金髪の男に私は声を挙げてやる。

「あなたがラ・パールから遣わされた刺客ね!うだうだ御託並べる前にまずは名を名乗りなさい!」
「ちょ、六実おねぇちゃん…」

 キタローを中心とした何か言いたげな表情のアクター達を背に男の顔を見上げると、彼は「フッ」と薄いグローブのはめられた指を顔の前に持ってって私をあざ笑うようにして言った。

「これは失礼。察しの通り、ボクは友人であるラ・パール会長アル・サティーヤの依頼を受けキミ達アクターが所持する変身道具を回収しにここへ参った。名は…リガノと名乗った方がキミ達には親しみが深いだろう?」

 自分の発言をかみ締めるようにほくそ笑むリガノという男に身構えるアクター衆。その敵意に気付いたように「おや?」とリガノは口許から手を離して鋭い視線を彼らに向ける。

「どうした?早くこちらへ渡してくれないか。ロワイヤル本戦へ出場できなかった敗者であるキミ達にはもう必要のないものだろう?」

 一歩こっちへ踏み込んだ靴を見て柳下さんがその主に返答。

「お前らの目的はこのベルト達に残された戦闘ログだ。これを基に新たな兵器を造り出そうとしている」
「ほう。何を根拠に?」
「六実さん!」

 制服のスカートから声がして取り出したコンパクトに耳を傾ける。真央さんの『あの男に変身アイテムを渡してはいけません!』と言うような声が中から幽かに聞こえる。

…そうだ。こんなあやしげな商売をして芸能界を橋渡りしてそうなヴィジュアル系おじさんのいう事なんて聞いちゃだめ。私は自身の変身アイテムであるコンパクトを体の前に出すようにしてその男に言った。

「ラ・パールがやってるVRシステムの開発中心人物。その人にあなた達がやろうとしている悪事を洗いざらい聞かせてもらった。真央さんが作ったシステムを戦争の道具になんかさせない!ラ・パールの野望は私たちがここで食い止める!」
「おー!いいでーインドマンの妹ー!」
「よく言った!六実おねぇちゃんかっこいいー!」

 私を囃し立てるアクター達を見てリガノはやれやれ、という風に首を振って少し後ろに立っていた二人の従者を呼び寄せた。

「どうやら武力行使を厭わない状況のようだ。チカラを貸してくれないか」
「うぃーす」
「…さっきから数えてたんすけど、相手は女子供合わせて28人っす!腕が鳴るぜ!」

 どこかやる気なさげな卑猥な形状の髪型をした男と頭の足りてなさそうな熱血漢を隣に並べるとリガノは長いコートを翻して腰に巻かれたドクロの付いた禍々しいベルトに指を掛けた。

「変身」

 黒い瘴気が湧き上がりそれが一所に収束するとその中から二本の太い角を生やした悪魔を髣髴とさせるアクターが姿を現した。

「最強のアクター、アフラ・ジロアスタ。キミ達28名からその『兵器』、貰い受ける」
「あ、数えなおしたら27人だったっす!」
「決め台詞なんだから黙っとけってー」

 かみ合わない3人のやりとりを見つつ、私たちも各自、アクターに変身。「なぜ、私が本戦に行けなかったアクターをここ一箇所に集めたんだと思う?」マスク越しのドヤ顔を見せてやると変身したリガノ、アフラ・ジロアスタは鼻を鳴らしてこう答えた。

「キミ達、ネズミの考えるような事は分からないな。ボク達にとっては各所を巡らずに手間が省けるが」
「ふん、そうやって人を小馬鹿にしてるからこんな目に遭うのよ!」

 先手必勝。素早く指で印を結んで足元の砂を蹴り上げ、私は夢幻の女神にこう願いを籠めて解き放つ。

「宙に舞った砂は煙幕になる!」

 相手が視界を失ったその瞬間、柳下さんの合図で総勢27人のアクターが3人の奪還者を取り囲む。「僕たちだってボンヤリここまで過ごしてきた訳じゃない。戦闘は数だよ!リガノさん!」勝ち誇るオクタアンクの声を受けて「ほう、やるじゃないか」なんてジロアスタは余裕をぶっこいてる。

「何がおかしい!貴様たちは完全に包囲された。今なら無傷で飼い主の下へ返してやる」

 声を挙げる柳下さんをせせら笑う二人の従者が変身を遂げるとその中心でジロアスタが兜の下から私達を眺め回すような視線を送り、答えた。

「キミ達は何か勘違いをしているようだ。そう、確かにこの場に現れた遣いのアクターは我々三名」
「な、ならこの数を一度に相手に出来るわけないじゃないか!」
「ボクのこのアクター、アフラ・ジロアスタの能力を説明しよう」

 敵からの突然の発言にどよめくアクター達。

「さっきはそこの娘に不意打ちを受けたが闘いに圧倒的実力差があってしまっては不公平だ。それにボクは100%勝つ」
「ふん。これだけの劣勢を前にか?お前たち、意に介すな。六実の合図でかかれ!」

想像上の死人イマジナリーゾンビ

 ジロアスタが体の前でパン、と手を合わせると身を屈めてその掌を地に押し付けた。紋章のような円が描かれ、その中からエクトプラズムのような煙が無数に空へと旅立っていった。

「ジロアスタは一度見た相手の技を習得して使うことが出来る。ただし、一度に複数の能力を発現する事は出来ない。よって」
「骨のあるヤツらは俺たちが引き受けるってワケだ!」
「はは。てか、その能力で全員のしちまいそうなメンツなんですけどー」
「おい、お前たちなんの話をしている…?ッ…!」

 次の瞬間、ライ&カメレオンの変身した柳下さんの背後から忍び寄っていた獣人のようなアクターが彼の右肩を貫くような鋭い牙で噛み付いてきた。

「な、こいつら、いつの間に…うわっ!」

 突如現れた謎の敵アクター集団の奇襲により包囲網が崩れるとジロアスタは立ち上がってその輪の中で目立つように両腕を広げてみせた。

「この町に住む住民を強制的にアクターに変身させた。この『想像上の死人』は周囲の人間を無差別に自分の兵隊に変えていく能力。そしてそれは他者へと感染して行き、能力を解除されるまで兵隊は増え続ける。そして彼らはボクに敵意を向ける人物を攻撃するようにインプットされている。アル・サティーヤが海外で見つけてきた貴重な能力だ」
「住民を獣人に…さすがっす!」
「ほらイブキ君、つまんない事言ってないで雑魚狩り、雑魚狩りー」

 一転攻勢、地の利を得た敵陣円が一気に私たちに襲い掛かってくる。「ぐわっ、やられた……ってあれ…?」ゾンビのような敵に敗北したアクターの一人が変身解除された途端、またアクターの姿に戻っていた。

 そういえば…普段であればアクターバトルの時に現れるあのドーム型の閉鎖空間の境が見当たらない。私の考えに気付いたのか、ジロアスタが勝ち誇ったように声を挙げている。

「ここに来る前に電脳空間を拡張しておいた。これは普段のアクターバトルとは違う、キミ達の人生の終焉を飾るフィナーレに相応しい特別な舞台。バトルフィールドはこの向陽町すべてだ。カードがゼロになるまで闘いを続けようじゃないか!」

 アクターとして繰り広げられるあくなき戦闘。私たちのアクターとしての最後の勝負。この町一帯を巻き込んだ負けられない血戦がここに幕を開けた。