Neetel Inside 文芸新都
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 俺達が通された部屋は、思いっきり有り触れた男子高校生の一人部屋といったところで、
本棚の上段に飾られたトロフィーの数々に彫られた名前が、部屋の主を表していた。

「じゃぁさ、従姉さん……俺も母さんと大河に、今日の結果報せに行くよ」

 俺達一人一人にジャケットをかけるようハンガーを渡してから、健太郎がそう言った。

「うん、そうしなさい。みんなには……?」
「良いよ、親父に作らせるから」

 そう、と返事をして蜜柑さんが部屋を出て……じゃぁちょっと失礼、と俺達にことわっ
て、健太郎が続いた。

「………」

 重苦しいワケではないが、健太郎が広げた卓袱台を囲むように腰を下ろす俺達の間に沈
黙が居座った。
 いたたまれず、何気なく部屋を見渡した。マンガ本、同人誌、机には参考書とパソコン、
トレーニング用具、ニトリのパイプベッド。確かによくある男子高校生の部屋だが……

「綺麗に片付いて……るね」

 井上さんがそう漏らしたように、健太郎の部屋は生活感が薄かった。ただ、確実に全員
が見て見ぬ振りをしている、隠されてもいない本棚のエロ同人誌は、自重を促したくなる
程の存在感と、そして現実感を放っていた。

「お……」

 枕元には、一枚の写真が貼り付けてあった。
 二人の少年。右手にグラブをはめた、身長に比べて大分手足の長い方が

「全然変わってない……でも、小さい頃だね。かわいい」

 井上さんが俺の横から、覗き込むように写真を眺め、感想を述べた。
 俺の指が、もう一人の少年……右打ちの構えでバットを持つ、横の健太郎より大分小さ
い少年を指す。ダボダボのユニフォームから、ニョキッと生える小さな顔は、何処と無く
健太郎の面影があるが、何処か違う感じがする。

「この隣の子が」

 井上さんがそう言いかけた時、ガラリと引き戸が開いた。何かの間違いかと思うくらい
にたくさん立ち昇る白い湯気に遅れて、健太郎が姿を現した。

「お!良い匂いだ!」

 健吾がいち早く反応した。帰ってきた健太郎は、湯気の昇る器を載せた大きなトレイを
抱えてきた。器の形、そして一瞬で部屋中に広がる匂いから、それが何なのか解った。そ
して、健吾の反応の鋭さから、それが彼の好物だという事もすぐに気付けた。

「お待たせさん。今、あとのラーメンと胡椒とかも持ってくるから……」

俺のすぐ脇、卓の傍らに膝を突いてまずは三人前、俺達の前に置いて健太郎は部屋を後
にした。

「………」
「おお……良い匂いだなぁ、チャーシューいっぱいだ!」

 残りが運ばれるのを待ちかねている様子の健吾。口数は少ないが、腹が減っているのだ
ろう、桜井もじっと器の中心を眺めている。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 井上さんが不思議そうにこっちを見ている。俺はお腹空いたね、と適当な事を言ってから

「今、健太郎……」

 俺の横にきた健太郎から、醤油ラーメンの匂いに雑じってかすかに……線香の香りが漂っていた。

       

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