Neetel Inside 文芸新都
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 若干シャッターの目立つ、有り触れた商店街の昼下がりの風景に、一際アクセントとな
っている派手な暖簾が見えた。

「前田メーン……」

 看板にグラフィティアートと共に書かれた店名だ。店内からはスネアドラムのよく効い
た……スヌープ・ドッグのBGMが聴こえてくる。

 ガラガラと音を立て、引き戸の向こうから臨めた風景は、BGMにたがわず薄暗い店内に
浮かび上がるように光るZIMAのネオン看板が目立つ……等間隔に並べられたテーブルが
無ければ、どちらかと言えばマニアックなCD屋にしか見えない様子だった。

「あれ……スティービー・ワンダーだ」

 ファンクなこの景色が自然なモノに見えてくるのは、俺に耳打ちした健吾が視界にいる
からか。壁には数々のアナログレコードのジャケットが飾ってある。

「いらっしゃ、健ちゃんだ……おかえり!」

 カウンター越しにわずかに窺えた、タオルを巻いた額から威勢の良い女性の声が飛んで
きた。暗いので小さなバスケットボールにも見える頭の主は、パタパタと足早にカウンター
から出てきて、サロンの前を軽くはたきながら俺達の前で立ち止まった。

「ただいま、今はアイドルタイム?」

 店内を見渡して、健太郎が女性に訊ねた。
 屈託の無い笑顔で俺達の前に立つ女性は、カウンター越しで顔が隠れるように背が小さ
く、比較的に度の低い赤縁のメガネをかけた、可愛い人だった。

「おじさんが、菜々子さんと話してる」店の奥の扉を一瞥して「で、試合はどうだった?」
女性が訊ねた。

「まぁまぁ、だね」

 そう答えて、健太郎が俺達に顔を向けた。

「従姉の蜜柑姉さん。うちで働いて貰ってる」
「健ちゃんからいつも聞いてます、よろしくね」

 彼女の浅いお辞儀まで見届けて、頭が状況に追い付いた。ここまでナチュラルに物事を
運ばれていれば分かる。というか奇抜過ぎた店の名前すら、いつもの健太郎を知っている
だけあって何かのネタとしか思わなかった。

「健太郎の家って……ラーメン屋なのか」

 内装にまったく説得力がないと感じているのが俺だけではない事が、井上さんや桜井の
顔を見てよく分かった。


       

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