Neetel Inside ニートノベル
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 気がついたら雪山の山荘にいた8人。
 だれもが記憶を失っているらしい。
 そこまでの情報交換はすぐに行われた。
 逆に言うと、ここがどこなのか、どうしてみんながここにいるのかなど、有効な情報はどこからも得られなかった、と言うことだ。

「なあ、あのドアの向こうは何なんやろ?」
 どんよりした空気を破るように、カラッとした声でユイがそう言った。
 ユイが指差したのは外が見えるドアの反対側にある、両開きの扉。
「うむ、あの扉の向こうに何があるかは、だれも知らないのだな?」
 悠が少し偉そうな態度でそうみんなに確認した。
「興味深いですわね」
 あくまでお嬢様っぽい態度で、梨里がそう言った。
「よ、よし、みんなで確認してみようぜ」
 みくにに対して格好いい態度を見せたい賢一が、話に乗り遅れまいとそう発言した。

 そのドアの向こうは、埃っぽい部屋だった。部屋の両側が棚になっていて、雑然といろいろな物が放り込まれている。
 そして部屋の中央にテーブルが有り、その上に小型のトランクが乗っていた。
「なんや? 札束とか入っとるんかな?」
 ユイが無邪気な感想を言った。
 ちっ、とすいかが舌打ちした。
 それとなくすいかの方をうかがうと、彼女は茶色の短い髪をワシャワシャと片手で掻いていた。ユイの態度にイライラしているのだろうか。
「ふむ、ではこのトランクから開けて見るとするか」
 悠が率先してトランクの前に立つ。
「危険はないのか」
 ふと、今まで発言の少なかった豪が、低い声でそう言った。
 トランクに手を伸ばした悠の手が止まる。
「なにか危険があるというのか?」
 悠が振り向かずに、手を止めたままそう聞いた。
「……知らん」
 豪はぶっきらぼうにそう答えた。

 危険は、あるかも知れない。
 賢一はそう思った。
 なにしろ未だに状況はよく分からない。
 なぜ自分たちはここにいるのかさえ。
 これを仕組んだのが犯罪者だったら、自分たちに向けられた罠があることもあり得ると思った。
 トランクに開けたれた瞬間爆発するような罠が仕掛けてある可能性も?
 賢一はさりげなく、みくにのほうをみて、それから彼女の前に立った。
 トランクが爆発した場合、みくにを爆風から守れる場所だ。
「あの」
 みくにが不安そうな声を出した。
「大丈夫だと思うけど」
 賢一はみくにに背を向けたままそう言った。
 みくにが自分のことを頼もしいと思ってくれないかな、とかそんなことを考えていた。
「危険の可能性を指摘してくれたこと、感謝する」
 悠が一呼吸後にそう口にした。
「しかし、これを開けないで放っておいても仕方ない気がする。私はこれを開けるぞ」
「大丈夫……かな……」
 不安そうな声を出したのは幸宏だった。
 ちらっとそちらを見ると、彼は不安そうに爪を噛んでいた。
「開ける!」
 悠はその言葉と同時にトランクを開ける金具を動かした。
 カチッと言う音。
 もしもこの部屋ごと吹っ飛ぶような大規模な爆発が起きたら、自分がみくにちゃんの前に立ってることなんて意味が無いな、と賢一が思い至ったのはこの瞬間になってからだったが、とにかく爆発は起きなかった。
「これは!」
 悠がそれだけを口にして息を呑む。
「何だったんだ?」
 賢一は乗り遅れまいと横からトランクの中を覗き込む。
 そしてやはり息を呑んだ。
「なになに? 何やったん?」
 ユイが待ちきれないといった感じでそう言った。
「……見てくれ」
 悠がトランクを開いている状態で抱えて、皆に見せた。
 そこには8丁の拳銃が入っていた。

「なにこれ! ピストル? ピストルなん?」
「そうみたいだけど」
 賢一が答えた。
 ただ、妙に小さい。
 映画などで見る拳銃の半分程度の大きさしかなさそうだ。
「拳銃型の……何かということはないでしょうか?」
 みくにがおどおどとそう言った。
「誰か、こいつを調べてみるか?」
 悠がそう言ったが、すぐには誰も反応しない。
 数秒の間、重い空気が流れる。
「俺様が見てやらあ」
 すいかがそう声を上げた。
「む、君か! う、うむ、頼もう」
 悠は少し戸惑ったようだったが、すぐにトランクを彼女に向けて差し出した。
 すいかは怯えたようすも見せずにその拳銃の一つを手に取った。
「弾入ってるのかな」
 すいかは銃口を覗き込もうとする。
「あ、あぶないよ、銃ってのは暴発することがあるんだから……」
 弱々しい声で警告したのは幸宏だった。
 心配そうに彼女に向かって中途半端に手を伸ばしている。
「あっそう。でも弾が入ってるかどうか知りたいんだけど。これパカっと割れるんじゃないの?」
 すいかは右手で銃のグリップを握り、左手で銃身を下にさげるような感じで力を加えている。
「ど、どこかの金具を押してから、逆方向に動かすんだと思う」
「そうなのか?」
 幸宏の言葉を聞いて、しばらく悩んでいたすいかは、銃身が上に持ち上がることを発見することが出来た。
「こうか! で、これはどこに弾が入るんだ?」
「銃身に入ってなければ、ないと思う」
 相変わらずおどおどとしている幸宏。
「よく分かんねえな。お前詳しそうだな、代わりに見てくれよ」
「え」
「ほいよ」
 すいかは幸宏に銃を押し付けた。
「あ……うん、弾は入ってないよ」
 手にとってちらっと見ただけで、幸宏は答えた。
「その幸宏君だったか、君は銃に詳しいのか?」
 悠が感心したように言った。
「そ、そんなに詳しいわけでも……」
 幸宏は言葉を濁した。
 喋るのが苦手なのかな、と賢一は思った。

 調べてみた結果、どの拳銃にも弾は入っていない事がわかった。

「あの、とりあえずこの部屋を出ません?」
 そう言ったのは梨里だった。
 まだ調べるところがたくさんあるのに、と賢一は思い、梨里の方を見た。
「埃っぽいんですもの」
 梨里は嫌そうに眉をひそめていた。
「うむ、しかし、この拳銃はどうしよう」
 悠は意見を求めるように皆の方を見た。
「とりあえず持ってここを出よう」
 賢一が提案すると、反対するものはいなくて、そうすることになった。

 中央の、十の扉がある部屋での話し合いで、全員が一丁の拳銃を持つことになった。
 強い理由があってそうなったわけではなかったが、
「これはもしかして、俺たちがここに閉じ込められてる謎を解く鍵なのかもしれない」
 賢一が何気なく言ったその言葉がなんとなくみんなに受け入れられて、それならば全員が一つずつ持つのが良いのかもしれないという結論になった。

 しかしとにかく。
 あの倉庫のような部屋はまだ詳しく調べていないが、一つ言えることは、あの部屋にはドアのようなものは一つもなかった。
 つまり、情報を総合すると、この山荘には外に出るためのドアは一つもないのだ。
 あの、5センチしか開かないドアを除けば。
 そのドアを5センチ以上開く方法は、まだ見つかっていない。

 賢一が色々なことを考えていると、ふいに梨里が口を開いた。

「この8人で殺し合いをしろというのかしらね?」

 みんなが一斉に梨里の方を見た。

       

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