Neetel Inside ニートノベル
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「いきなり何を言い出すんだ、君は?」
 悠が咎めるような調子で言った。
「あら、そんなに突飛な発言でしたかしら?」
 梨里が微笑みながら言った。
「私たちは何者かによってここに集められた。しかも皆記憶がはっきりしない……異常ですわ。私達を集めた何者かの意図が、平和的なものという証拠もありません。さらにどうやら本物と思しき拳銃まで出てきました。不吉な想像をしてしまうのも無理なからぬところですわ」
「いや、しかし言うに事欠いてだな……」
 悠はそう言ったが、その続きを思いつかなかったのか、口を閉ざした。

「俺達以外の何者か、なんているのかな」
 賢一はつい、思っていたことを口に出してしまった。
「あら、どういうことかしら?」
 梨里が賢一の方を見て、言った。
 ここに来て賢一は、さっきの発言はまだ言わないほうが良かったかと思ったが、もう言わないわけにはいかなかった。
「犯人は、この中にいる……って言うパターンもあるかな、と思った」
 正直に考えていたことを言った。
 よこで、みくにがショックを受けたように両手で口を覆っていた。
「え……この……中に?」
 幸宏はかすれた声で言った。
「あの人狼ゲームをほのめかすようなメッセージ、あれは、この中に犯人がいるって事を言ってるんじゃないのか?」
 毒食わば皿までという気分で、賢一は喋り続けた。
 本当は今考えてることをべらべら喋るのは得策ではない、という可能性はあったが、今は発言したかった。
「あの」
 賢一のそばにいたみくにが、おずおずと手を上げた。
 皆の視線がみくにの方に集まる。
「人狼ゲームって、どういうのなんですか? わたし、詳しく知らなくって」
「ああ、ウチもよく知らんわ」
 みくにの言葉に、ユイがうなずいた。
「ええと……元はパーティーゲームなんだけど、推理ゲームとして楽しむ人も多いかな……参加者に最初に役職カードを配って……」
 賢一はみんなに人狼ゲームの大まかな説明をした。
「うーん、人狼ってのがオオカミ男で、夜になると人間を食ってしまうんやな?」
 ユイが確認の質問をした。
「そう」
「そんなら人間はどうやってオオカミ男に勝つのん?」
「『昼時間』の間に全員で話し合うんだ。誰が人狼なのかを。そして一番怪しいということになった一人を……」
 賢一は一瞬言いよどんだ。
 女の子に(みくにちゃんに)聞かせるにはショッキングな言葉かと思ったからだ。
 しかし言った。
「吊るす……つまり、処刑するんだ」
 空気が重くなった……気がした。

「へっ」
 すいかが彼女らしい不敵な笑みを浮かべた。
「そうやって人間と人狼が殺し合うってわけだ、それが……」
「ちょっと待ってや」
 すいかの言葉をユイがさえぎった。
「どうやって誰が人狼か、怪しいか分かるの?」
「人狼ゲームには、必ず『占い師』って言う役職が入るんだ」
「それは?」
「夜の間に誰か一人を『占う』事ができる。『占う』と、その人物が人狼なのかそうでないのかを知ることができるんだ」
「ふーん」
 ユイはそれを聞いて考えるような仕草をした。
「ふむ、で、その、なんだ。我々をここに集めた人物を仮に『犯人』と呼ぶとしてだな」
 口を開いたのは悠だった。
「その、『犯人』は、何を考えてるんだろうな? 何が狙いなんだろうな?」
 みんなが口を閉じて、しばし沈黙が場を支配した。
「僕達が……」
 豪が唐突に喋りだした。
「疑心暗鬼になって、お互いを殺し合うのを見物しようとしている……のかもな」
 いかつい顔で無口な豪が「殺し合う」って言葉を発すると、はっきりと場の空気が重くなった。不気味だった。
 みくにが、賢一の服の袖をキュッとつかんだ。
 やった、俺、頼りになると思われてる。
 表情に出さずに心のなかでほくそ笑む賢一だった。
「うむ、それがもっともらしいな」
 悠が、場をまとめるように大声で言った。
「であれば、我々としては、みなを信頼して、ここから脱出する事だけを考えるべきだな」
 誰もその言葉に返事をしなかったが、特に反対意見を持つものもいないような雰囲気だった。
「なあ、この部屋寒くない?」
 ユイが不意にそう言った。
「少し寒いわね」
 梨里が同意する。
「ふむ、では今日はみな休むことにするか?みなそれぞれの部屋があって、ベッドがあるって話だったよな?」
 悠が確認する。
「ストーブもあったで!」
 ユイの言葉に、みくにがうなずいた。
「では今日は解散して、各自の部屋に戻ることにするか。明日朝になれば多少は気温も上がるだろう、それから調査でもするか」
 悠がまとめにかかった。
「あ」
 みくにが何かに気づいたように声を出した。
「何?」
 賢一が聞くと、みくには少し嬉しそうに、
「人狼ゲームでは夜になる前に、その、容疑者を一人決めるんですよね? それでその人にいなくなってもらう……。だとすれば、わたしたちが今、容疑者を決めずに解散すれば、それは人狼ゲームじゃないってことになりますよね?」
 少し意味の分かりにくいことを言った。
 ようするに、自分たちが人狼ゲームの状況にいるかもしれないのが怖いのだが、今ここでだれも吊るさなければ、これが人狼ゲームであるという呪縛から逃れられる、そういう考えのようだった。
「いや、まあ、人狼ゲームでも、だれも……吊らないこともある、一日目とかには。それを許さないルールでやる場合もあるけど」
 賢一はつい自分の知識を披露したくなって、正直にそう言った。
「そうなん?」
 ユイがその話題に興味を持ったようだった。
「うん、一日目にはだれが人狼なのかの情報がないから、だれかを吊って、それが『占い師』だったりすると困るから、誰も吊らないって選択が許されるルールもあるんだ」
「なるほどー。それはいい手やな」
「あまりいい手じゃないと考える人もいるね」
「何でなん?」
「人狼を……その、殺すには、話し合いと投票で『吊る』しか手段はない。その貴重な権利を一回失うことになるから、かな」
「もういいだろう?」
 ユイと賢一の話を、豪がさえぎるように口を出した。
 彼も寒くて早く自分の部屋に帰りたいのかなと賢一は思った。
「ふむ、今日はもう解散にしよう」
 悠がそう言って、話し合いの時間は終わった。

 賢一は自分が目覚めた部屋に戻り、ベッドに入るとすぐに眠りに落ちそうになった。
 眠りに落ちる前に、少しだけ、これが命を賭けたデスゲームなら、だれが最初に殺されるのかな、と妄想をした。
 幸宏の顔が思い浮かんだ。彼のことを詳しく知ってるわけじゃないが、気弱そうで大声でしゃべらない彼は第一の被害者にふさわしそうに思えた。
 やがて賢一は完全に眠りに落ちた。

 賢一の部屋ではない、ある個室。
 その部屋の主である人物は、手に持ったプラスチック製のカードを操作していた。
 そのカードはダイヤルのようなものが仕込まれていて、ダイヤルを回すと、カードの表の小窓に名前が見えるようになっていた。
「賢一」「すいか」「幸宏」「ユイ」「豪」「梨里」……。
 やがてその人物は、ダイヤルを「賢一」に合わせて、それをテーブルの上に置いた。
「ふむ、これでいいか」
 そう独り言を言った。

 十の扉がある、中央の部屋。照明は消えていて室内は暗い。
 その部屋に一人の人影があった。
「にしし」
 その人物は妙に陽気な笑い声をこぼした。
 右手を軽く降ると、ジャキンという金属音が鳴った。
「こっちかな」
 そう言って、その人物は一つのドアを開け、個室につながる廊下に足を踏み入れた。

 朝になり、中央の部屋に集まった七人は、賢一がなかなか姿を表さないことを不審に思った。

       

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