身も凍る冷たさ。
月日は経っていく。
エンドレスに繰り返される毎日を過ごしていると、これがいつまでも続くのではないかと錯覚してしまうほどだ。
そんなことはない。すべてのものはいつか終わりを告げる。
今日はそんないくつかの終わりの中の一つを迎える日だ。
少女はもう限界だった。俺のことを抱きしめて離さない。汗でびしょびしょになったシャツと下着、ホットパンツを身につけ、俺の肩に手を置き寄りかかる様にして呼吸を整えている。整うことはないのだが、それでも俺は特にその行為について言及しない。フーッフーッと獣の様に息を吐く彼女はここ数ヶ月間、ずっとこんな感じだった。
半年以上もの間、断続的な快感だけを与えられ続けながら絶頂へは決して辿り着けず、ただ身体の機能として生き続けるのはどういう気持ちなのだろう。精神はまだ狂ってない様だ。かろうじてだが、それが一番辛いのだろうな。彼女は一度、俺にナイフを懇願してきたことがある。その時に言っていたのは、どうせナイフでイケなかった場合は最後の希望が潰えた事により気が狂うだろうからさっさととどめを刺して欲しいとのことだったが、俺は気が狂わなかった場合なんの希望もないまま残りの数ヶ月をその欲求不満を抱えたまま生きなくてはならなくなることを伝えた。それもこれから君の存在が消えるまで解消されることなく、不満なままいなくなってしまうのだ。この世からまっさらに。それを聞いた彼女は堪える様に、少しずつ悦楽の表情を浮かべた。彼女にとっては絶望感すら甘美な刺激なのだ。いや、今の彼女にとっては心を抉り取る責め苦に値するのだろう、ナイフには結局手が出せなかった様だ。
彼女はこれまでの間、素っ裸なのまま自慰行為に没頭するか、突如として襲ったパニック的な恐怖により与えられた快感を処理するためジタバタと暴れるか、脳をわずかな間でも休ませるためボーッとしていたかと思うと急にまた快感が襲ったらしく机に突っ伏しその快楽と戦っていたり、それぞれの方法で過ごしていた。
そしてついにこの時が来た。
彼女は俺の体にもたれかかりながらついて来る。汗やその他の体液でベタベタになった服を脱ぐとへたりと床に崩れ落ちた。
血がついても大丈夫な様に開けたフローリングに移動したのだ。彼女はもう死んでいるのかもしれない。生きているとはどういうことなのだろう。俺の心にも少量の変化があった。
彼女がダメになってからの当初はうるさく、コミニュケーションが取れないなら存在意義がないじゃないかと多少の暴力を振るい快楽でいじめてみたりしてたが、途中から同情でも哀れみでもなく、彼女のことをサポートすることに回った。
なるべくナイフによる衝撃を薄めないよう、バイオレンスなことからは遠ざけ、優し目のセックスだけを与え、彼女ができるだけ最後の日にイケるよう整えた。
俺は彼女がどうしても耐えられなくなり自分で勝手に刺さないよう、隠しておいたナイフを取り出し、彼女の方へ歩み寄る。なんとか思い出して用意しておいた服を身に付け、あの日にできるだけ近づけた。
彼女は床に寝そべり浅く呼吸を整えていたが俺の方を少し向くとそのナイフを認識して体を揺らした。言わずとも床に寝そべり、ビクンビクンと跳ねる腰を浮かせ突き出す。彼女の体は自己治療機能が備わってるため常に弄くり回していたはずの股間部も綺麗な形状のままテラテラと光っていた。
俺は見慣れたその景色になんの感慨を抱くことなく、ナイフを取り出すと床に倒れている彼女に向かって
「これでイケなかったらどうする?」
と尋ねた。
無表情だった彼女は目を見開いたと思うとすぐに泣きそうに顔を歪めた。その顔もすぐに快楽に塗りつぶされる。俺はその瞬間を待たずにぶすりとナイフを突き刺した。柔らかい腹部にはナイフが抵抗なく深々と刺さる、彼女は絶叫をあげた。この日のためにできる限りの防音設備を建てておいたが、それでも近所に響いてそうな声だ。今までも大丈夫だったしこれも別に問題ないとは思うけれど、実際にはどうかわからないし。まぁなんにせよ、警察が来る頃にはここに被害者はいないのだが。
彼女に突き刺したナイフが柄の部分まで達すると俺はすぐに抜いてまた深く突き刺す。
それを何度も何度も繰り返す。あの日みたいに何度も何度も。
彼女はまさに恍惚の笑みと残虐な苦しみの狭間で泣きじゃくりながらに咆哮を繰り返す。あまりに激しく唄うのでごぼごぼと血を吐き出した。内臓もナイフでズタボロなのだ。彼女はそれでも『もっともっと』と泣き叫ぶ。まだいけてないのだ。当たり前か。俺は最後のとどめとばかりに足のくるぶしあたりからズタズタとナイフを差し入れ腱の部分を引き裂くようにして刃を入れながら股の部分に突き進んでいく。丸見えの筋肉がグルングルンと激しくのたうち回り彼女もぶぐぐぐぐぐと真っ赤な泡を拭きながら絶叫する。とても可愛らしい顔なのに、その辺のアイドルや女優、モデルなんかと比べても謙遜ないどころがトップレベルの顔なのだ。顔だけは。そんな彼女は今全裸で全身ベタベタのまま目を見開いて口から真紅の泡を吹き出し獣のような雄叫びを上げ続けている。呼吸のできない口から、なおも血液を吐き出しむせ返しながらも醜く酸素を求め、生きようとする。腰をガクガクゆらす。尿やそれ以外の液も垂れ流しながら体をくねらす動きと合わせ、俺はナイフが抜けないように足から股の間の女性の部分へ滑り込ませる。
ぐううううと一段と高く吠え彼女はキュウッと丸くなろうとする。筋肉の伸縮は激しくなりながらも暴力的な感覚にどうしようもなく逃れられない苦痛に対しどうにか対応しようとする。なるほど。どうやら、絶頂には達せたようだ。よかったな、と思いながらも俺はそれで終わらせるつもりはなかった。そのまま俺はナイフを捻り掻き回し徹底的に破壊し続けた。彼女は今まさに絶頂のド真ん中にいながらなお与えられる強烈な刺激に動揺し、こちらの動きに抵抗しようとしたみたいだが、今までの欲求不満によるある種の麻薬による無茶も終わり、オルガズムによってこれまですべての身体の疲労が襲いかかっているはずだ。それによる苦痛も快楽へと変換され彼女は体は一切動かせぬまま、ただ脳を使わない肉体的な生理現象としての痙攣を繰り返していた。俺はそんな彼女の性器をぐちゃぐちゃに掻き回し続ける。
彼女はもう何がなんだかわからなくなっていた。俺はそのままその奥にある彼女の女性としての組織を目指すべくお腹を開き子宮を外側から見えるようにするとナイフを何度か突き刺しある程度形が崩れるとそのまま開いたお腹をぐるぐると掻き回した。
彼女はもう無理だった。この快楽の処理をするだけの脳のスペックはなかった。
数分、数時間経っても彼女は血とその他たくさんの液体の中ビクンビクンと痙攣を繰り返すだけの肉塊と化した。こうして彼女は初めて狂うことができた。自分が消えることを認識せずに済んだのは幸福だよな、と思った。
ただ吠え、絶頂を繰り返すだけの彼女を眺め俺は今までのことを思い返した。もう言葉はいらないなと思った。そういう意味でもこの別れに後悔はなかった。
その後すぐにフードの者が現れた。
彼?はズタズタに掻っ捌かれて、なお快楽により痙攣する彼女を一瞥すると、俺に向かって「色んなことをされているのを見てきましたが、ここまで壊したのはあなたが初めてですよ」と皮肉とも取れる言葉を残し、体の前だけを広げると血と彼女とが同じように吸い込まれていった。彼の体は小さいにもかかわらず引っかかることなく全てが綺麗にスポッとその中へと消えていった。
そして、俺に向かって「これであなたの苦しみが少しでも和らいだことを願います」とどこまで感情を込めているのかわからないようなセリフを吐き、ドアの向こうへと消えていった。なんの汚れも残さず消えたので、今この空間には俺だけが残った。
家族と暮らした部屋。
あの女がいた部屋。
どこもかしこもなんの形跡もなかったが、俺の中ではどちらの方が強く印象に残ってしまったのだろうと考えた。
暗闇で俺は一人、これから先はどんな思い出がこの部屋に積もるのだろうと思いに耽った。