薄暗い部屋の中、タイピングの音とクリック音が延々と続いていた。
作業は昼下がりに始まったが、日が沈んだ今も終わる気配は見えない。
ディスプレイの前に腰掛けた男は、目の前の画面が部屋の中で唯一の光源となったことに気付くと、伸びをするついでに電灯のリモコンに手を伸ばした。
数時間ぶりに明るさを取り戻した部屋の中で、男はまた画面へと視線を戻した。
画面に写されているのは、書きかけのレポートと、いくつかのwebサイト。
キーボードの脇には、週刊誌の山。
webサイトや週刊誌の見出しに載っているある文言は、また彼のレポートの題材でもあった。
青少年連続失踪事件。
各地で、何の変哲も無い青少年達が、ある日を境に忽然と姿を消していくという異常事態に付けられた呼称である。
全国的、同時多発的に起こったそれは、事件というよりは現象と呼ぶべき代物であったが、いずれにせよ、この現代に蘇った神隠しは、世間の大きな関心事の一つとなっていた。
「ダメだ、さっぱり分からん。まぁ素人のやってることだしなぁ……」
そう言って溜息を漏らす彼の目的は、この現象の真相を探る事であった。
彼自身はジャーナリストでもなければ学者でもない。
時間を持て余した、どこにでも居る一人の学生である。
その一学生が、課題でもないレポートに取り組んでいるのには些細な訳が有った。
一月前、彼の友人も失踪したのである。