Neetel Inside 文芸新都
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「無限小の不定点」


あまりに多くの堅固な壁が
わたしの生存を阻んでいるのは、
あまりにぎごちなく触れてきた全てが
あるがままでいることをやめてしまったから

あまりに静かで場違いな喧騒が
こころの表層をかすめてゆくとき
遠くのものはいっそう遠のき
近くのものは実体をなくす

わたしは
無限小の不定点
平面上を浮動する一点、
瞬間と瞬間とのかすかな繋ぎ目に
爪先をひっかけ、ぶざまに倒れ伏し
そうして時間の移行に乗り遅れたわたしは
どこまでも扁平な平面上の一点として
雄々しく悠然と立つすべてのものに
みにくい羨望の目を向けつつ
身のおきどころなく
たゆたっている

わたしの
意識を重たげに背負う
くたびれた二匹のロバがいて、
彼らは履きつぶされたスニーカーを
乗り物代わりにして、交互に、盲目的に、
進んでゆく、あのすでに見慣れた未開拓地で
だれが振り下ろすともしれぬ鞭の先が
このくたびれた二匹の連れ合いを
わけもわからず急き立てるなか
すでに見慣れた未踏の荒野で
わたしは、小さくなって
しゃがんでいる


と雑踏へ
分け入るごとに、
わたしの居場所は
消えていく
わたしは
無限小の不定点、
平面上の中継点、
垂直である生死の昇降と
水平である地上の自我との
まるで自覚のない
接点



(2020/3/9/Mon.)

       

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