Neetel Inside 文芸新都
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「黄昏の敗残兵」


せまる夕闇を生きのびようとした
最後の陽ざしの一部隊がいま
悲鳴を上げて消えていく。
鉛のような溜め息のあいだで
ビルの影に隊伍を寸断され、
誇るべき陣地、頼るべき兵站も
まもなく退く、街の稜線のかなたへと

見るがいい、このざまを。星明かりの遊撃兵め
俺はついに指揮官を失った!
燃えあがる落日の遠い荘厳さ、
あれこそわれらの故郷であった……
そして看取れ、一足先に
闇に呑まれた救護兵よ
おまえの形見、青一色に広がるはずのあの凱歌すら
淀んだ時の川のぬかるみに
俺は迂闊にも落としてきてしまった……

ああ無名戦士たちの昼の栄光は
ただ燃えかけた軍旗に刻まれるのみ。
塹壕めいた裏路地の口に
銃架のごとくに突きたった電柱が、
硝煙と静けさ、徒労の感じのただ中で
いまも身動きが取れずにいる

おそらくそれは墓標であった。
星の数ほどくりかえされてきた
よりどころない希望と幻滅のサイクルの
ひとつひとつに意味をくれようという
気のふれた試みに寄せる墓碑。
あらゆる努力を無化させるという
空漠たる黄昏の風のほかといって
弔うものとてない霊園

だが奇妙じゃないか――やがて見えてくるのは、
あの全滅の空の闇のすそのを
横切る光のひとかたまり。
願いのあわは砲弾となって
勝ちどきは儚い電文となって
おだやかな夜空を切り裂きながらも
着地の当てなく、あなたのうえを彷徨っている


(2020/1/5 Sun.)

       

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